人間の俺は狼に抱かれている。

レイエンダ

文字の大きさ
65 / 65
第三章 いざ、ロピック国へ

東の街スムガルト

しおりを挟む


 翌日、宿で朝食を済ませた俺たちは馬車でスムガルトを目指していた。
 流れていく景色を見ていると、建物や通路に置いてある物など、ありとあらゆる物が大きい。獣種は体の大きい者も多いから、生活しやすいように…となると必然的にそうなるのだろう。
 もちろん、小柄な獣種もいるので、入り口を超えた先には大小の異なるテーブルや雑貨がある。表に出ている看板も同様で、危険な場所もあるという話だが、優しさの溢れる温かい街でもあるようだ。

 馬車に揺られている間、エヴァンは窓の外をジッと眺めている。その目には期待の色と、先日あった少年のように空振りで終わるのではないかという不安の色が混じっていた。
 彼はとにかく主の元に帰りたいのだろう。オネストはまだしも、タキトゥスとは相当相性が悪いようだし、子守……というほど小さくはないが、俺たちの護衛から解放されたいと考えているに違いない。
 長寿種であるハーフエルフにとって二ヶ月は短い期間と言える。だが、大好きな主人から引き離されているエヴァンにとっては長い二ヶ月だろう。


「着きました」


 外を眺めていたエヴァンが短く口にした。
 そして、間髪入れず、「ブルルルルッ」と馬の嘶きが聞こえる。


「それなりに時間がかかったな」
「国内とはいえ、規模が大きいからな。中央都市から離れていればこんなものだろう」


 俺の膝の上に上半身を載せて眠っていたオネスト達が、伸びをしながら言う。
 時間で言えば、1時間もかかっていない。信号があるわけではないが、交通量や人通りの兼ね合いで速度が遅いせいもある。


「お待たせいたしました」


 御者が扉を開け、エヴァンに続いて俺たちも降りる。
 見たことがある種族もいれば、そうでない種族もいる。当たり前のことではあるが、とても新鮮だ。
 ギルド職員として他国のギルドと情報交換をする機会はあったが、魔道具でのやり取りが多く、現地に赴いたことは数えるほどしかなかった。慣れない土地ということもあって、街を見て回る余裕も無かったので余計にそう思うのだろう。


「手分して探すの?それとも一緒?」


 タキトゥスが俺の右頬に頭を擦り付けながらエヴァンに問う。


「私は少々知り合いに聞き取りをしますので、手分けして探しましょう。12時頃に広場の噴水へ集まり、昼食をとりながら情報交換で問題ありませんね?」
「わかりました」
「くれぐれもバカ犬……いえ、駄犬から目を離さないようお願いいたします。それではまた」


 俺たちの返事も聞かず足早に去っていくエヴァン。タキトゥスは牙を剥き出しにしながら怒りを露わにしていた。


「かぁーーー!一言余計なんだよあいつ!」
「まぁ、お前はチョロチョロとどこかに行くからな」
「オネストだって人のこと言えないだろ!なんだかんだついてくんじゃん!」
「危なっかしいからお目付け役だ。騒ぎは起こしていない。そうだろ?ネロ」


 同意を求めて肉球を頬に当ててくるオネスト。視線を横に向ければ、頬を支えに少し立ち上がっているのか、視界いっぱいに幼い狼の顔があって驚く。
 若干上目遣いなのが余計に庇護欲をそそるが、実際は自分よりも数倍も大きい体格をしている。可愛く見えてしまうのは小さくなっているからか、それとも恋人だからか。


「あーもう!オネストばっか見てんなよー。俺も見てー!」


 嫉妬心を隠そうともせず、タキトゥスもオネストと同じく肉球を頬にくっつけてきた。目尻が若干吊り上がっていて、それもまた可愛らしい。


「はいはい。わかりましたから喧嘩しないでください。とりあえず、美味しそうなお店を探しながら聞き込みをしましょう」
「俺の方見てる時間の方が少ない!もう少し見て!ねぇ!ねぇってばー!ネロちゃーん!」
「はいはい。見てますよ、ちゃんと」


 仕事で来ているはずなのに、二人と一緒だと何故だか観光に来たと錯覚してしまいそうになるほど緩く、癒される空気感。それが心地いいが、気を引き締めなくては……とも思う。


「そういえば、外でエヴァン様と別行動なのって意外と初めてですね」


 思い返せば、俺たちが屋台に気を取られていたりして逸れることを除けば、別行動をしたことはない。土地勘がない俺たちに気を遣って、効率が悪いとわかりながらも一緒に行動していた。


「流石に1ヶ月経つからなー。過保護っつーか、熱心というか」
「俺たちにとって慣れない土地ということもあるだろうが、監視の意味合いが強いだろうな」
「さっさと手分けすれば今頃大好きな陛下の元に帰れたかもしれないのになー」


 バカなやつ、とエヴァンの歩いて行った方向を見ながら鼻で笑うタキトゥス。オネストも同意見なのか、タキトゥスを咎めることはなかった。


「雑談はこの辺で終わりにしましょう。今日も暑いですから、飲み物を買ってから聞き込みしましょうね」
「はーい」
「あそこのフルーツの飲み物がいいのではないか?」
「いや、甘くないのにしようぜー。温くなったらまずいだろ」
「確かにその通りだな。ネロ、あっちのサッパリした匂いのする飲み物にしよう」
「二人とも乗り出さない。ちゃんと行きますから」


 鼻を突き出すのように周辺の匂いを嗅ぐ二人に声をかけ、両手で二人の鼻先を包むようにして手前に引く。ペロリと掌を舐められたが、軽く鼻筋を小突けば嬉しそうに笑った。何が嬉しいのか知らないが、とにかく動き始めるとしよう。
しおりを挟む
感想 48

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(48件)

慧斗
2023.01.18 慧斗
ネタバレ含む
2023.01.18 レイエンダ

お待たせしました🙇‍♀️
天然タラシなので二人ともこれから大変ですよ〜🥰

解除
深百合 亜華羽

わぁぁぁ更新されてるぅぅぅぅ!!

2023.01.18 レイエンダ

お待たせしました😭

解除
アイリス
2023.01.16 アイリス

待ちに待った更新!ありがとうございます。ウキウキワクワク、初めから読み直します(^o^)

2023.01.17 レイエンダ

大変お待たせしました😭
最初から読み直していただけるの本当に嬉しいです!これからもよろしくお願いします

解除

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

悪役神官の俺が騎士団長に囚われるまで

二三@冷酷公爵発売中
BL
国教会の主教であるイヴォンは、ここが前世のBLゲームの世界だと気づいた。ゲームの内容は、浄化の力を持つ主人公が騎士団と共に国を旅し、魔物討伐をしながら攻略対象者と愛を深めていくというもの。自分は悪役神官であり、主人公が誰とも結ばれないノーマルルートを辿る場合に限り、破滅の道を逃れられる。そのためイヴォンは旅に同行し、主人公の恋路の邪魔を画策をする。以前からイヴォンを嫌っている団長も攻略対象者であり、気が進まないものの団長とも関わっていくうちに…。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

お荷物な俺、独り立ちしようとしたら押し倒されていた

やまくる実
BL
異世界ファンタジー、ゲーム内の様な世界観。 俺は幼なじみのロイの事が好きだった。だけど俺は能力が低く、アイツのお荷物にしかなっていない。 独り立ちしようとして執着激しい攻めにガッツリ押し倒されてしまう話。 好きな相手に冷たくしてしまう拗らせ執着攻め✖️自己肯定感の低い鈍感受け ムーンライトノベルズにも掲載しています。 挿絵をchat gptに作成してもらいました(*'▽'*)

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。