聖獣さまの番認定が重い。~不遇の令嬢と最強の魔法使い、だいたいもふもふ~

有沢真尋

文字の大きさ
3 / 34
【第一章】

許してくださいませ、お姉さま

しおりを挟む
「お姉さま、本当に行かれるのですか。ランカスター寄宿学校は、卒業生にも在校生にも王家の方々や名だたる貴族の面々が名前を連ねる名門校ですけれど、寮生活は平民と一緒ということですよ。メイドも護衛も連れていけないとか」

 夕食後、リーズロッテの部屋を訪ねてきたクララは、ソファに腰かけて両手を揉み絞るようにしながら切々と訴えかけてきた。
 その向かいに座っていたリーズロッテは、固い笑みを浮かべて、形の良い唇を開く。

「護衛が不要なのは、警備が厳重だからなのでしょう。もっとも、『平民も広く入学可』というルールを利用して、生徒に護衛や世話役を紛れ込ませている例も多いみたいよ。今だと第三王子のアーノルド様が在学中だけど、側仕えとして、宰相のご子息であるマクシミリアン様がついているそうね。学内には、生徒や教師の名目で在籍している護衛も多いはず。そういった意味では、かなり安全だと思うわ」

「でも、朝起きるのも、着替えも何もかもひとりでするんですよ。食事は食堂でご自分で皿にとって盛り付けたり? 浴場は共同だそうですし、あとは、えーと」

 うろ覚えながらどこかで聞き覚えてきたことを並べていくクララを見つめて、リーズロッテは穏やかに言った。

「全部、ジャスティーンから聞いているわ。わかった上で行くのよ。どうせこのまま家にいても、『幽閉』『軟禁』『幼女趣味の相手との縁談』よ。これ以上恐ろしいものなんかないわね」
「ああ、それは本当にすみません、お姉さま。お姉さまより先に私の縁談が決まってしまうなんて。順番が違いますよね?」

 罪のない口調で尋ねられて、リーズロッテはもともと強張っていた頬をさらに引きつらせた。

(その質問どういう意味かしら。『はい』って言ったら、成立したばかりの婚約を破棄するの? それとも『いいえ』って言えばいいの? 『わたくしは見た目が幼女なんですもの、仕方ないわ』って言うの? 言わせたいの?)

 必要以上に、悪く受け取っている自覚はあった。
 クララは、おそらくそこまで考えていないのだ。ただ思ったままのことを口にしている。それをリーズロッテがどう受け取るか、その結果なんと答えるのかまでは考えていないに違いない。

(この子のこの鈍感さ、わたくしからすると「無神経」なんですけど……。世間的には「おっとりしている」「育ちの良さを感じる」と言われて、美徳ととらえられることも多いわけだから。あまり意地悪を言って、萎縮させてもいけないわよね)

 リーズロッテは、自分に言い聞かせて、納得しようとする。
 見た目は「幼女」とはいえ、自分は「お姉さま」なのだから、妹を冷たくあしらってはいけない、と。
 なんとか、自然に見えるように意識して微笑んでみせた。

「縁談は『縁』ですもの。たまたまわたくしよりあなたが先だったとしても、とても条件の良い相手で良かったわね。わたくしも心から祝福しているわ」

 クララは、両手を祈るように組み合わせ、瞳を輝かせながら前のめりに身を乗り出してきて言った。

「それがですね、お姉さま。たまたまではないんです。デヴィッド様の最初のご希望は、お姉さまだったそうなんです。だけど、お姉さま、いまはそのお姿でしょう? 『どんなに望まれても跡継ぎを生むこともできないような娘を嫁がせるのは申し訳ない』ってお父様が言って、代わりにと私を推薦してくださったんです。本当にごめんなさいね?」

 笑顔のまま、リーズロッテは呼吸を止めてしまった。
 いま目の前の妹は、自分に何を言ったのだろう、と考えてしまう。

(「ごめんなさい」と言うからには、申し訳ないと思っている? 悪いことをしたと思っているから、謝っているのよね。それなのに、わたくしにダメージがあるのは、一体なぜなのかしら)

 育ちの良さを感じさせる、いかにも貴族といった上品な顔に「許してくださいませ?」と言わんばかりの苦笑いをのせたクララ。
 見るだけで、胸がズキリとする。
 謝られていて、その縁談に興味もない以上、ここは鷹揚に「いいのよ」と言うのが自分にできるすべてだというのに、喉に何かが詰まってしまっていて、声が出てこなかった。

 しかし、姉として期待されていることを言わねば。この妹はまた、何か違う角度からとんでもないことを言ってくるかもしれない。
 本当に、悪気はないのかと疑いたくなるようなことを。
 姉妹で刺し違えるような事態になる前に、自分がひいておこう、とリーズロッテは気合で堪えた。見た目は幼くても「お姉さま」なのだから。ここで駄々をこねて、本当の子どものように振る舞うわけにはいかない。プライドが許さない。

 なんとか声を絞り出し、微笑んでみせた。

「いいのよ、気にしないで」

 こんな家、一刻も早く出て行こうと、固く胸に誓いながら。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

君は番じゃ無かったと言われた王宮からの帰り道、本物の番に拾われました

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
ココはフラワーテイル王国と言います。確率は少ないけど、番に出会うと匂いで分かると言います。かく言う、私の両親は番だったみたいで、未だに甘い匂いがするって言って、ラブラブです。私もそんな両親みたいになりたいっ!と思っていたのに、私に番宣言した人からは、甘い匂いがしません。しかも、番じゃなかったなんて言い出しました。番婚約破棄?そんなの聞いた事無いわっ!! 打ちひしがれたライムは王宮からの帰り道、本物の番に出会えちゃいます。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~

甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」 「全力でお断りします」 主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。 だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。 …それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で… 一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。 令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

逃した番は他国に嫁ぐ

基本二度寝
恋愛
「番が現れたら、婚約を解消してほしい」 婚約者との茶会。 和やかな会話が落ち着いた所で、改まって座を正した王太子ヴェロージオは婚約者の公爵令嬢グリシアにそう願った。 獣人の血が交じるこの国で、番というものの存在の大きさは誰しも理解している。 だから、グリシアも頷いた。 「はい。わかりました。お互いどちらかが番と出会えたら円満に婚約解消をしましょう!」 グリシアに答えに満足したはずなのだが、ヴェロージオの心に沸き上がる感情。 こちらの希望を受け入れられたはずのに…、何故か、もやっとした気持ちになった。

夫が運命の番と出会いました

重田いの
恋愛
幼馴染のいいなづけとして育ってきた銀狼族の族長エーリヒと、妻ローゼマリー。 だがエーリヒに運命の番が現れたことにより、二人は離別する。 しかし二年後、修道院に暮らすローゼマリーの元へエーリヒが現れ――!?

処理中です...