尽くしてきた婚約者に裏切られたので、婚約を解消しました〜彼が愛に気づいたのは、すべてを失ったあとでした〜

ともどーも

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第一章

八話 言い訳は無意味

「三度目ね」
 
 珍しくディートリッヒの顔色が青くなった。
 驚きすぎて、言葉が出ないようだ。
「……なんで知って……」
「ドレスを少し直したくて、店に行ったら『あなたがキャンセルした』と言われたわよ」
「いやっ……仕方がなかったんだ。エレノアの──」
「またエレノア様ね」
 言い訳を口にしかけたから、イラッとして彼の言葉を遮った。

「あの暴力野郎が、エレノアを追いかけてポルトリア王国に来たんだ。守ってやりたかったんだ。だから──」
「だから勝手に結婚式をキャンセルした」
「っ……そうだ。エレノアは酷く怯えていて、俺、見ていられなかったんだ。友人たちとエレノアを守ろうって話になって、俺だけ加わらないのは変だろ?」

 変?
 結婚を控えた人を誘う友人が変だし──
 いいえ、私たちの価値観が違うのね。

「そうね。変ね」
「だろ!わかってくれるよな。さすがイリス」
 ディートリッヒはさっきまで辛そうな顔をしていたのに、一気に顔を綻ばせた。

「誤解は解けたのだから、一緒に──」
「帰らない」
「っ!」

 理由はわかった。
 ただ、それだけだ。
 私たちは、初めから違いすぎたのだ。
 合わない歯車を、無理に噛み合わせようとしていただけ。

「二度目の結婚式キャンセルのとき、ディートリッヒが言った言葉を覚えてる?」
「俺の言葉?『必ずお前と結婚するから安心しろ』か?その気持ちに嘘はない。次こそは結婚する」
 ディートリッヒは姿勢を正して──
 
「今回が最後だ。誓うよ」

 二度目の結婚式キャンセルのときに言った『誓い』を、彼は今回も使った。
 もう、怒りさえ沸かなかった。

「わかった」
 私はうっすらと作り笑いをした。
「イリス。すまない」
 気持ち悪い腕が私を包んだ。
 キツいローズの匂いが鼻を突いた。
 これはエレノアが好んで付けている香水だ。

 反射的にディートリッヒを突き放した。
「香水がキツくて気持ちが悪くなった」
「え?!」
 ディートリッヒは自分の服の匂いを嗅ぐが、わからないようだ。

「今日はここに泊まるわ。さすがに、勝手に結婚式をキャンセルしたことを『すぐ納得できる』ほど、心が広いわけじゃないの。一人で考えたい。今は帰って」
「すまない、イリス。お前を傷つけてしまった」
「いいの。もう、いいのよ。これは私の問題だから」

 そう、この恋を終わらせるための整理だから。

「わかった。今日は帰る。明日には帰ってきてくれるよな?俺、迎えにくるよ」
「さすがに、一日二日で感情が落ち着くことはないのではないかしら?」
 私の指摘にディートリッヒは眉を寄せた。

「怒っているのか?」
「いいえ。ただ、戸惑っているのよ。気持ちの整理には、誰だって時間がかかるでしょう?」
 微笑みかけると、ディートリッヒは安心したのか「そうだな」と胸を撫で下ろした。

「もう帰って来いとは言わない。君の気持ちが整うまで待つよ。ただ、明日も来ていいか?君に渡したいものがあるんだ」
「まあ、何かしら?」
「良質な宝石が見つかったから、君のためにイヤリングを作ったんだ。受け取ってほしい」

 いつもの『機嫌取り』用に準備した物だろう。
 昔、お茶会で『男性が記念日でもないのに、高価なプレゼントを渡してくるのは後ろめたい罪悪感を誤魔化すためだ』と、どこかの夫人が言っていたわ。

 ディートリッヒの行動に愛はない。

 そのことに気が付く、いや、認められるまで四年もかかってしまったわ。
 私はもう、迷わない。

「気持ちの整理に三日は欲しいわ。三日後に帰るから、そのときに、あなたの真心がこもったイヤリングを見せて」
「わかった。三日後、迎えに来るよ」
「いいえ、屋敷で待ってて。ちゃんと自分の意思で歩きたいから」
「わかった。愛してるよ、イリス」
 
 優しい顔、優しい声。
 彼に愛されていると錯覚させる。
 でも、もう騙されない。
 大事なときに、私を優先してくれない人に、これからの人生を捧げるつもりはない。

 三日後、私はここを出ていく。
 彼のいない人生へ。
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