人間の俺は狼に抱かれている。

レイエンダ

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第三章 いざ、ロピック国へ

可愛いわがまま

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「こちらでございます」


 宿に着き、肉付きのいい人族ヒューマンの女性が案内をしてくれた。
部屋割は俺とタキトゥス達が同室で、エヴァンは隣。真面目な彼は今頃荷解きをしているに違いない。


「設備は整っておりますので、ごゆっくりとお過ごしください」


 深々と頭を下げて部屋の扉を閉める女性。三人になった途端に騒がしくなった。


「うっひょー!広くね!?広くね!?ベッドもキングサイズだし、バルコニーも広いし、なんなんだよこれ―!ネロちゃんの家の何倍だ!?」


 主に一人が。


「タキトゥス様。はしゃぎ過ぎると転びますよ」
「大丈夫大丈、ぶふぁっ!」


 自分の尻尾を追いかけるように回転していたタキトゥスは、カーペットの端に前足を引っかけて顔面から盛大に転んだ。
 柔道の受け身のように頭をしまって綺麗に前転する。仰向けになって終わるかと思えば、勢いがつき過ぎていたのかもう一回転してから止まった。


「俺の最高にかっこいい顔が……」


 前足で顔を抑えながら尻尾をばたつかせ、同じ言葉を繰り返しながら悶絶していた。


「もっと男前になったかもしれんぞ」


 寝転がるタキトゥスをわざと踏みつけ、ベッドに飛び乗った。


「いってーな!踏むなよ!」
「悪い。カーペットかと思った」


 悶えていたタキトゥスが勢いよく立ち上がり、後に続く。二人でベッド上を飛び跳ねながら、互いを追いかけまわしていた。
 尻尾に噛みつこうとするオネストと、背中に飛び乗って押し潰そうとしているタキトゥス。実家で買っていた犬も、こんな風にじゃれ合っていたな。

 ベッドの側に荷物を置き、端に手をついて腰かける。肩越しに二人の様子を伺いながらも、頭の中は先ほど自分の身に起きたことを思い出していた。
 きっとあれは、本来やらなくていいものだったに違いない。身体検査がというわけではなく、中を確認するという行為が。去り際に見えた男の厭らしい顔が頭に焼き付いて離れない。

 人魚さんから与えてもらった容姿のおかげか、日本では相手にもされていなかったというのに、この世界では言い寄られることが多々あった。でもそれは言葉のみで、実際に触ってきたりする者は一人もいなかった。
 サイルに始まり、最近は言葉で終わらず実際に手を出されることが増えた気がする。気を抜いているわけでもない。服装も容姿も、前と何も変わらない。それなのに……なぜ?
 思考を巡らしてみるが、答えを導き出すことはできなかった。背後に二人がいないのを確認してからベッドに倒れる。

 事務職の給料では決して泊まることの出来ない宿ということもあり、すぐさま勢いを吸収し、体に合わせて沈んだ。側面がふかふかの布団に挟まれ、包み込まれているような感覚に陥った。
 こんな高そうな布団よりも、二人に添い寝してもらった時の方が安心する。


「ぎゅーってしてほしいなー……」


 無性に抱き締めてほしくなって、手を広げて天を仰いだ。出た声が思いのほか小さかったことに驚きながらも、聞こえていないだろうなと無言で寝転がり続ける。
 一分ほどしてからだろうか。視界の上部に二人の青い双眼が見えた。いつの間にか狼族ウルフサイズになっており、瞬きをしながら静かに見下ろしている。


「どうしました?」


 首を傾げて問う。シーツと髪の毛が擦れる音が耳元で聞こえた。

 二人は目線を反らし、言葉を発することなく左右に別れて視界から消えた。どうしたのだろうかという疑問と寂しさが心を占めた。
 でもそれは一瞬で、数秒後には目も当てられないほど俺の表情筋は緩み切っていた。


「急に可愛いこと言うから頭整理すんのに時間かかっちまったじゃんかー!ネロちゃんのバカ」
「ふふふ。わがままいってすみません」
「いや、いい。お前に求められると無性に興奮する」


 胸元に頭を乗せ、鼻息荒くそう口にした。前足と後ろ足の爪を服に引っ掛け、隙間ができないほど強く体を寄せてきた。


「あ、あの」
「どうした?」


 入国前に擦り付けられた時よりも遥かに固い何かが、太腿に当たっていた。


「二人共、何でそんなに固くなってるんですか」
「ネロが可愛いから」
「ネロちゃんが可愛いこと言うから」


 鼻先を首に擦り付けたかと思えば、舌で鎖骨から首の真ん中までを舐め上げる。


「……ちょっ、まだ日も落ちてないのに」
「恋人同士の営みに時間は関係ない」
「したいときにするもんだろー。こういうのって」


 寝転がっていた二人が起き上がり、したり顔で言う。そして光を身に纏い、数秒後には人族ヒューマンへと姿を変えた。


「あー……久々に食える」


 舌なめずりをするタキトゥス。


「優しくできないかもしれない」


 頬を撫で、申し訳なさそうに言うオネスト。


「えっと……あの、ちょっ、待って。待って待って」
「待たない」
「無理!絶対無理!食べまーす!」


 全裸の二人は戦闘モードで、俺を抱き上げてベッドの中央へと連れていく。


「せ、せめて夜にして……」


 俺の願いが聞き入れられることはなかった。

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