尽くしてきた婚約者に裏切られたので、婚約を解消しました〜彼が愛に気づいたのは、すべてを失ったあとでした〜

ともどーも

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第二章

十三話 フィリオSide──選ぶ権利

 扉が閉まる音が、やけに大きく響いた。
 王の執務室に残されたのは、向かい合って座る国王とフィリオだけ。
 沈黙が訪れるより先に、フィリオは口を開いた。
 
「なぜ、イリスをレーヴェン公爵家に預けるのですか」
 国王は視線を上げる。
「本来なら、王家が客人としてもてなすべき存在です」
 一拍。
 
「それは質問か」
 国王の声は低い。
「それとも、確認か」 
 フィリオは立ち上がった。
 
「イリスを、どうするつもりですか」
 
 空気が張り詰める。
「囲い込むのですか」
 国王は即答した。 
「そうだ」 
 フィリオの拳が、ぎゅっと握られる。 
「国家の利益に資する力だ。管理するのは当然だろう」
 フィリオは歯を食いしばる。

「……彼女は、物じゃない。そんな扱いをするな」
 
 国王の眉が動く。
「彼女には一生この国に居てもらう。足かせは必要だ」
 あまりの言葉にフィリオは目を見開いた。
「奪われる前に取る。それが王だ」
 
「それは詭弁だ!」
 フィリオはテーブルを叩いた。
「彼女が誰を好きになるかも、どこで生きるかも、彼女が決めることだ」
  
 国王は冷ややかに言う。
「クロードでも、お前でも構わん」
「なっ?!」
 フィリオは息を飲んだ。
「他国の男爵令嬢であろうと、養子に迎えれば済む。彼女を『幸せな形』でこの国の礎にする役は、誰でもいいんだ。この意味がわかるか」
 
 その瞬間。
 フィリオの顔から、血の気が引いた。
 
「……本気で、言っているのですか」
「感情で国は守れん」
 フィリオは首を振る。
 
「そんなやり方で守れるのは、国の『形』だけです。彼女の心を利用するな!」
 
 国王の声が強まる。
「利用するな、だと?」
「そうです!」
 フィリオは睨み返す。
「彼女の感情は、彼女のものだ!誰かの都合で縛るものじゃない!」
 
 一瞬の沈黙。
 国王は低く言う。
 
「では聞こう」
「彼女が国に留まることを望まなかった場合は?」
 フィリオは迷わなかった。
「帰してあげます。彼女が選んだなら、それが答えです。もしもクロードを選ぶなら、僕は協力する」
 まっすぐに。
 
「それが、僕の答えです」

 国王はため息をついた。
「まだ子供だな。守りたいなら、縛れ」 
「それは、守るとは言わない。ただの支配だ」

 フィリオの声は低く、しかし揺れていなかった。
 王は何も言わない。
 重い沈黙が執務室に落ちる。
 
 そのとき。
 ──コンコン。
 控えめなノック音。
 国王が視線を向ける。
 
「入れ」
 扉が開き、姿を見せたのは王太子クリスだった。
 
 柔らかな笑みを浮かべているが、空気の重さを察したのか、すぐに表情を引き締める。 
 その背後には、側近ノジドの姿。
 
 クリスは振り返り、穏やかに言った。
「ノジド。ここからは私一人で大丈夫だ」
 微笑んだまま、しかし有無を言わせぬ声。
 ノジドは一瞬だけフィリオを睨み、扉の外へ下がった。
 
 扉が閉まる。
 三人だけになる。
 クリスは室内を見回し、困ったように眉を下げた。
 
「……川の増設計画の件で相談に来たんだけど……ずいぶん、熱い話をしているみたいだね」
 国王はため息をついて言った。
「原因が鉱山跡だとわかったんだ。そちらは白紙に戻せ」
「それは良かった。増設はお金がかかり過ぎるからね」
 
 フィリオはクリスを見る。
「兄上」
 クリスはフィリオの近くまで歩き、並ぶように立った。にっこりと微笑む。
 
「それで、二人の話はイリス嬢のことかな?」
 国王が腕を組み、フィリオは難しい顔をした。
 クリスはゆっくりと口を開く。 
「父上は、イリス嬢の力が欲しい」
「フィリオは、イリス嬢の意思を守りたい」
 ちらりと二人を見る。
「……どっちも、間違ってないと思う。ただ」 
 クリスが小さく息を吸う。
「力を縛って手に入れた国は、いつか内側から壊れる」
 国王は、じっとクリスを見た。
「でも、何もしなければ奪われるのも事実だ」
 フィリオは視線を落とす。
 
「だから……『選ばれる国』になればいい」
 
 フィリオの目が見開かれる。
 国王は黙ったまま、腕を組む
 
「綺麗事だな」
 クリスは微笑む。
「はい。王太子らしいでしょう?」
 一瞬。国王の口元が緩んだ。
 
「……レーヴェン公爵家行きはそのままだ。だが」
国王は言葉を続ける。
 
「強制的な縁組はしない」
 
 フィリオの目が見開かれる。
「彼女の意思を確認する。それまでは、誰のものでもない」
 フィリオは深く頭を下げる。
「……ありがとうございます」
 
 フィリオは、胸の奥で静かに誓った。
(彼女が笑って選べる未来を僕は、必ず守る)
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