尽くしてきた婚約者に裏切られたので、婚約を解消しました〜彼が愛に気づいたのは、すべてを失ったあとでした〜

ともどーも

文字の大きさ
11 / 82
第一章

十話 遅すぎる違和感

「おお~!!」
 鉱山近くに設けられた会議室は、いつになく熱気に満ちていた。
 長机の上には、今朝掘り出されたばかり様々な宝石の原石や、精製途中の鉱石がずらりと並べられている。
 それらを手に取った有力者たちは、誰からともなく感嘆の声を上げた。
 
「これは……見事だ。色、透明度、どれを取っても一級品だな」
「この量を、これほど短期間で安定して採掘できるとは」
「伯爵閣下、若いのに恐れ入りました。まさに先見の明ですな」
 視線は一斉にディートリッヒへと集まる。
 彼は軽く咳払いをし、満足げに頷いた。
「運が良かっただけです。領地に眠っていた可能性を、少し掘り下げただけですよ」
 謙遜めいた言葉とは裏腹に、胸の奥では甘い優越感が膨らんでいく。
 
(運、なのではない。これは、俺が統計や傾向を吟味して決断し、命じ、進めさせた結果だ)
 
「いえいえ、運だけでここまで整いませんよ」
「採掘計画、安全対策、物資の手配……すべてがよく考えられている」
「前伯爵の代では、ここまで思い切った投資はできなかったでしょう」
 
 誰一人として、イリスの名を口にする者はいない。
この鉱山を最初に見つけ、試掘を進言したのが誰かなど、彼らは知らないのだ。
 そして──
 ディートリッヒ自身も、あえて訂正しようとは思わなかった。
 
(今さら説明する必要はないだろう)
 そう、心の中で片付ける。
 
 (彼女の案を採用し、形にさせたのは自分なのだから。成果を評価されるのも、当然だ)
 
「それで伯爵閣下」
 一人の有力者が、にやりと笑って身を乗り出した。
「これほどの功績を挙げられて、いつご結婚なさるのです?奥方が決まっていなければ、領地の娘たちが放っておきませんぞ」
 場がどっと沸く。
 次々と飛び交う祝福と冷やかしの言葉。
「良い時期を見て、というところです」
ディートリッヒは曖昧に笑ってかわした。

(イリスとは、ちゃんと結婚するさ。ただ、エレノアの問題が解決していない。こんな気持ちで結婚してもうまくはいかない。なに、少し時期を延ばしただけだ。彼女は俺を愛しているからな。これくらいのこと、理解してくれて当然だ)

 昨日の「わかった」と、笑ったイリスの顔が頭によぎる。ディートリッヒは少し罪悪感を感じたが「問題ない」と心の中で言い聞かせた。

 (やはりイリスは俺にとって大切な人だ。結婚したらたっぷり甘やかしてやる。あいつ、ちょっと優しくしただけで顔を真っ赤にするから、甘やかされたら心臓が持たないんじゃないか?)
 
 イリスとの未来を考えると、ディートリッヒは思わず顔が緩んだ。
 自分たちには幸せな未来が待っていると、彼は信じて疑わなかった。

 
 ◇◇◇

 
 会議はその後も滞りなく進み、夕刻前にはお開きとなった。
 有力者たちを見送った頃には、ディートリッヒの頭はすっかり疲労と満足感で満たされていた。
 
(今日はよく働いた)
 
 自分を褒め称え、馬車に乗り込む。
 窓の外を流れる鉱山の景色は、どこか誇らしげに見える。
 
 屋敷に戻ると、すでに日が傾き始めていた。
 玄関ホールに足を踏み入れた瞬間、最初に目に入ったのは──。
 控えめに立つ、エレノアの姿だった。
 
「お帰りなさい、ディートリッヒ」
 エレノアは、足をかばうようにして一歩前に出る。
 その仕草はひどく健気に見えた。
「まだ無理をするな。医師には安静にと言われているだろう」 
「ええ……でも、どうしても出迎えたくて」
 そう言って、困ったように微笑む。
 その姿に、ディートリッヒも微笑み返す。
 彼はおもむろに外套を脱ぐが、その外套をエレノアは受け取ってくれなかった。
「どうしたの?」

 イリスならディートリッヒが外套を脱ごうとすれば、後ろに回ってサポートをして、そのまま受け取ってくれていた。
 それが当たり前で、イリスがいて当然の環境に慣れていたことに、今さら気が付く。

(彼女に会いたい……。いやいや、一人になりたいと言っていたのだから、彼女の意見を尊重するべきだ)
──と自分に言い聞かせた。
(ただでさえ、結婚式のをしたんだ。今は会いに行くべきではない)

 イリスの不在が、こんなにも寂しいものなんだと、ディートリッヒははじめて思い知った。
 そして、そんな姿にエレノアが嫉妬していることに、気が付きもしなかった。
感想 289

あなたにおすすめの小説

【完結】私を裏切った不倫夫に「どなたですか?」と微笑むまで 〜没落令嬢の復讐劇〜

恋せよ恋
恋愛
「早くあんな女と別れて、可愛い子と一緒になりたいよ」 不倫中の夫が笑う声を聞き、絶望の中で事故に遭うジェシカ。 結婚五年目に授かったお腹の子を失った彼女は、 「記憶を失ったフリ」で夫と地獄の婚家を捨てることを決意。 元男爵令嬢の薄幸ヒロインは、修道院で静かに時を過ごす。 独り身領主の三歳の男の子に懐かれ、なぜか領主まで登場! 無実の罪をなすりつけ、私を使い潰した報いを受けなさい。 記憶喪失を装った没落令嬢による、「ざまぁ」が幕を開ける! ※本作品には、馬車事故による流産の描写が含まれます。  苦手な方はご注意ください。主人公が絶対に幸せになる  物語ですので、安心してお読みいただければ幸いです。 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!

夫は私を愛していないそうなので、遠慮なく離婚します。今さら引き止められても遅いです

藤原遊
恋愛
王妃付き護衛騎士である夫に、「お前を愛したことはない」と告げられた。 理由は単純。 愛などなくても、仕事に支障はないからだという。 ──そうですか。 それなら、こちらも遠慮する必要はありませんね。 王妃の機嫌、侍女たちとの関係、贈り物の選定。 夫が「当然のように」こなしていたそれらは、すべて私が整えていたもの。 離婚後、少しずつ歯車は狂い始める。 気づいたときにはもう遅い。 積み上げてきた信用は、静かに崩れていく。 一方で私は、王妃のもとへ。 今さら引き止められても、遅いのです。

文句を言わない婚約者は、俺の愛する幼馴染みを許していなかった【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
幼馴染を優先しても、婚約者アウローラは何も言わない。だから、これからも幼馴染みとイチャイチャできる── 侯爵令息トリスタンは、そんな甘い幻想を信じていた。 だが婿入りした瞬間、彼の“軽んじた態度”はすべて清算される。 アウローラは冷徹に、トリスタンの傲慢と欲望を1つずつ暴き、労働と屈辱を与える。 そして最後に残ったのは、誰にも必要とされない現実だけ。 「どうして……俺は、こんなにも愚かだったんだ」 これは愛を勘違いし、身分を過信し、自分の価値を見誤った男の終焉を描くダークドラマ。 ⚠️ 本作は AI の生成した文章を一部に使っています。過激ざまぁタグあります。 4/1「エステルに対する殺意」の内容を一部変更しました。

幼馴染しか見えない婚約者と白い結婚したので、夜明け前にさよならしました

ゆぷしろん
恋愛
公爵令嬢レティシアは、家同士の都合で伯爵アルフレッドに嫁ぐ。 けれど夫は結婚後もずっと幼馴染のシルヴィばかりを優先し、婚礼の夜から夫婦として触れ合おうともしなかった。名ばかりの妻として伯爵家を支え、領地経営まで立て直しても、彼にとってレティシアは“都合のいい伯爵夫人”でしかない。 やがて結婚一周年の夜、アルフレッドが自分を手放す気はない一方で、幼馴染を屋敷に迎え入れようとしている会話を聞いてしまったレティシアは、ついに決意する。 ――もう、この結婚には見切りをつけよう。 夜明け前、彼女は離縁の準備を整え、伯爵邸を出奔。 身を寄せた北の港町で薬舗を手伝いながら、自分の力で生きる穏やかな日々を手に入れていく。そこで出会ったのは、身分ではなく一人の女性として彼女を尊重してくれる青年医師ノアだった。 一方、都合よく尽くしてくれる妻を失ったアルフレッドは、ようやく自分が何を失ったのかを思い知ることになる。 幼馴染ばかりを優先する婚約者との白い結婚に終止符を打ち、傷ついた公爵令嬢が新天地で本当の幸せを掴む、離縁から始まる逆転ラブストーリー。

幼馴染が最優先な婚約者など、私の人生には不要です。

たると
恋愛
シュタイン伯爵家の長女エルゼは、公爵子息フィリップに恋をしていた。 彼の婚約者として選ばれた時は涙を流して喜んだが、その喜びもいまは遠い。 『君は一人でも大丈夫だろう。この埋め合わせは必ずする。愛している』 「……『愛している』、ですか」 いつも幼馴染を優先するアルベルトに、恋心はすっかり冷めてしまった。

あなたの言うことが、すべて正しかったです

Mag_Mel
恋愛
「私に愛されるなどと勘違いしないでもらいたい。なにせ君は……そうだな。在庫処分間近の見切り品、というやつなのだから」  名ばかりの政略結婚の初夜、リディアは夫ナーシェン・トラヴィスにそう言い放たれた。しかも彼が愛しているのは、まだ十一歳の少女。彼女が成人する五年後には離縁するつもりだと、当然のように言い放たれる。  絶望と屈辱の中、病に倒れたことをきっかけにリディアは目を覚ます。放漫経営で傾いたトラヴィス商会の惨状を知り、持ち前の商才で立て直しに挑んだのだ。執事長ベネディクトの力を借りた彼女はやがて商会を支える柱となる。  そして、運命の五年後。  リディアに離縁を突きつけられたナーシェンは――かつて自らが吐いた「見切り品」という言葉に相応しい、哀れな姿となっていた。 *小説家になろうでも投稿中です

婚約者の態度が悪いので婚約破棄を申し出たら、えらいことになりました

神村 月子
恋愛
 貴族令嬢アリスの婚約者は、毒舌家のラウル。  彼と会うたびに、冷たい言葉を投げつけられるし、自分よりも妹のソフィといるほうが楽しそうな様子を見て、アリスはとうとう心が折れてしまう。  「それならば、自分と妹が婚約者を変わればいいのよ」と思い付いたところから、えらいことになってしまうお話です。  登場人物たちの不可解な言動の裏に何があるのか、謎解き感覚でお付き合いください。   ※当作品は、「小説家になろう」、「カクヨム」にも掲載しています

お望み通り、別れて差し上げます!

珊瑚
恋愛
「幼なじみと子供が出来たから別れてくれ。」 本当の理解者は幼なじみだったのだと婚約者のリオルから突然婚約破棄を突きつけられたフェリア。彼は自分の家からの支援が無くなれば困るに違いないと思っているようだが……?