こじらせ騎士と王子と灰色の魔導士

有沢真尋

文字の大きさ
107 / 122
第十一章 友達とか家族とか(前編) 

再会

しおりを挟む
 魔王(生存)と魔王を殺した魔導士(生まれ変わり)。

 偶然知り合い、行動を共にしている。魔王ルーク・シルヴァには現在、人間に対する敵意はない。クロノスは転生時にステファノから引き継いだ記憶に混乱があり、実姉に相談しに行くところ。
 かいつまんで話はしたものの、ラナンとヴァレリー、ロザリアの反応はどうにもぱっとしない。ヴァレリーに至っては「すっ飛ばした内容に何か重要な事実でも?」と明らかに疑ってかかっていたが、それもクロノスの体調不良により追求はひとまず棚上げ。
 行き先が同じだというのなら、ひとまず目的地まで行きましょう、という結論に至る。 

 よれよれのクロノスを「お姫様抱っこ」もしくは「背負う」とルーク・シルヴァが言い出し、クロノスが全力で拒否しているうちに、ヴァレリーが面倒くさそうに言った。

「こっちは進みたいんですけど、ステファノさんと魔王を無視して進むわけにはいかないです。おとなしく運ばれてくれますか? 通常なら俺が運ぶって言いたいところなんですけど、ステファノおじさんが足手まといになって、何かあったときにうちの二人を守りきれないと困るので。そっちはそっちの二人でどうにかしてください。今の段階では、魔王も信頼して良いかわからないし」

(もう置いて行って欲しい)

 反論しようにも力はなく、諦めてクロノスは荷物のようにルーク・シルヴァに背負われることを了承する運びとなった。
 そこで、ヴァレリーとルーク・シルヴァが話し合い、街道を歩いて進むことになる。
 理由は、ヴァレリーの飛翔術では連れの二人を運ぶことができないが、「何をするかわからない」魔王から目を離したくないし、里に先回りされるのは心理的な抵抗が、という。
 ルーク・シルヴァが「それもそうだな」と謎の寛容さで受け入れて、結局五人で徒歩で里へ向かうことになった。
 勝手にしてくれ、とクロノスはルーク・シルヴァの背でふて寝しているうちに、本格的に寝落ちた。

 * * *

 目を覚ましたら、かなり久しぶりに自分の部屋にいた。
 久しぶりどころではない。
 二十年、三十年という間が空いての帰還。木材むき出しの天井は傾斜がついていて、壁は丸太を重ねたような作り。簡素なベッドに、擦り切れた赤系の絨毯。隅に衣装箪笥があるだけの、狭い部屋。
 目の奥が痛くなるほどの、既視感。

(俺の、ステファノの部屋だ)

 窓からの光はすでに、夕暮れ時が近いように思う。そんな時間にこの部屋で寝ていたことなど記憶に無い。
 いつもは、暮れるまで外にいた。病気でもなければ昼間にベッドで寝ていることなんてなかったが、病気であれば人目につくところに置いておかれた。すなわち工房の中。うるさくて寝られたものではないし、ときどき何かが爆発して危険もあったというのに。
 人の出入りが多くて騒々しい家。
 耳をすませば、人の話し声や生活音が――
 音を追いかけようとしたそのとき、ぱたぱたという軽い足音がいくつも近づいてくるのが聞こえた。子ども、それも複数とあたりをつけたところで、どかん、とドアが開かれる。

 三人ばかり、戸口に折り重なるように小さな人影が現れていた。
 ベッドから起き上がった姿勢のまま固まっていたクロノスをよそに、一人が「起きてるー!!」と声を上げた。

「伝説の魔導士、起きてる」「ふつうのひとに見える」「ふつうのおじさん」「おにいちゃん?」「このひとも工房のひとなの?」「王子様だって」「どのへんが」

 三人の後ろからさらに三、四人の顔が見える。わちゃわちゃとひとかたまりになって前列が押し出され、部屋の中へと数人が侵入してきた。騒ぎは遠慮なく、うるさい。

(王子様に見えないおじさんだけど、気持ちはお兄ちゃんで伝説の魔導士……。いや、ステファノの年齢を加算したらおじさんだ。正しい)

 危険はないと知っているのか、子どもたちはだんだんにじり寄って、円になり距離を詰めてくる。
 どうしたものかと思いながら、クロノスは「こんにちは」と声をかけた。
 途端、子どもたちの動きが止まる。

(なんだ? なにに怯えてどうしてそういう反応に? 俺が何をした、だいたいこの子どもたちはなんなんだ)

 小さな生き物のことはわからない、と思ったとき、戸口にようやく大人の人影。
 そちらを見て、クロノスは固まってしまう。なかなか言葉が出ない。
 声をかけてきたのは相手からだった。

「うちの孫だよ。どうしても見たいっていうから、別に取って食われはしないだろうよって言ったら急いで出て行きやがった。起きてたんだね。ステ……、クロノス殿下なんだっけ」

 ぶっきらぼうな調子で呼ばれた名前。耳に流れ込んできた声に、全身が反応している。懐かしい、と。
 クロノスは震える声で応えた。

 姉さん、と。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中

桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。 やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。 「助けなんていらないわよ?」 は? しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。 「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。 彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

【完結】国外追放の王女様と辺境開拓。王女様は落ちぶれた国王様から国を買うそうです。異世界転移したらキモデブ!?激ヤセからハーレム生活!

花咲一樹
ファンタジー
【錬聖スキルで美少女達と辺境開拓国造り。地面を掘ったら凄い物が出てきたよ!国外追放された王女様は、落ちぶれた国王様゛から国を買うそうです】 《異世界転移.キモデブ.激ヤセ.モテモテハーレムからの辺境建国物語》  天野川冬馬は、階段から落ちて異世界の若者と魂の交換転移をしてしまった。冬馬が目覚めると、そこは異世界の学院。そしてキモデブの体になっていた。  キモデブことリオン(冬馬)は婚活の神様の天啓で三人の美少女が婚約者になった。  一方、キモデブの婚約者となった王女ルミアーナ。国王である兄から婚約破棄を言い渡されるが、それを断り国外追放となってしまう。  キモデブのリオン、国外追放王女のルミアーナ、義妹のシルフィ、無双少女のクスノハの四人に、神様から降ったクエストは辺境の森の開拓だった。  辺境の森でのんびりとスローライフと思いきや、ルミアーナには大きな野望があった。  辺境の森の小さな家から始まる秘密国家。  国王の悪政により借金まみれで、沈みかけている母国。  リオンとルミアーナは母国を救う事が出来るのか。 ※激しいバトルは有りませんので、ご注意下さい カクヨムにてフォローワー2500人越えの人気作    

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

無能と言われた召喚士は実家から追放されたが、別の属性があるのでどうでもいいです

竹桜
ファンタジー
 無能と呼ばれた召喚士は王立学園を卒業と同時に実家を追放され、絶縁された。  だが、その無能と呼ばれた召喚士は別の力を持っていたのだ。  その力を使用し、無能と呼ばれた召喚士は歌姫と魔物研究者を守っていく。

処理中です...