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第十一章 友達とか家族とか(前編)
探り合い
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(ヴァレリーの名前には、うっすら聞き覚えがあるな。たしか姉上の魔導士工房にいた。ヴァレリーがまだ子どもの頃に遊んだことがある。「ステファノ」が)
ヴァレリー。
髪や目の色の特徴、年齢などが一致する。あの子どもが成長したらこんな感じだろうな、と。
魔法剣士となったとすれば、戦争終結後ということになるが、堂に入った戦いぶりだった。おそらく、魔物と戦い慣れている。
それから、先程警告を発した金髪の少女。
(「魔族の言葉」と言った。これまでに聞いたことがあり、知識として知っているということか)
エメラルドのような瞳に、とげとげしい警戒心を浮かべて、睨みつけてきている。
その容貌はいささか整い過ぎていて、市井の子どもにまぎれていたらぎょっとするほどだ。
そういう系統の容姿を、最近見慣れつつあるクロノスとしては、さすがに相手が何者かを察してしまう。
「魔族の言葉がわかる君は何者? 見た感じ、君も魔族じゃないのかな」
さりげなくさらっと言ってはみたが、少女の反応はめざましかった。その小さな身体から、毛が逆立つほどの殺気を放ってくる。
「あなたこそ何ものなのよ……! 躊躇なく魔物を薙ぎ払う魔導士なんて、そうそういないはずよ!」
ねえ、ロザリア、落ち着こう、と少女のそばに立った「ステファノ」もどきが言った。声は、透き通って可憐だ。男とも女ともにわかには判別しがたい響き。
その発声は、女性の身でありながら男性として過ごしていたクライスに通じるものがある。
(おそらく女性だ。「ステファノ」に似ているけど、線が細すぎる)
血縁で思い当たる相手はいないが、おそらくとても近い。
視線を感じたのか、振り返って目を向けてくる。
「とてもお強いですね。そういう戦闘型の魔導士って、今はあまりいないものだと思っていました。僕はラナンといいます。生活魔導士って感じで、雑用がメイン。攻撃系は持ってなくて」
すかさず隣に立つロザリアという少女がラナンの脇腹に手刀を叩きこんだ。警戒心なく弱点をさらけ出すなと怒っているように見える。
ラナンは若干痛そうな反応は見せたものの、構わず笑顔で続けた。
「あっちの魔法剣士はヴァレリー。何でも屋で、少し前まで各国を旅していたから、危ない場面に強いのかな。治安の悪いところもあっただろうし」
(対人間の戦闘と、対魔物は違う。「治安」だけじゃ説明がつかない。あれは魔物殺しだ)
敵だとは思わない、が。
今現在「能力値を最大限発揮できない魔族」であるルーク・シルヴァを連れている身。ヴァレリーに何か不審な動きでもあれば、自分が戦うのが筋だろう。
と、警戒する一方で。
(魔族連れなんだよな……? 人間と魔族の混成部隊……部隊というわけでもないか。戦えそうなのはヴァレリーだけみたいだし。なんだ? 旅人?)
魔物殺しと、魔族の少女と、戦闘力のない魔導士。変な組み合わせだ。
もっとも自分はといえば前世救国の魔導士で現在はこの国の第二王子、連れは魔王。ラナンのように、感じよく簡潔に自己紹介するのはいささか抵抗がある。
「いろいろ話してもらってありがとう。こちらはどう名乗るべきか……。そうだ、ひとつ確認したい。君は魔導士ステファノの血縁?」
ラナンの瞳に、不意に鋭い光が閃いた。
「それはどうして、そう思ったんですか。ステファノの名前はもちろん僕も存じ上げていますが、たとえ魔導士という共通点があるとしても、結びつけるなら戦闘力のない僕ではなくヴァレリーのはず。……いま、あなたは僕に対して言いましたよね」
(うん。言った)
素直に頷いて認めようかどうしようか。
悩んだ末に、悩むのを放棄した。
「似てるんだよね。顔が」
ヴァレリーからも警戒されているのを感じる。当たり前だ。「クロノス」はステファノが死んでから生まれているのだから、本人と会ったことなどがあるはずがない。ここまで確信を持っていうのは、謎でもあるだろう。
「顔……」
ラナンも不審そうにしている。その表情の変化が面白くて、ついクロノスは噴き出してしまった。
「ステファノを小さくして、細くして、女性にしたらそういう感じかも。あ、そうか、そうするとステファノの姉に少し似ているのかな。ん?」
言いながら、妙にしっくりときて、最終的には納得してしまった。
おそらく、そうなのだ。
誤魔化す気もないのか、ラナンは緊張感を打ち壊す明るい声で言った。
「ステファノは僕の叔父です。あなたは、本当に、何者なんだろう。魔族の血が流れている? だから魔力が強くて、見た目通りの年齢じゃない?」
「ずいぶん魔族の生態に詳しいんだな。そういうの、王都の文献にもあんまり書いていないのに」
人間はそんなに「人型をとる魔族」には詳しくない。あれほど魔族と交戦し、なおかつ仲間内にアゼルという魔族までいて日常的に接していた過去の自分でも、知らないことの方が多かった。
「王都からきたんですか」
ラナンの問いかけはあくまでのどかだが、ヴァレリーの警戒は解かれていない。
そちらに目を向けると、射貫くように見返された。
誤魔化す、嘘を言う、そういった選択肢を、その瞬間捨てた。
「三人でどこを目指している? できれば話をしたい。平和的に」
最後の一言は、いまだに怒りのような激しさを瞳に宿して見つめてきているロザリアに向けて。
落ち着いた声で続ける。
「俺の名前はクロノス。王家に連なる身の上だ。この先の町、オルゴの魔導士工房を目指していた。あなたがたは今ここで何を?」
ヴァレリー。
髪や目の色の特徴、年齢などが一致する。あの子どもが成長したらこんな感じだろうな、と。
魔法剣士となったとすれば、戦争終結後ということになるが、堂に入った戦いぶりだった。おそらく、魔物と戦い慣れている。
それから、先程警告を発した金髪の少女。
(「魔族の言葉」と言った。これまでに聞いたことがあり、知識として知っているということか)
エメラルドのような瞳に、とげとげしい警戒心を浮かべて、睨みつけてきている。
その容貌はいささか整い過ぎていて、市井の子どもにまぎれていたらぎょっとするほどだ。
そういう系統の容姿を、最近見慣れつつあるクロノスとしては、さすがに相手が何者かを察してしまう。
「魔族の言葉がわかる君は何者? 見た感じ、君も魔族じゃないのかな」
さりげなくさらっと言ってはみたが、少女の反応はめざましかった。その小さな身体から、毛が逆立つほどの殺気を放ってくる。
「あなたこそ何ものなのよ……! 躊躇なく魔物を薙ぎ払う魔導士なんて、そうそういないはずよ!」
ねえ、ロザリア、落ち着こう、と少女のそばに立った「ステファノ」もどきが言った。声は、透き通って可憐だ。男とも女ともにわかには判別しがたい響き。
その発声は、女性の身でありながら男性として過ごしていたクライスに通じるものがある。
(おそらく女性だ。「ステファノ」に似ているけど、線が細すぎる)
血縁で思い当たる相手はいないが、おそらくとても近い。
視線を感じたのか、振り返って目を向けてくる。
「とてもお強いですね。そういう戦闘型の魔導士って、今はあまりいないものだと思っていました。僕はラナンといいます。生活魔導士って感じで、雑用がメイン。攻撃系は持ってなくて」
すかさず隣に立つロザリアという少女がラナンの脇腹に手刀を叩きこんだ。警戒心なく弱点をさらけ出すなと怒っているように見える。
ラナンは若干痛そうな反応は見せたものの、構わず笑顔で続けた。
「あっちの魔法剣士はヴァレリー。何でも屋で、少し前まで各国を旅していたから、危ない場面に強いのかな。治安の悪いところもあっただろうし」
(対人間の戦闘と、対魔物は違う。「治安」だけじゃ説明がつかない。あれは魔物殺しだ)
敵だとは思わない、が。
今現在「能力値を最大限発揮できない魔族」であるルーク・シルヴァを連れている身。ヴァレリーに何か不審な動きでもあれば、自分が戦うのが筋だろう。
と、警戒する一方で。
(魔族連れなんだよな……? 人間と魔族の混成部隊……部隊というわけでもないか。戦えそうなのはヴァレリーだけみたいだし。なんだ? 旅人?)
魔物殺しと、魔族の少女と、戦闘力のない魔導士。変な組み合わせだ。
もっとも自分はといえば前世救国の魔導士で現在はこの国の第二王子、連れは魔王。ラナンのように、感じよく簡潔に自己紹介するのはいささか抵抗がある。
「いろいろ話してもらってありがとう。こちらはどう名乗るべきか……。そうだ、ひとつ確認したい。君は魔導士ステファノの血縁?」
ラナンの瞳に、不意に鋭い光が閃いた。
「それはどうして、そう思ったんですか。ステファノの名前はもちろん僕も存じ上げていますが、たとえ魔導士という共通点があるとしても、結びつけるなら戦闘力のない僕ではなくヴァレリーのはず。……いま、あなたは僕に対して言いましたよね」
(うん。言った)
素直に頷いて認めようかどうしようか。
悩んだ末に、悩むのを放棄した。
「似てるんだよね。顔が」
ヴァレリーからも警戒されているのを感じる。当たり前だ。「クロノス」はステファノが死んでから生まれているのだから、本人と会ったことなどがあるはずがない。ここまで確信を持っていうのは、謎でもあるだろう。
「顔……」
ラナンも不審そうにしている。その表情の変化が面白くて、ついクロノスは噴き出してしまった。
「ステファノを小さくして、細くして、女性にしたらそういう感じかも。あ、そうか、そうするとステファノの姉に少し似ているのかな。ん?」
言いながら、妙にしっくりときて、最終的には納得してしまった。
おそらく、そうなのだ。
誤魔化す気もないのか、ラナンは緊張感を打ち壊す明るい声で言った。
「ステファノは僕の叔父です。あなたは、本当に、何者なんだろう。魔族の血が流れている? だから魔力が強くて、見た目通りの年齢じゃない?」
「ずいぶん魔族の生態に詳しいんだな。そういうの、王都の文献にもあんまり書いていないのに」
人間はそんなに「人型をとる魔族」には詳しくない。あれほど魔族と交戦し、なおかつ仲間内にアゼルという魔族までいて日常的に接していた過去の自分でも、知らないことの方が多かった。
「王都からきたんですか」
ラナンの問いかけはあくまでのどかだが、ヴァレリーの警戒は解かれていない。
そちらに目を向けると、射貫くように見返された。
誤魔化す、嘘を言う、そういった選択肢を、その瞬間捨てた。
「三人でどこを目指している? できれば話をしたい。平和的に」
最後の一言は、いまだに怒りのような激しさを瞳に宿して見つめてきているロザリアに向けて。
落ち着いた声で続ける。
「俺の名前はクロノス。王家に連なる身の上だ。この先の町、オルゴの魔導士工房を目指していた。あなたがたは今ここで何を?」
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