尽くしてきた婚約者に裏切られたので、婚約を解消しました〜彼が愛に気づいたのは、すべてを失ったあとでした〜

ともどーも

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第二章

二十話 王命の婚約祝い

 翌日。
 朝、目を覚ました瞬間、いつもと違う音が聞こえた。
 
 廊下を走る足音。
 何かを運ぶ声。
 箱を置く鈍い音。
 
 まるで屋敷全体が騒いでいるようだった。
 コンコン、とノック。
「イリス様、失礼いたします」
 侍女が慌てた様子で部屋に入ってくる。
「どうしたの?」
「王城から贈り物が届きました」
「贈り物?」
 侍女は少し言いにくそうに口を開く。

「婚約祝いとのことで……」
 
 一瞬、意味が理解できなかった。
「……え?」
「国王陛下より、公爵家へです。大量に届いておりまして……」
 胸がざわついた。
 
 婚約祝い?
 私とクロード様は──まだ、そんな話はしていない。
 
「クロード様に確認しに行きます」
 急いで侍女に支度を手伝ってもらい、部屋を出た。


 ◇◇◇

 
 クロード様の部屋の前まで来たとき、違和感に気付く。
 
 廊下に箱が並んでいた。
 王家の紋章入りの箱。
 宝石箱のような小さな箱。
 長い木箱。
 明らかに祝いの品だった。
 
「クロード様はいらっしゃいますか?」
 使用人に尋ねる。
「クロード様は旦那様の執務室へ向かわれました」
 胸が少しだけ嫌な音を立てる。
 
 どうしてガルディオ様のところへ?
 
 そのとき。
「ちょっと待って」
 背後から声。
 
 振り向くと、キャメロット様が立っていた。
 どうやら彼女も騒ぎを聞きつけて来たらしい
 
「ねえ、イリス」
「はい?」
「これ……何?」
 廊下の箱を指差す。 
「婚約祝いらしいです」
「……は?」
 キャメロット様の眉が跳ね上がる。
「婚約したの?」
「してません」
「よね?」
「してません」
 キャメロット様は腕を組んだ。
「じゃあなんで婚約祝い?」
「それをクロード様に聞こうと……」
 キャメロット様は深くため息をついた。
「嫌な予感しかしないわね」
「……私もです」
「行きましょう」
 二人でガルディオ様の執務室へ向かった。


 ◇◇◇
 
 
 執務室の前まで来たとき、中から声が聞こえた。
 クロード様の声だった。
「……婚約はまだだと報告していたはずだ」
 低い声。
 怒りを押し殺したような響き。
 
 イリスの足が止まる。
 ガルディオ様の声が続く。
「陛下が噂を聞いたらしい」
「噂?」
「お前たちが相思相愛だという」
 胸が大きく跳ねる。
 キャメロット様が小さく眉をひそめた。

 噂。
 昨日、ノジド様にも言われたわ。
 
 ガルディオ様は淡々と言う。
「陛下としては、イリス嬢を早く囲い込みたいのだろう」
 
 ──囲い込み……?

「彼女の魔法は貴重だ」

 ──ライト・スキャンが……

「お前と結婚すれば、彼女の籍はリュミエール王国となり、他国に奪われることもない」

 昨日のノジド様の言葉が頭をよぎった。
 『国を選ぶということは、もう一方を捨てることでもあります。ご家族も、故郷も』
 彼はこの事を示唆していた。

「王命は絶対だ」

 ──王命……?

 頭が真っ白になる。

 王命。
 クロード様の告白。
 まさか──

「イリス嬢を説得しろ。婚約に頷かせれば済む話だ」

 やめて。
 聞きたくない。
 
「俺は──」
「婚約してしまえば、逃げられない」
  
 次の瞬間。
 キャメロット様は扉を押し開けた。
「ふざけるな!」
 彼女の怒声が部屋に響いた。
 
 クロード様とガルディオ様が振り向く。
「王命?囲い込み?」
 キャメロット様の目は怒りで燃えている。
 
「イリスさんを物みたいに扱うのはやめてください!」
 
 クロード様が驚いた顔をする。
「キャメロット?」
 
 クロード様と目が合う。 
 胸が締め付けられた。
 息が苦しい。
 考えるより先に、私は逃げ出した。
 
「イリス!」
 クロード様の声が背中に届く。
 だが止まれない。
 止まったら、何かが壊れそうだった。
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