尽くしてきた婚約者に裏切られたので、婚約を解消しました〜彼が愛に気づいたのは、すべてを失ったあとでした〜

ともどーも

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第二章

十話 小さな証

 鉱山跡の前は、朝から騒がしかった。
 
 人の声。
 鉄器がぶつかる音。
 岩を砕く鈍い衝撃。
 崩れ落ちて塞がっていた洞窟の入口を、人海戦術でこじ開けている。
 
 フィリオ殿下の護衛十五名。
 そして、レーヴェン公爵家の私兵三十名。
 合わせて、四十五人。

 その中には、キャメロット様の姿もあった。
 軽装ながらも、私兵たちの先頭に立っている。
 どうやら、クロード様を補佐するために来たようだ。
 
「瓦礫を奥に寄せろ!」 
「支柱を持って来い!」
 クロード様が指示を飛ばす。

「兄さん、手前側は私が見るわ」
 キャメロット様も、無駄のない動きで指示を出していた。

 私は少し離れた場所で、周辺調査をする。
 
 鉱山の坑道。
 複雑に絡み合う水脈。
 湖へ向かう本流。
 途中で細く分かれる支流。
 
 そして──
 
 鉱山とリュミナ湖の中間地点。
 今は干上がっている、小さな池を発見した。
 
(……これは)
 
 水は、リュミナ湖へ行く前にそこを通るのね。
「イリス、どうだ?」
 フィリオ殿下が駆け寄ってくる。
「鉱山と池が繋がる水脈を見つけました」
 殿下の目が見開かれた。
「そこを通せば……」
「池に、水が戻ります」
 
 一瞬の沈黙。
 
 そして、殿下は強く頷いた。
「よし。入口が開き次第、調査隊を入れる」

  
 ◇◇◇

 
   洞窟の入口が、人ひとり通れるほど開いた。
 振動による崩落を避けるため、大人数は入れない。
 
 調査隊は五名。
 私。
 クロード様。
 キャメロット様。
 護衛二名。
 
「みんな、無理はするなよ」
「はい」
 フィリオ殿下に見送られ、私たちは洞窟へ潜入した。
 
 洞窟の中は、ひんやりと冷えていた。
 私は前に出て、魔法を展開する。
 
 ──ライト・スキャン。
 
 淡い光が坑道の形を浮かび上がらせる。
「左は崩れやすいです。右へ」
 壁に、チョークで印をつける。
 
 ×。
 →。
 
「ここ、天井が薄いです。通過注意」
 クロード様がすぐに復唱する。
「聞いたな。慎重に行くぞ」
 キャメロット様が、ちらりと私を見る。
「……兄さん、こういうとこ。イリスさん見習いなよ」
「……聞こえないな」
 私は苦笑した。
 
 奥へ、奥へ。
 そして。
 
「……ここです」
 崩れ落ちた岩が、坑道を塞いでいる。
 私は水脈を覗き込む。
 岩の向こう。
 細い水の線が、池へと伸びている。
 
「この先が、池につながっています」
 クロード様が息を呑んだ。
「ここを通せば……」
「はい。小さな証になります」
「外の人員を呼ぶ」

  
 ◇◇◇

 
  クロード様の陣頭指揮と、事前に準備しておいたライトの魔道具が坑道に明かりを灯し、作業スピードは驚異的だった。

 崩れた岩を少しずつ砕き、
 小さな石から順に運び出す。
 汗と土埃が、喉に張り付く。
 支柱を入れ、天井を固定しながら、慎重に掘り進めた。
 
 そして、作業開始から四時間後──
 
 ごとり、と大きな岩が外れた。
 その瞬間。
 ちょろ……
 細い水音。
 次第に。
 ちゃぷ……
 はっきりとした流れになる。
 
「イリス」
「はい!」 
 鉱山内からライト・スキャンで水脈を確認する。
 水が、本来の水脈に戻っていく。
 外からの連絡を待つ間、クロード様は私の隣に立っていた。
 無言のまま、同じ場所を見つめている。
 彼が隣に居ると安心する。
 
「水が……!」
 外から、キャメロット様が走り込んできた。
「池に水が戻ったわ!底が見えていた場所に、水が!」
 
 一瞬、静寂。
 そして。
「「やった!!」」
 みんなの声が洞窟中に響いた。
 クロード様が、私を見る。
「イリス」
 その目は、はっきりとした敬意を帯びていた。
「君が繋いだ一歩だ」
 胸が、熱くなる。
「これで……国王陛下に報告できますね」
 私の声は、震えていた。
 クロード様は、小さく頷いた。
「ああ、ありがとう」
 
 小さな証。
 だけど。
 確かに、国を動かす一歩だった。
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