尽くしてきた婚約者に裏切られたので、婚約を解消しました〜彼が愛に気づいたのは、すべてを失ったあとでした〜

ともどーも

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第一章

三十五話 旅立ちの日、屈辱の花道

 ざわり、と空気が変わった。
 敵意を孕んだざわめきが、港に広がる。 
 男爵の言葉が落ちた直後、港の一角にいた数人の女たちが、ゆっくりと前へ出る。
 
「……あんたかい」
 
 低い声。
 真珠工場のリーダー。
 マルタだ。
 
「イリスちゃんを泣かせたって男は」
 
 もう一人、腕を組む女性。
 ニナだ。
「噂は聞いてるよ。四年も縛りつけて、他所に女作ってたってね」
 
 ざわざわ、と周囲が色めき立つ。
「最低」 
「顔を見るだけで腹が立つ」
 
 エレノアが一歩下がる。
「ち、違いますわ。誤解ですの」
 
 だが、誰も聞かない。
 
 年配の女性が、ぐっと一歩踏み出した。
 エッダだ。
「三回も結婚を取り止めといて、誤解もへったくれもないよ」

「三回も?!」
「うわっ、ないわ~」
 周囲から軽蔑の眼差しが集まる。
 
「イリスちゃんはな、良い子だよ。辛いだろうに、私らに心配かけたくないからって、明るく笑うんだ」
 別の女が続く。
「それなのに、イリスちゃんを裏切りやがって」
「しまいには、俺のもの?イリスちゃんは『もの』じゃないんだよ!」
「何を今さら、何しに来やがったんだ!」

 真珠工場の仲間たちは、今にも掴みかかりそうな雰囲気を出した。瞬間──
  
「やめなさい」
 
 静かな声。
 男爵が、片手を上げて制した。
 
 おばちゃんたちは、悔しそうに歯を食いしばる。
 
 男爵は、ディートリッヒを見ない。
 周囲を見回す。
 
「みんな、落ち着け。このような者のために、騒ぐ必要はない」
 その一言で、空気が変わった。
 
 怒りは、冷たい軽蔑へと姿を変える。
 人々が、じわじわと集まってくる。
 
 港で働く者。 
 荷を運ぶ者。 
 商人。 
 船員。
 
 誰も口を開かない。
 だが──道が、塞がれた。
 ディートリッヒの前に、自然と人の壁ができる。
 
 進めない。
 後ろを見る。
 後ろにも、壁。
 
 エレノアの指が、ディートリッヒの袖を掴み、縋るように震えた。
「ディートリッヒ……」
 
 しかし、振り払われた。
 無言で。
 
 男爵が、静かに言った。
「……道を、開けてやりなさい」
 
 一瞬の沈黙。

 足音すら、聞こえなくなった。
  
 そして。
 人々は、ゆっくりと左右に分かれた。
 
 港にできた一本の道。
 屈辱の花道。
 
 そこにあるのは、祝福ではない。
 祝福のない、公開処刑台だ。
  
 無数の視線。
 冷たい目。
 蔑み。
 突き刺すような軽蔑。
 
 ディートリッヒは、前だけを見て歩き出す。
 エレノアが後を追う。
「ディートリッヒ、待って──」
 
 返事はない。
 肩を並べることすら、許されない。
 背後で、誰かが呟いた。
 
「二度と戻ってくるな」
 
 別の声。
 
「お嬢様は、幸せになるから」
 
 さらに。
「今度は、逃がすなよ。『相思相愛』の相手をな」
 くすくす、と小さな笑い。
 ディートリッヒの背中が、わずかに強張る。
 だが、振り返らない。
 振り返れない。
 
 こうして。
 彼は、港から追い出された。
 誰にも見送られず。
 誰にも惜しまれず。
 ただ、嫌われたまま。
 それが、彼の選んだ結末だった。


第一章 完

◇お知らせ◇
 
 第一章を最後までお読みいただき、ありがとうございます!
 明日から『第二章』がスタート致します。
 
 リュミエール王国へ渡ったイリスが、『ライト・スキャン』を用いて人々の役に立とうと奮闘していきます。
 また、そのイリスを支えるクロードとの関係にも、少しずつ変化が……。
 
 さらに、イリスに執着するディートリッヒも、裏で不穏な動きを見せ始めます。
 ディートリッヒとエレノアの話も、番外編として時々挟んでいく予定です!
 
 第二章も、できるだけ間を空けず更新していけるよう頑張ります。
 1日1話以上を目標に執筆していきます!
 
 引き続き応援していただけたら嬉しいです。
 第二章も、どうぞよろしくお願い致します!
 
 ともどーも
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