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第三章 いざ、ロピック国へ
東の街スムガルト
しおりを挟む翌日、宿で朝食を済ませた俺たちは馬車でスムガルトを目指していた。
流れていく景色を見ていると、建物や通路に置いてある物など、ありとあらゆる物が大きい。獣種は体の大きい者も多いから、生活しやすいように…となると必然的にそうなるのだろう。
もちろん、小柄な獣種もいるので、入り口を超えた先には大小の異なるテーブルや雑貨がある。表に出ている看板も同様で、危険な場所もあるという話だが、優しさの溢れる温かい街でもあるようだ。
馬車に揺られている間、エヴァンは窓の外をジッと眺めている。その目には期待の色と、先日あった少年のように空振りで終わるのではないかという不安の色が混じっていた。
彼はとにかく主の元に帰りたいのだろう。オネストはまだしも、タキトゥスとは相当相性が悪いようだし、子守……というほど小さくはないが、俺たちの護衛から解放されたいと考えているに違いない。
長寿種であるハーフエルフにとって二ヶ月は短い期間と言える。だが、大好きな主人から引き離されているエヴァンにとっては長い二ヶ月だろう。
「着きました」
外を眺めていたエヴァンが短く口にした。
そして、間髪入れず、「ブルルルルッ」と馬の嘶きが聞こえる。
「それなりに時間がかかったな」
「国内とはいえ、規模が大きいからな。中央都市から離れていればこんなものだろう」
俺の膝の上に上半身を載せて眠っていたオネスト達が、伸びをしながら言う。
時間で言えば、1時間もかかっていない。信号があるわけではないが、交通量や人通りの兼ね合いで速度が遅いせいもある。
「お待たせいたしました」
御者が扉を開け、エヴァンに続いて俺たちも降りる。
見たことがある種族もいれば、そうでない種族もいる。当たり前のことではあるが、とても新鮮だ。
ギルド職員として他国のギルドと情報交換をする機会はあったが、魔道具でのやり取りが多く、現地に赴いたことは数えるほどしかなかった。慣れない土地ということもあって、街を見て回る余裕も無かったので余計にそう思うのだろう。
「手分して探すの?それとも一緒?」
タキトゥスが俺の右頬に頭を擦り付けながらエヴァンに問う。
「私は少々知り合いに聞き取りをしますので、手分けして探しましょう。12時頃に広場の噴水へ集まり、昼食をとりながら情報交換で問題ありませんね?」
「わかりました」
「くれぐれもバカ犬……いえ、駄犬から目を離さないようお願いいたします。それではまた」
俺たちの返事も聞かず足早に去っていくエヴァン。タキトゥスは牙を剥き出しにしながら怒りを露わにしていた。
「かぁーーー!一言余計なんだよあいつ!」
「まぁ、お前はチョロチョロとどこかに行くからな」
「オネストだって人のこと言えないだろ!なんだかんだついてくんじゃん!」
「危なっかしいからお目付け役だ。騒ぎは起こしていない。そうだろ?ネロ」
同意を求めて肉球を頬に当ててくるオネスト。視線を横に向ければ、頬を支えに少し立ち上がっているのか、視界いっぱいに幼い狼の顔があって驚く。
若干上目遣いなのが余計に庇護欲をそそるが、実際は自分よりも数倍も大きい体格をしている。可愛く見えてしまうのは小さくなっているからか、それとも恋人だからか。
「あーもう!オネストばっか見てんなよー。俺も見てー!」
嫉妬心を隠そうともせず、タキトゥスもオネストと同じく肉球を頬にくっつけてきた。目尻が若干吊り上がっていて、それもまた可愛らしい。
「はいはい。わかりましたから喧嘩しないでください。とりあえず、美味しそうなお店を探しながら聞き込みをしましょう」
「俺の方見てる時間の方が少ない!もう少し見て!ねぇ!ねぇってばー!ネロちゃーん!」
「はいはい。見てますよ、ちゃんと」
仕事で来ているはずなのに、二人と一緒だと何故だか観光に来たと錯覚してしまいそうになるほど緩く、癒される空気感。それが心地いいが、気を引き締めなくては……とも思う。
「そういえば、外でエヴァン様と別行動なのって意外と初めてですね」
思い返せば、俺たちが屋台に気を取られていたりして逸れることを除けば、別行動をしたことはない。土地勘がない俺たちに気を遣って、効率が悪いとわかりながらも一緒に行動していた。
「流石に1ヶ月経つからなー。過保護っつーか、熱心というか」
「俺たちにとって慣れない土地ということもあるだろうが、監視の意味合いが強いだろうな」
「さっさと手分けすれば今頃大好きな陛下の元に帰れたかもしれないのになー」
バカなやつ、とエヴァンの歩いて行った方向を見ながら鼻で笑うタキトゥス。オネストも同意見なのか、タキトゥスを咎めることはなかった。
「雑談はこの辺で終わりにしましょう。今日も暑いですから、飲み物を買ってから聞き込みしましょうね」
「はーい」
「あそこのフルーツの飲み物がいいのではないか?」
「いや、甘くないのにしようぜー。温くなったらまずいだろ」
「確かにその通りだな。ネロ、あっちのサッパリした匂いのする飲み物にしよう」
「二人とも乗り出さない。ちゃんと行きますから」
鼻を突き出すのように周辺の匂いを嗅ぐ二人に声をかけ、両手で二人の鼻先を包むようにして手前に引く。ペロリと掌を舐められたが、軽く鼻筋を小突けば嬉しそうに笑った。何が嬉しいのか知らないが、とにかく動き始めるとしよう。
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天然タラシなので二人ともこれから大変ですよ〜🥰
わぁぁぁ更新されてるぅぅぅぅ!!
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待ちに待った更新!ありがとうございます。ウキウキワクワク、初めから読み直します(^o^)
大変お待たせしました😭
最初から読み直していただけるの本当に嬉しいです!これからもよろしくお願いします