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第二章
番外編 エレノアSide──私はいつだって選ばれる側だ
男爵領の港は、息苦しいほどの異様な空気に包まれていた。
ひそひそと交わされる声。
突き刺さる視線。
あからさまな敵意と、隠しきれない侮蔑と嘲笑。
「……っ」
私は思わず、縋りつくようにディートリッヒの腕にすがった。
「ディートリッヒ……」
助けてほしい。
そばにいてほしい。
そう伝えるつもりで伸ばした手は──
ぱしり、と乾いた音がした。
無情にも、振り払われた。
一瞬、何が起こったのか分からなかった。
胸の奥が、ぎゅっと潰れる。
「ど、どうして……?」
今まで、私が呼べばすぐに振り向いてくれた。
少し不機嫌になれば、機嫌を取ってくれた。
それなのに……。
ディートリッヒは、私を見ようともしない。
ざわり。
周囲のざわめきが大きくなる。
誰かが、舌打ちした。
誰かが、呟いた。
「女狐め」
「よくものこのこ顔出せるな」
足が、すくむ。
逃げたい。
でも、どこへ?
そのとき。
「……道を、開けてやりなさい」
シュタール男爵の低い声が響いた。
人々は渋々ながらも左右に退き、一本の道ができる。
まるで──花道のように。
これで、逃げられる。
そう思ったのに。
ディートリッヒは、私を振り返らない。
そのまま、先を歩いていく。
「待って……! ディートリッヒ!」
呼びかけても、足を止めない。
どうして?
どうしてなの?
やっと花道を抜け、息ができるようになったときには──ディートリッヒの背中は、もう遠かった。
胸の奥で、黒い感情が渦を巻く。
(イリス。イリスのせいだ。あの女が、ディートリッヒの気持ちを奪ったんだ!)
いつも俯いて。
何を考えているのか分からない無表情で。
地味で。
私の足元にも及ばない、つまらない女。
そんな女に。
私のものだったはずのディートリッヒが、奪われた。
「……ありえない」
私は、選ばれる側なのに。
そういえば、昔からそうだった。
誰かが注目されると、胸の奥がざらついて、我慢ならなかった。
ふと、どうでもいい記憶がよみがえる。
子供たちを集めた茶会。
誰かが、指先を光らせる魔法を見せていた。
みんなが感心しているのが、気に入らなかった。
『ただ光るだけじゃない。つまらないわ』
『そんな光、ランタンがあれば十分でしょ?』
泣きそうな顔をした、あの子。
──顔も、名前も、もう思い出せない。
どうでもいいこと。
私が上に立つのは、当然なのだから。
奪われたなら──奪い返すまで。
そのための手段なら、いくらでもある。
「……ブルーノと、ハンス」
ディートリッヒの友人で、私と彼が結ばれるのを祝福している彼らを、また使えばいい。
私が頼めば、必ず動く。
いつものように、みんなで誘導するの。
そうすれば、ディートリッヒは、また私を見る。
また、私を選ぶ。
「だって……私は、選ばれる側だもの」
そう呟いて、私は馬車に乗り込んだ。
目指すのは、王都。
取り戻す。
いいえ──
私のものだと、思い知らせるために。
ひそひそと交わされる声。
突き刺さる視線。
あからさまな敵意と、隠しきれない侮蔑と嘲笑。
「……っ」
私は思わず、縋りつくようにディートリッヒの腕にすがった。
「ディートリッヒ……」
助けてほしい。
そばにいてほしい。
そう伝えるつもりで伸ばした手は──
ぱしり、と乾いた音がした。
無情にも、振り払われた。
一瞬、何が起こったのか分からなかった。
胸の奥が、ぎゅっと潰れる。
「ど、どうして……?」
今まで、私が呼べばすぐに振り向いてくれた。
少し不機嫌になれば、機嫌を取ってくれた。
それなのに……。
ディートリッヒは、私を見ようともしない。
ざわり。
周囲のざわめきが大きくなる。
誰かが、舌打ちした。
誰かが、呟いた。
「女狐め」
「よくものこのこ顔出せるな」
足が、すくむ。
逃げたい。
でも、どこへ?
そのとき。
「……道を、開けてやりなさい」
シュタール男爵の低い声が響いた。
人々は渋々ながらも左右に退き、一本の道ができる。
まるで──花道のように。
これで、逃げられる。
そう思ったのに。
ディートリッヒは、私を振り返らない。
そのまま、先を歩いていく。
「待って……! ディートリッヒ!」
呼びかけても、足を止めない。
どうして?
どうしてなの?
やっと花道を抜け、息ができるようになったときには──ディートリッヒの背中は、もう遠かった。
胸の奥で、黒い感情が渦を巻く。
(イリス。イリスのせいだ。あの女が、ディートリッヒの気持ちを奪ったんだ!)
いつも俯いて。
何を考えているのか分からない無表情で。
地味で。
私の足元にも及ばない、つまらない女。
そんな女に。
私のものだったはずのディートリッヒが、奪われた。
「……ありえない」
私は、選ばれる側なのに。
そういえば、昔からそうだった。
誰かが注目されると、胸の奥がざらついて、我慢ならなかった。
ふと、どうでもいい記憶がよみがえる。
子供たちを集めた茶会。
誰かが、指先を光らせる魔法を見せていた。
みんなが感心しているのが、気に入らなかった。
『ただ光るだけじゃない。つまらないわ』
『そんな光、ランタンがあれば十分でしょ?』
泣きそうな顔をした、あの子。
──顔も、名前も、もう思い出せない。
どうでもいいこと。
私が上に立つのは、当然なのだから。
奪われたなら──奪い返すまで。
そのための手段なら、いくらでもある。
「……ブルーノと、ハンス」
ディートリッヒの友人で、私と彼が結ばれるのを祝福している彼らを、また使えばいい。
私が頼めば、必ず動く。
いつものように、みんなで誘導するの。
そうすれば、ディートリッヒは、また私を見る。
また、私を選ぶ。
「だって……私は、選ばれる側だもの」
そう呟いて、私は馬車に乗り込んだ。
目指すのは、王都。
取り戻す。
いいえ──
私のものだと、思い知らせるために。
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