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第二章 日常のようで非日常
謎多き種族
しおりを挟む日が落ちた街は当然の如く活気が無い。
あるとすれば、仕事を終えた冒険者がどんちゃん騒ぎをする娯楽街ぐらい。
良い子はベッドでスヤスヤと可愛らしく寝ている時間だ。
そんな良い子の為に、等間隔で設置された外灯は家の中に射し込まないよう配慮されている。
光を発している部分が成人男性の手と同じぐらいの大きさなのもその為。
この国は子供に優しい。
他のどの国よりも、圧倒的に。
そんな慈悲深い国の一角で、布と地面が擦れる音が断続的に響いていた。
台車を遣わずに重い荷物を引きずっているような、そんな音。
「……いい加減自分の足で歩かんか!こちとら七十近い年寄じゃぞ!」
我慢の限界に達し、掴んでいた尻尾を地面に叩きつける。
体を伏せた状態で微動だにしない二匹を見下ろす。
「ネロちゃーん」
「……ネロ」
さっきからずっとこの調子。
捨てたられた子犬のような瞳で、数分前まで自分たちがいた家の方を見ている。
どうやら狼族サイズになった上位怪狼族達はあいつを溺愛しているらしい。
「……はぁ」
聞こえるように溜息をつく。
しかし、石造りの道を爪とぎするように引っ掻いているだけで動く気配は無い。
「早く歩かんと帰りが遅くなるぞ。あやつ、待ちきれなくて寝てしまうかもしれんのぉー」
「シンさん。早く行きましょう」
「行先はギルドか?」
“単純”という言葉が頭に浮かぶ。
ネロの両親のように、こやつらも好いた相手には尽くすタイプのようだ。
血は繋がっていないとはいえ、ネロもその気がある。
儂も含めて、人族という種族は似た者を引き寄せてしまうものなのかもしれんな。
「おい!年寄を置いていく奴がどこにいる!」
「残念ながらここにいますねー」
「ギルマスよ。速度を上げてもらえるだろうか?」
「ぐぬぬ……抑えるのじゃ。相手は餓鬼。クソ餓鬼じゃ」
手を強く握りしめ、唇を噛んで何とか感情を抑え込む。
「シンさん、足短いんじゃないですか?」
「殺す」
「ぎゃあぁぁぁぁぁ」
タキトゥスの叫び声が静かな夜に響き渡る。
二匹は口を半開きにし、涎を垂らしながら必死に四肢を動かして走っていた。
「なぜ俺まで?」
「俺達一心同体だろ、兄ちゃん!」
「すまん。吐き気を催した」
オネストがスピードを落として儂の横に並ぶ。
俺は何も言っていないからな、と目で訴えてくる。
心配は無用だ。
あと数年で七十といえ聴力はまだ衰えていない。
「タキトゥスゥゥゥゥ!」
「ぬあぁぁぁ!オネストの裏切り者おぉぉぉ」
神獣である上位怪狼族を追いかけるなど夢のような体験だというのに、ちっとも嬉しくないのはこやつらが生意気だからだ。
こんな若造共を崇め奉る必要はない。
「止まらんとギルドに一生閉じ込めるぞ!」
「ひいぃぃっ!止まります止まります。足短いと言ってすみませんでした!勘弁してください!」
丁度ギルドの前についたところでタキトゥスは止まった。
「全く。生意気な餓鬼じゃ。しっかり反省せぇ」
頭を下げているタキトゥスの背を強く叩く。
「いでっ!オネストぉ……」
「擦り寄るな。自業自得だろ」
フンッと息を吐いてからギルドの扉に手を掛け、嘘泣きをしているタキトゥスを横目で見やる。
自分のペースで歩こうとしていた儂を無理矢理走らせた上位怪狼族。
驚異的な戦闘能力と知性を持つ神獣。
だからこそ、裏があるのではないかと考えてしまうのは、儂の思慮深さ故なのか。
上位怪狼族……謎多き種族であることに違いはない、か。
「何をしておる。さっさと入らんか」
「……はーい」
「今行く」
二匹が中に入ったのを確認し、扉の鍵を閉めた。
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