【完結】コンペンセント

犀川稔

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28話 黒い蟠り-満視点-

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 表上、俺は慶に謝って今程よい距離感の関係を築くことができた。慶の性格的にきっと俺の事を突き放すことはないと思っていたけれど校内で俺を置いて行ってしまった時は正直焦った。だから本当はこんなにもあっさり告白をするつもりはなかったが、今回ばかりは仕方ない。恋愛感情があったと知れば人情が厚い慶は同情して俺から避けることをやめるだろうと思ったけれどやはり俺の思った通りだった。
 あれから途絶えていた連絡も復活し慶自身も自分から色んな話を持ちかけてくれるようになった。慶の行動を把握できない事とどこにいるのかを知ることができないのは少し痛い気もするけど今はしょうがない。下手に動いて勘付かれるより今は静かに慶の良き理解者演じるのがいいに決まっている。
 だからできるだけ極自然に。慶と過ごす時間を取るように俺は努めた。
 校内ではもちろんの事。前までは別で過ごしていたコマとコマの休憩時間でさえも一緒にトイレに向かったり慶の様子をよく観察するようにした。そして気づいたのがたまに襟の隙間から見える首筋にある紅く付いた痕だった。
 最初は目を疑った。しかし三度ほどそれを見た時に俺はそれがキスマークなのだと確信した。
 でも相手は......?俺が知る限り相手は学校のやつでもバイト先のやつでもない。将又、スタジオのやつなんて慶が心を許してるわけがないし論外だ。だとしたらどこの誰だ?そもそも女なのか?
 俺は告白した時のあのすんなりとした冷静な受け入れからすると、慶はきっと同性からの好意も悪く捉えていない。と言うことは相手は......。
 考えれば考えるほど胸糞が悪くなるその感情を必死で押し殺して満は慶の隣で授業を受けた。

「そういえば慶、もう少しでコンクールだよね?場所的に行けそうだから俺も今回は見に行こうかなって思ってるんだよね!」
 授業が終わり荷物をまとめている慶に満が話しかけた。
「え、ほんと!?嬉しい、なら今回は失敗できないから更に練習頑張らないと。」
「いやいや、今のままでも慶の演奏は世界一だよ。長い間そばで聴いてきた俺が言うんだから間違いない。」
 笑って話す満に慶が「ありがとう。」と返すと二人は一緒に教室を出た。

「今日はこのままスタジオ行くんだよね?俺この後暇だし近くまで送るよ。」
 そう言われて満と一緒にスタジオの近くまで歩いていると後ろから声をかけられた。振り返るとそこには小野寺の姿があり慶は笑って挨拶をした。それから仲良さそうに話す二人を見て満は取り繕った笑みを浮かべた。
「あっ、満ごめん。話し込んじゃって...彼は同じスタジオで練習してる小野寺くん。今回のコンクールで一緒にフルートを演奏してくれるんだけどよく僕の話し相手もしてくれるんだ。」
 黙り込む満に気付き慶が小野寺の事を紹介すると満がパッと明るい顔をして小野寺の方を見上げた。
「そうだったんだ。慶がスタジオで仲良い人がいたなんて驚いたよ。いい人に出会えてよかったね!...初めまして有城満です。慶がいつもお世話になってます。」
 そう言って満が手を出すとその手を見ながら小野寺は少し考えた顔をしながら手を取った。
「ゆうしろ...って...あ、もしかしてあの有城グループの!?確か前に見た記事で息子さんの名前が満って書かれていたような!」
 興奮して大きな声で話す小野寺に満が笑顔で頷くと小野寺は感動したように嬉しそうに何度も握手したまま手を振った。「そろそろ手を離しなよ。」と慶に促されると小野寺はハッとしたように謝って強く掴んでいた手を離した。それに対し、満は慶に視線を戻すと優しい声で慶に話しかけた。
「それじゃあ、あまり長居したら迷惑になっちゃうし俺は帰るよ。二人とも練習頑張ってね!」
 そう言い残すと満が笑って手を振りその場から去って行った。

「満くんってすごい明るくて優しい子だね。お金持ちの人って勝手に傲慢な感じ想像してたけど全然違ってびっくりだわ、今も桜庭くんのことわざわざここまで送ってくれたんでしょ?どういう仲なの?」
 満が姿が見えなくなると小野寺は不思議そうに慶との関係を聞いた。
「あ、満とは小学校からの仲なんだ...出会った当初から満はあんな感じだから周りからすごく好かれてたよ!すごいよね、本当に非の打ち所がないくらい素敵な人だよ。」
 自分の友達が褒められて嬉しそうにする慶を見て小野寺は「そうやって言ってくれる友達がいることも満くんにとっては嬉しいと思うよ。」と返事を返し、それから二人はスタジオの中に入っていった。

 スタジオに慶があんなに仲良く話す相手がいたなんて驚いた。流石に止めることはできないけどなんとかして終止符を打たせたいところではある。あんなに俺以外に楽しそうに話すのを見るのは気が引ける。が、どうしたらいいものか......。
 そんなことを考えながら呼んでいた迎えの車に乗り込むと満は一人で黙々と考えていた。そんな満に佐伯は思い出したように口を開いた。
「余談ですが、今度の会食にまたあの榊原様とその息子さんも参列されるそうですよ。また満さんに会えるのを楽しみしているとのことです。」
 その話を小耳に挟むと満は息を大きく吐いた。
「会食...か。」
 気乗りがするものではないが今のこの浮かない気持ちでいるよりかは外部との接触をしていた方が気が紛れるのかもしれないな。慶のことも今すぐにどうこうできる問題でもない。今は自分のポジションの確立を優先するべきか。
 心の中でそう考えた俺は二つ返事で自分の参加を父親に報告させた。

 しかしその会食の帰途、俺は自分の想像を遥かに超えた最悪な事態を目の当たりにする事となった。
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