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二
30話 変わらないコト
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「いつから満と知り合いだったの?」
帰りの車の中でボソッと慶が口を開くと面倒臭そうに鮫島は携帯を片手に返事をした。
「面と向かって初めて話したのはひと月前くらいだ。それ以前から俺はお前のこと調べている段階で知っていたが向こうは俺を知りもしなかっただろうな。」
「なんで僕に教えてくれなかったの?」
「なぜお前に言わないといけない?プライベートならまだしも、仕事柄出会っただけの話だ。いちいち報告するから筋合いもないだろ。」
「......だとしても教えて欲しかった。」
「俺が言ったところでお前はどうしていた?どうすることもできないだろ?だから俺は遠回しに来なくていいと言った。それを無視して芝野に連れて来てもらったのは他でもなくお前自身だろ。俺は何か間違ったことを言っているか?」
畳み掛けるように質問攻めをしていた慶だったが鮫島のその一言で言葉を失い黙り込んだ。
「好奇心旺盛なのはいいことだが今はそう言う気分じゃない。少しは理解しろ。」
慶の方に目を向けた鮫島はそう冷たく突き放すとため息を吐いて怪訝そうに煙草を吸い出した。
「あ、の...さっきはごめんなさい......。」
家に帰りジャケットを脱ぐ鮫島に慶は声をかけると今度はそのまま脱衣所に向かい、風呂の準備をしていた芝野に声をかけた。
「芝野さんも......満がいるの知ってて僕がついて行くの躊躇ったんですよね。それなのに我儘言ってごめんなさい。」
申し訳なさそうに謝る慶の前に立つと芝野は笑って「気にしないでください。」と愛想よく返した。
そして慶はその後脱衣所まで迎えにきた鮫島と一緒にリビングに向かった。
湯が張るのを待っている間に鮫島の胸の中で眠ってしまった慶を見ると、芝野はテーブルの上に温かい紅茶を置いた。
「よく眠っていますね。よほど疲れていたんでしょう。」
芝野がそう言うと鮫島は「あぁ。」とだけ返し、淹れられた紅茶を飲んだ。
「今年も予定空けておられましたが明日はご一緒されますか?」
タブレットで予定を確認しながら芝野が聞くと鮫島は慶の頭を撫でた。
「前日でこんな調子なんだ。明日は更に離れないと思うぞ...まぁ、行きたくなくても必然と行くことになるだろうな。」
鼻で笑いながら答える鮫島に芝野は「そうですね。」と返した。
「本人は無意識なんだ。...この時期はどうも不安定になりやすい、多めに見てやってくれ。もう何年も経つが変わらずこんな調子だからな。」
天井を見上げてどこか寂しそうにする鮫島を見て芝野は何も言うことなく部屋を出て行った。
そして玄関の鍵を閉めると真っ直ぐに駐車場に向かった。
エンジンをかけるとかかっていた音楽の音量を下げて無音になった車内で先ほどの鮫島を似た表情を浮かべた。
あの時の貴方も今の彼と似た様でしたよ。とても危なっかしくて...見ているのが辛いほどに......だからこそ彼のことがどうしても憎めない自分の感情のコントロールが難しく感じてしまうほどに、ね。
芝野は脱衣所にまで来て自分に謝る慶の姿を後ろで見ていた鮫島の優しい顔を思い出してハンドルを握る手に力を入れた。
「......桜庭慶さん。あんなにも彼に想ってもらえているあなたがとても羨ましいですよ。」
いつの間にか僕は眠ってしまっていたらしい。温もりを感じていたけれどそれは鮫島の胸の中だったからだと知った。起こさないでいてくれたのか鮫島も眠たくて一緒に寝てしまったのか、鮫島は僕の身体を優しく包み込むように抱きしめた状態で眠っていた。
心なしか毎年この時期はなんとなく、心にぽっかり穴が空いたような感覚になる。きっと母の命日が明日だからなんだろう。
家族に対しては辛い思い出が多かったのさえこんなにも自分の中で母に執着している自分がになんとも言えない気持ちになる。
今思えばあの頃の僕はあまり自分の主張をすることはなかった気がする。......あ、いや。違うな。一度だけ...はっきり言ったことがあった。
確かあれは父が紹介してくれたスタジオに一度だけ体験で行った時に出会った、バイオリンを弾いていた自分より年上の男の子に対して言った気がする。昔のことであまりはっきりは覚えていないけれど彼の音色はとても綺麗だったことは鮮明に覚えている。
一定の音を出す時だけ少し音の響きが変わるあの癖のある弾き方も、つまらなそうに弾いているわりに気持ちが入ってくると少し温かい表情になるあの横顔も。僕は一瞬で彼から目が離せなくなった。
懐かしい記憶が蘇り口角を上げると慶はまだ目を閉じて眠っている鮫島の顔を見上げた。
「...そういえば顔が少しあの時の彼に似てるような、そんな気がするんだよなぁ......気のせいか。」
慶がボソッと呟くと鮫島はその声に反応して目を覚ました。
「お風呂...。」と慶が小さな声で言うと鮫島は悪戯に微笑んで慶の首を掴みキスをした。
帰りの車の中でボソッと慶が口を開くと面倒臭そうに鮫島は携帯を片手に返事をした。
「面と向かって初めて話したのはひと月前くらいだ。それ以前から俺はお前のこと調べている段階で知っていたが向こうは俺を知りもしなかっただろうな。」
「なんで僕に教えてくれなかったの?」
「なぜお前に言わないといけない?プライベートならまだしも、仕事柄出会っただけの話だ。いちいち報告するから筋合いもないだろ。」
「......だとしても教えて欲しかった。」
「俺が言ったところでお前はどうしていた?どうすることもできないだろ?だから俺は遠回しに来なくていいと言った。それを無視して芝野に連れて来てもらったのは他でもなくお前自身だろ。俺は何か間違ったことを言っているか?」
畳み掛けるように質問攻めをしていた慶だったが鮫島のその一言で言葉を失い黙り込んだ。
「好奇心旺盛なのはいいことだが今はそう言う気分じゃない。少しは理解しろ。」
慶の方に目を向けた鮫島はそう冷たく突き放すとため息を吐いて怪訝そうに煙草を吸い出した。
「あ、の...さっきはごめんなさい......。」
家に帰りジャケットを脱ぐ鮫島に慶は声をかけると今度はそのまま脱衣所に向かい、風呂の準備をしていた芝野に声をかけた。
「芝野さんも......満がいるの知ってて僕がついて行くの躊躇ったんですよね。それなのに我儘言ってごめんなさい。」
申し訳なさそうに謝る慶の前に立つと芝野は笑って「気にしないでください。」と愛想よく返した。
そして慶はその後脱衣所まで迎えにきた鮫島と一緒にリビングに向かった。
湯が張るのを待っている間に鮫島の胸の中で眠ってしまった慶を見ると、芝野はテーブルの上に温かい紅茶を置いた。
「よく眠っていますね。よほど疲れていたんでしょう。」
芝野がそう言うと鮫島は「あぁ。」とだけ返し、淹れられた紅茶を飲んだ。
「今年も予定空けておられましたが明日はご一緒されますか?」
タブレットで予定を確認しながら芝野が聞くと鮫島は慶の頭を撫でた。
「前日でこんな調子なんだ。明日は更に離れないと思うぞ...まぁ、行きたくなくても必然と行くことになるだろうな。」
鼻で笑いながら答える鮫島に芝野は「そうですね。」と返した。
「本人は無意識なんだ。...この時期はどうも不安定になりやすい、多めに見てやってくれ。もう何年も経つが変わらずこんな調子だからな。」
天井を見上げてどこか寂しそうにする鮫島を見て芝野は何も言うことなく部屋を出て行った。
そして玄関の鍵を閉めると真っ直ぐに駐車場に向かった。
エンジンをかけるとかかっていた音楽の音量を下げて無音になった車内で先ほどの鮫島を似た表情を浮かべた。
あの時の貴方も今の彼と似た様でしたよ。とても危なっかしくて...見ているのが辛いほどに......だからこそ彼のことがどうしても憎めない自分の感情のコントロールが難しく感じてしまうほどに、ね。
芝野は脱衣所にまで来て自分に謝る慶の姿を後ろで見ていた鮫島の優しい顔を思い出してハンドルを握る手に力を入れた。
「......桜庭慶さん。あんなにも彼に想ってもらえているあなたがとても羨ましいですよ。」
いつの間にか僕は眠ってしまっていたらしい。温もりを感じていたけれどそれは鮫島の胸の中だったからだと知った。起こさないでいてくれたのか鮫島も眠たくて一緒に寝てしまったのか、鮫島は僕の身体を優しく包み込むように抱きしめた状態で眠っていた。
心なしか毎年この時期はなんとなく、心にぽっかり穴が空いたような感覚になる。きっと母の命日が明日だからなんだろう。
家族に対しては辛い思い出が多かったのさえこんなにも自分の中で母に執着している自分がになんとも言えない気持ちになる。
今思えばあの頃の僕はあまり自分の主張をすることはなかった気がする。......あ、いや。違うな。一度だけ...はっきり言ったことがあった。
確かあれは父が紹介してくれたスタジオに一度だけ体験で行った時に出会った、バイオリンを弾いていた自分より年上の男の子に対して言った気がする。昔のことであまりはっきりは覚えていないけれど彼の音色はとても綺麗だったことは鮮明に覚えている。
一定の音を出す時だけ少し音の響きが変わるあの癖のある弾き方も、つまらなそうに弾いているわりに気持ちが入ってくると少し温かい表情になるあの横顔も。僕は一瞬で彼から目が離せなくなった。
懐かしい記憶が蘇り口角を上げると慶はまだ目を閉じて眠っている鮫島の顔を見上げた。
「...そういえば顔が少しあの時の彼に似てるような、そんな気がするんだよなぁ......気のせいか。」
慶がボソッと呟くと鮫島はその声に反応して目を覚ました。
「お風呂...。」と慶が小さな声で言うと鮫島は悪戯に微笑んで慶の首を掴みキスをした。
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