ノンフィクション

犀川稔

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2話 兄貴の友達ともう一人の友達

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 あの日から兄貴の友達である新山さんはおれによく話しかけて来るようになった。理由はよくわからないけど、暇さえあればおれの部屋に来るしおつかいに行く時もおれにも何か欲しいものはないか聞いて来る。特に害があるわけじゃないしそう言う絡みなら悪い気もしなくておれはあっさり受け入れてしまっている。
「千隼くんは受験生だけど受験とかないんだっけ?」
 多くの人は今日高校入試の結果発表の日と言うこともあり緊張している中、ベットで横になって携帯を弄っている千隼を見て新山が聞いた。
「あー...はい。おれの学校そのまま高校に上がる感じなんでそもそも受験っていう概念ないっすね。」
「なるほどー、小さい時努力していい学校入ったからこそ味わえる時間だね。」
 新山の言葉を聞いて千隼は驚いたように新山の顔を直視した。
「......それだけですか?」
「え何、褒め足りなかった?」
「いやそうことじゃなくて...大抵こう言う話するとずるいとか卑怯だっって言われるんで。」
 不思議そうに説明する千隼の話を聞いても新山は納得していないような表情を浮かべながら話した。
「...んーまぁそれは他の奴らが遊んだり信号待ちしてる間に苦労して頑張ったから今ちょいいい思いできてるだけのことじゃん。それに対して外野が馬鹿言うのは違うべ。」
 初めて会った日から数ヶ月経ってだんだん新山さんと話すことが増えて気づいたことがある。それは今まで見てきた兄貴の友達とはどこか違うと言うこと。最初ははっきり物を言うこの人の性格が気に食わなかったけど慣れて来ると不思議なもので、あまり嫌に感じることがなくなった。それどころか話していて楽しいとまで思っている自分もいて苦手なタイプのはずなのにかけられる一つ一つの言葉がおれにとって優しく感じてしまった。

「嫌いだったやつが最近いいやつに思えてきた?」
 昼休みにパンを食べながら話す千隼の話を聞いて内田龍平うちだりゅうへいが声をあげた。
「話が読めないんだけど、どう言うこと...?」
「いやさ、最近よく話すようになった兄貴の友達たちがいるって言ったじゃん。そいつらが結構いい奴なんじゃないかって思えてきてさ。おれももう末期なのかもしれない。」
「...ちーちゃんも遂に陽キャ族に転生したってことか~俺たちを置いて。」
 横から話を聞いていた有馬唯都ありまゆいとがクスクス笑いながら口を挟んだ。
「いやいや、全然苦手だよ。ただその二人だけは違うって言うか...。話してて悪い気がしない。」
「へ、へぇー。それは、良かったな...。」
千隼の話の意図がいまいち分からず内田はなんとなく便乗することにした。
「まぁお前の兄ってもう正しく陽キャ代表って感じの人だしなー。あー言う人って人気だよな...顔がいいのもあるけどさ。この学校でも狙ってる女子多いらしいし。お前もその性格なのにモテるのはやっぱ兄と同じで顔がいいからなんだろうな。」
「...おいその性格って言うな。どんな性格だって言うんだよおれは。」
怪訝そうに内田の話に反発する千隼を茶化すように内田は笑った。
「友達としては百点満点だよ?ただ絶対に付き合うのは無理だわ。こんな冷血で恋愛に対して冷め切ってる奴相手にできる人の気が知れない。1ヶ月前告白してきたって言ってた女子とはどうなったの?」
「付き合ったけど二週間で別れた。何考えてるか分からないって言われて振られた。」
「...うん、よく二週間ももったわ。」
「ちーちゃん、告白されるけどその後振られるって言うのもうデフォになってきてる説あるよね。」
途中から口を挟む有馬の話に内田が声を出して笑った。千隼は「笑い事じゃないよ。」と少し怒ったような表情をして有馬の膝に頭を乗せた。有馬はそんな千隼の頭を撫でて口元に付いたパンのカスを手で取ってそのまま食べた。
「まぁでもいいよ。やっぱり恋人とかじゃなくて二人といる方がおれは楽しいわ。」
「うん、俺もちーちゃんと話すの好き~。」
「お前ら......悲しくならないのか男同士でそんなことして。」
哀れんで見る内田の事を無視して千隼はそのままチャイムが鳴るまで有馬の膝で眠った。

千隼は家に帰っている途中の道中で突然声をかけられた。佐々木と同じ制服を着た女子たちが千隼の周りを囲んで畳み掛けるように話しかけた。
「ねぇ!君が楓の弟ちゃん?やっばガチで顔似てるー!でも楓より可愛い系かも!」
「えわかる!ねぇね~、お兄ちゃんすき?」
......あー、うん。やっぱり苦手だわ、こう言う人たち。めんどくさいな。でもこう言う人たちって無視して通り過ぎるともっと面倒なことして来るし。ここは話を合わせるしかないのかな...
千隼が諦めたように小さくため息を吐いて話出そうとした時、兄貴の友達の赤城尊あかしみことが千隼の肩を後ろに引きながら隠すように自分の後ろに千隼をやった。
「何お前ら。あいつに構って貰えなくて次は弟の方に手出そうとしてんの?そう言うの趣味悪いしやめた方がいいよ。明らかに困ってんじゃん、見てわかんねぇの?んだから相手してもらえないんだよ。」
庇うように話をする赤城を見て縋るように千隼は赤城の制服の裾を掴んだ。
「赤城じゃん!そんな怒んないでよ~...そうだ。うちら帰ってあげるからその代わりに赤城の元カノに伝えておいて~。元カノマウントウザいからやめろって。」
「はいはい早く帰ってください。元カノの話は知らんけど...でもまぁそんな悪い子じゃないよ、あの子。」
赤城がそう宥めると女子たちは諦めたように帰って行った。それを見届けると赤城は千隼を見て「お待たせしました。」と言った。
「ありがとう...。」
「いーえ。あのさ、嫌なら嫌って言っていいなよ。俺がたまたま通ったから良かったけど居なかったらどうするつもりだったのよ君。」
「そのときはまぁ...話を合わせようかと。」
「とんだいい子ちゃんだな。」
そう言って先に行こうとする赤城の背中を追って千隼も家に向かった。
そう。この人もおれが最近、心を許しかけている兄貴の友達。おれの知る兄貴の友達の中では正直この人が一番、顔はかっこいいと思う。だからこそ遊び人なんだろうと思ってたけど、新山さんから聞いた話だとこの人もまた恋愛に冷めた部分があって兄貴の友達のくせにおれのことにあまり関与してこないところが気に入っていて、おれの中では新山さんと同じくらい話がしやすい人。ちなみにこの人におれがタメ口なのは急遽おれの母親が夜勤になり夕飯を外に食べに行くとなった時、たまたま家に来ていたこの赤城先輩と兄貴とおれ三人で飯を食べている時に「敬語で話されんの慣れてないからタメでいいよ。」と言われたから。多分この人なりの気遣いなんだと思っておれはその言葉に甘えてそれからタメ口で会話するようになった。
家の近くのコンビニの前を通った時、店からアイスを買って出てくる人を見かけた千隼は赤城に声をかけた。
「赤城先輩アイス買って~。」
「やだ無理、甘えたこと言わずに自分で買いなさい。」
嫌そうにそう答える赤城を見て千隼は面白そうに笑ってそこから隣を歩いて家まで向かった。

その二人の後ろ姿を新山は少し離れたところから見ていた。
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