置き去りにされた恋をもう一度

ともどーも

文字の大きさ
50 / 50

エピローグ

しおりを挟む
「「25歳の誕生日、おめでとう~!」」
 クラッカーの音が店に響き渡った。

 今日は私の誕生日だ。
 香澄の計らいで、Bar con suonoの開店1時間前に貸し切りでお祝いパーティーを開いてくれたのだ。
 そこにはこはるちゃんや天音さん、Bar con suonoのスタッフやゲストのピアニストたちが駆けつけてくれていた。
 天音さんやこはるちゃんは、料理の差し入れだけではなく、店の入口に祝花台も贈ってくれて、まるで新装開店しているみたいになっている。
 うーん、つくづく豪快な二人だ。

 豪快といえば、四ツ葉不動産創立記念パーティーでの演奏が評判を呼び、香澄との連弾依頼を受けることが増えていた。
 最近では私個人に依頼がくることもあり、嬉しいやら恥ずかしいやらで、忙しく毎日を過ごしている。

 まあ、この3ヶ月は別の意味でも忙しかったのもあるけど……。

「美咲ちゃん。誕生日おめでとう」
 天音さんが話しかけてきた。
「ありがとうございます」
 天音さんは軽く微笑み、カウンター席に座るよう促された。きっと白石のことだろう。

「こんな日に話すのもと思ったんだけど、一段落したから安心させたいと思ってね。大丈夫かしら?」
「はい、お願いします。その……どうなりましたか?」
 白石の嘘を明らかにしてから数日後、白石が私のマンション前で待ち伏せしていたのだ。
 白石に住所も連絡先も教えていないのに、彼女が目の前に現れたことは本当に怖かった。刃物でも持っているのかと警戒もしたわ。
 だけど、蓮に送ってもらっていたからか、彼女は何も言わずに、その場から逃げるように帰っていった。

 蓮の怒りは凄かったわ。
 すぐにでも白石の会社や実家、弁護士を探して対応しようと躍起になっていた。
 でも、そんな蓮を止めたのはこはるちゃんだった。
 こはるちゃんは『白石を追い詰めすぎちゃダメだ』と『取り返しのつかない行動に出てしまう可能性がある』とのことだ。
 達也に『執着』していた経験のあるこはるちゃんだからこそ、白石のその後の行動が理解できるらしい。

 白石をこれ以上逆撫でせず、穏便に遠ざけるのが私の安全に繋がると力説され、天音さんに協力を願った。
 なんと、こはるちゃんは白石の勤める会社を探し出し、その会社が天音さんの実家の会社と繋がりがあることも突き止めた。
 言動や態度が子どもっぽいのに、こういう根回し?は天才的に上手かった。

 更に、白石の勤める会社に根回しをし、『左遷』ではなく『栄転』として海外の支社へ移動する手筈を整えたのだった。
 プライドの高い白石は喜んで応じたと、天音さんから聞いた。
 
 物理的に距離ができたことに安堵した。
 蓮は7年前のことや、スマホを勝手に見られていたこともあり白石をギャフンと言わせたいようだったけど、白石を追い詰めて私に危害を加えようとするよりは良いと考えを改めた。
 これで、3ヶ月続いた蓮の送り迎えは終了する。

 それを考えると少し寂しい気がする。
 だから──

「美咲。一曲弾こう!」
 香澄が声をかけてきた。
「あっ、うん。天音さん、すみません」
「いいのよ。報告はすんだし。重たい話より、二人の連弾を聞ける方がずっといいわ」
 天音さんがニカッと笑った。
 ときどき子どものように笑うから、ギャップが可愛い。

 香澄と二人でピアノに向かう。
 心地よい緊張感だ。
 自然と店の中が静まり返る。

 オリジナル曲『音織』

 音が店内を包んでいく。
 香澄との音の会話は、心地よく発見も多い。
 ときには『私は今日こんな気分だ』と音で伝えれば『じゃあ、こんなのはどう?』と二人だけの音の会話が堪らなく楽しい。
 本当に幸せだ。

 曲が終わると、大きな拍手に包まれる。
 みんなに挨拶をしながら、カウンターに座ってこちらをニコニコと見ている蓮のもとへ向かった。

 『いい演奏だったよ』

 『ありがとう』

 蓮に私のピアノは聞こえていない。だけど蓮は『いい演奏だった』といつも言ってくれる。
 社交辞令的な意味合いだと思っていたが、彼は私の演奏中の表情や、観客の反応を見ていると教えてくれた。
 いい演奏をしているときは、私の表情が楽しそうに輝いているらしい。それに、学生時代に聞いていた私のピアノの音色が甦ると言っていた。
 蓮の中で、私の音色はちゃんと響いているのだとわかって、泣きたくなった。

 だから──

 私はポケットにしまっていた手紙を蓮に渡した。
 少し驚いていたけど、ゆっくりと手紙を開いてくれた。
 そこには白紙の手紙が入っていた。
 困惑してこちらを見てくる蓮。
 私は蓮に内緒で覚えた手話で話しかけた。

 『蓮へ

 いつも私を見てくれてありがとう。
 私を好きでいてくれてありがとう。
 寄り添ってくれてありがとう。

 私、もっと蓮のことを知りたい。
 蓮の世界を知りたい。
 まだ勉強中だけど、ちゃんと手話を覚えて、蓮の世界に飛び込む。

 これからもずっと一緒にいたい。

 これからの白紙の未来を、一緒に描いてほしい。
 だから、
 一緒に住む場所を探そう。

 毎日、蓮に会いたい。
 毎日、蓮におはようもおやすみも言いたい。
 もう、離れたくない。

 ずっと一緒にいて』

 何度も練習した手話。
 間違ってなかったと思うけど、伝わっただろうか……。

 不安な顔をしていると、蓮が立ち上がって私を抱き締めた。そして耳元で「うれしい」と囁いた。

 周りから黄色い声が響いた。でも、蓮の耳にも私の耳にも聞こえず、蓮は私にキスをした。

 人前で恥ずかしいけど、幸せな25歳の誕生日だ。
 これから新しい私たちを始めよう。
 蓮からもらった25通の手紙の続きを、白紙の手紙から一緒に書いていこう。

 あの頃に置き忘れた恋をもう一度始めて、いつの日か、その恋が『愛』に変わるように、二人で始めよう。

 fin


 ─────────────────────────────────────

 あとがき

 最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
 なんとか途切れずに連載できて、本当に良かったです。

 今回の作品は書いている私の方が、いろいろと勉強になる作品でした。
 今後もより良い作品をお届けできるよう、精進して参ります!

 次回作も楽しんでいただけるよう、全力で頑張ります。また、温かい応援を賜れれば幸いです。
しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

yuri
2025.11.10 yuri

楽しく読ませていただいています。
新キャラ登場で、今後の展開も楽しみです。
色々と経験し学び成長していく主人公を見守っていきたいです。
相手に障害があるのは私も同じで共感して読んでしまいます。

2025.11.11 ともどーも

感想をありがとうございます!
( ≧∀≦)ノ
楽しんでいただけて嬉しいです。
感想をいただき、やる気が漲りました!
ご期待に添えるように、頑張ります!
o(≧∇≦)o

解除

あなたにおすすめの小説

私と幼馴染と十年間の婚約者

川村 あかり
恋愛
公爵令嬢ロゼリアは、王子アルベルトとの婚約を結んでいるが、彼の心は無自覚に幼馴染のミナに奪われていた。ミナの魔法【魅了】が無意識に周りの男性を狂わせ、アルベルトもその例外ではない。 それぞれが生まれつき得意な魔法があり、ロゼリアは見たものや聞いたものを完璧に記録できる【記録・再生】の魔法を持ち、二人の関係に耐えきれず胃の痛みに悩む日々。そんな中、彼女の唯一の理解者の冷静沈着なキースや毒舌のマリーが心の支えとなる。 アルベルトの側近であるガストンは、魔法【増幅】で騒動を盛り上げる一方、ミナの友人リリィは【幻影】の魔法を使ってロゼリアを貶めようと画策する。 婚約者と幼馴染の行動に振り回されるロゼリア。魔法が絡んだ恋愛模様の中で、彼女は本当の愛を見つけられるのか?

侯爵令嬢ソフィアの結婚

今野綾
恋愛
ソフィアは希少なグリーンアイを持つヴィンセントと結婚した。これは金が欲しい父の思惑と、高い爵位が欲しいヴィンセントの思惑が一致したからに過ぎない。 そもそもヴィンセントには恋人がいて、その恋人は身分に大きな差があるために結婚することは叶わないのだ。 結婚して早々、ソフィアは実家から連れてきた侍女夫婦とあばら屋に住むように言われて…… 表紙はかなさんのファンアートです✨ ありがとうございます😊 2024.07.05

悪役令嬢と誤解され冷遇されていたのに、目覚めたら夫が豹変して求愛してくるのですが?

いりん
恋愛
初恋の人と結婚できたーー これから幸せに2人で暮らしていける…そう思ったのに。 「私は夫としての務めを果たすつもりはない。」 「君を好きになることはない。必要以上に話し掛けないでくれ」 冷たく拒絶され、離婚届けを取り寄せた。 あと2週間で届くーーそうしたら、解放してあげよう。 ショックで熱をだし寝込むこと1週間。 目覚めると夫がなぜか豹変していて…!? 「君から話し掛けてくれないのか?」 「もう君が隣にいないのは考えられない」 無口不器用夫×優しい鈍感妻 すれ違いから始まる両片思いストーリー

夫と愛し合った翌朝、一方的に離縁されました【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
美しい公爵夫人マルグリートは、冷徹な夫ディートリヒと共に、王国の裏で密かに任務をこなす“悪女”。 だがある日、突然夫から離婚を言い渡される。しかもその裏には、平民の愛人の存在が──。 失意の中、王命で新たな婚約者・エルンストと結ばれることに。 どうやら今回の離婚再婚は、王家の陰謀があるよう。 「悪女に、遠慮はいらない」 そう決意した彼女は、華やかな舞踏会で王に真っ向から言い放つ。 「わたくし、人の家庭を壊しておきながら悪びれない方に、下げる頭は持っていませんの。  王族であられる前に、人におなりくださいませ。……失礼」 愛も、誇りも奪われたなら── 今度はこの手で、すべてを取り戻すだけ。 裏切りに燃える、痛快リベンジ・ロマンス! ⚠️本作は AI の生成した文章を一部に使っています。タイトル変えました。コメディーです。主人公は悪女です。

その眼差しは凍てつく刃*冷たい婚約者にウンザリしてます*

音爽(ネソウ)
恋愛
義妹に優しく、婚約者の令嬢には極寒対応。 塩対応より下があるなんて……。 この婚約は間違っている? *2021年7月完結

【完結】優しいあなたに、さようなら。二人目の婚約者は、私を殺そうとしている冷血公爵様でした

ゆきのひ
恋愛
伯爵令嬢であるディアの婚約者は、整った容姿と優しい性格で評判だった。だが、いつからか彼は、婚約者であるディアを差し置き、最近知り合った男爵令嬢を優先するようになっていく。 彼と男爵令嬢の一線を越えた振る舞いに耐え切れなくなったディアは、婚約破棄を申し出る。 そして婚約破棄が成った後、新たな婚約者として紹介されたのは、魔物を残酷に狩ることで知られる冷血公爵。その名に恐れをなして何人もの令嬢が婚約を断ったと聞いたディアだが、ある理由からその婚約を承諾する。 しかし、公爵にもディアにも秘密があった。 その秘密のせいで、ディアは命の危機を感じることになったのだ……。 ※本作は「小説家になろう」さん、カクヨムさんにも投稿しています ※表紙画像はAIで作成したものです

その結婚は、白紙にしましょう

香月まと
恋愛
リュミエール王国が姫、ミレナシア。 彼女はずっとずっと、王国騎士団の若き団長、カインのことを想っていた。 念願叶って結婚の話が決定した、その夕方のこと。 浮かれる姫を前にして、カインの口から出た言葉は「白い結婚にとさせて頂きたい」 身分とか立場とか何とか話しているが、姫は急速にその声が遠くなっていくのを感じる。 けれど、他でもない憧れの人からの嘆願だ。姫はにっこりと笑った。 「分かりました。その提案を、受け入れ──」 全然受け入れられませんけど!? 形だけの結婚を了承しつつも、心で号泣してる姫。 武骨で不器用な王国騎士団長。 二人を中心に巻き起こった、割と短い期間のお話。

【完結】本日、私の妹のことが好きな婚約者と結婚いたしました

音芽 心
恋愛
私は今日、幼い頃から大好きだった人と結婚式を挙げる。 ____私の妹のことが昔から好きな婚約者と、だ。 だから私は決めている。 この白い結婚を一年で終わらせて、彼を解放してあげることを。 彼の気持ちを直接聞いたことはないけれど……きっとその方が、彼も喜ぶだろうから。 ……これは、恋を諦めていた令嬢が、本当の幸せを掴むまでの物語。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。