こじらせ騎士と王子と灰色の魔導士

有沢真尋

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第十一章 友達とか家族とか(前編) 

休憩もままならず

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「最近、魔物の襲撃が続いているということで、里帰りをしようという話になったんです。まさかこんなに人里に近い街道であんな大群に遭遇するとは思いませんでしたが。ヴァレリーは戦えるので、交戦になっても滅多なことでは負けません。僕とロザリアは戦闘では役にたたないので、応援しているだけです」

 襲撃のあった街道からひとまず移動することになった。その道中、歩きながらラナンがのんびりとした口調で話す。
 肩を並べて話していたクロノスは、相槌を打とうとしたが、うまく声が出ずに微笑みで応じた。
 その次の瞬間、すぐ後ろを歩いていたルーク・シルヴァが、クロノスの首に腕を回す。

「だめだお前、震えてるぞ。一昨日の戦闘で疲労困憊からの、昨日は朝から魔力を俺に提供して抜け殻になりつつ慌ただしい出立。夜は飲みすぎて二日酔い。今日は今日で朝から精神的ショックで魔力に変調きたす。そのくせ、乱戦を目にして血が騒ぎ、つっこんで魔法を撃ちまくる、と。いま倒れる寸前だな?」
「改めて言われると、なんで自分が立っていられるか不思議。手足がもう、ガクガクしてる」

 強がることもできずに、クロノスは全身の力を抜く。
 ちらりと見たラナンが「そこの木陰で休みましょう」と街道脇の大木を示して言った。
 ルーク・シルヴァに支えられながら、クロノスはヨロヨロと歩き、枝葉の下にたどり着いたところで草地にがくりと膝をつく。

(やばい。本格的にやばい。しばらく使ってなかった魔法をここのところ連続使用しすぎ。魔法以外にも「魔力が欲しいなぁ」なんて甘えてくる魔王に血を吸われたような覚えも)

 気を抜けば意識が飛んでしまいそうな感覚に抗うべく、クロノスはルーク・シルヴァを見上げて精一杯睨みつけてみた。

「大体、一昨日の戦闘は、誰かさんがあの凶悪な妹君に体を乗っ取られたせいだと思うんだけど。その件どう考えているのか、まだしっかり聞いてなかった。なんであんなことになったんだよ」
「隙をつかれた以外の何ものでもないんだが」
「隙な。あいつに体を乗っ取られているときのルーク・シルヴァ、記憶がなさそうに見える。もしかしてこれまでも、何度も乗っ取られてきたんじゃないか」

(レティシアに。本人が気がついていないだけで。そして、レティシアの活動が目に見えるようになったのに呼応して、魔族の動きが活発になっている。もし、これまでルーク・シルヴァの意識のないところでレティシアが魔族を扇動していたのだとすれば……、実質ルーク・シルヴァは現役の魔王と変わらない。人間の討ち滅ぼすべき敵だ)
 
 ルーク・シルヴァに害意がないとしても、レティシアという存在を身の内に生かしていた責任は重い。
 その現実を、クロノスは直視しないわけにはいかないのだ。
 言われた内容をわかっているのかいないのか、ルーク・シルヴァは無表情のまま。
 一方、二人の会話を聞きつけたのはロザリアであった。

「ルーク・シルヴァって名前の魔族、知っているわ。もし本人なら、生きていたってこと? 勇者ルミナスと相打ちではなくて」
「ん。勇者と相打ちということは、魔王の名前か」

(大正解。かなりの事情通だ、この「魔族」の女の子)

 しかもヴァレリーが確認の意味を込めて、「魔王」とまで言ってしまっている。
 クロノスはフォローを考えてみたが、思い浮かばずに力なく笑った。

「誤魔化すつもりもないけど、言い訳を聞く気があるなら聞いてほしい。そうだ、もとはといえばそこからなんだ。結局、ルミナスが魔王を倒すことが出来ていなかったから、今……」

 レティシアという存在を宿した魔王が生き残ったことで、戦乱の火種が消えずに、再燃しようとしている。
 そう言おうとして、クロノスは口を閉ざした。

(レティが黒幕だとすれば、そういうことになる。黒幕でなければ? そもそも「魔王」を騙ったシグルドが王宮を襲撃したことは、レティの想定外の事態だった。そのシグルドをいまはレティが掌握しているが……。それ以前、シグルドの裏には誰かいたとは考えられないか)

 レティシアがあまりに攻撃的、かつ実際に戦闘となったので失念しかけていたが、彼女もまた最初はシグルドの裏を探る目的で、ルーク・シルヴァから体を強奪してきて表に出てきていた様子だった。
 それならば、魔族を扇動している者は他にいるということになる。

 ヴァレリーやロザリアは、クロノスが話し出すのを少しの間待っていた。だが、考え込んでしまった横顔を見て待つのをやめたらしい。
 悠然と佇んでいるルーク・シルヴァに向けて、ヴァレリーが切り出した。

「魔王なのか」
「元、だ」

 その率直な回答が耳に届き、クロノスは我に返る。
 ここで戦闘が始まってはたまらないと、慌てて口を挟んだ。

「敵じゃない。それは俺が保証する。俺はステファノだ。前世で魔王とやりあっているけど、今生では仲直りしている。だから迂闊に手を出さないでほしい。両方とも」

 黙って聞いていたラナンが、ここにきてようやく「なるほど」と呟いた。

「つまりあなたは僕の叔父さんなんですね。生まれる前に亡くなっているからお会いしたことはなかったですけど。ヴァレリーは会ったことあるんだよね?」

 水を向けられたヴァレリーは、慎重な様子を崩さずに答える。

「あるけど。どうして魔導士ステファノが魔王と一緒にいるのか聞いてもいいですか?」
「うん。当然だね。わかった、話す」

 全身を苛む疲労に耐えながら、クロノスは精一杯友好的な笑みを浮かべて頷いた。
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