ノンフィクション

犀川稔

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4話 他人の空似と曖昧な記憶

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 新学期が始まり一ヶ月が経過し、だんだんと新しいクラスにも馴染みが出てきた。最近は放課後に委員会や先生に呼ばれる日が続いていてけど、今日は久々に何もなく真っ直ぐ帰ることができる日だった。
おれはハンドメイドショップに足を運んだ。先日壊れてしまったチェーンの代わりを買いに来たのだ。兄貴から似たようなものが100円均一の店にも売っていると聞いたけど、なんとなくこう言うしっかりした専門の店の方が頑丈なものを揃えている気がして成り行きで来てしまった。元のものと似たボールチェーンを手に取った時、近づいてきた店員さんに聞くとボールチェーンは取れやすいし壊れやすいと言われおれは店員さんがおすすめしてくれた紐の方を購入した。店を出て早速買った紐をストラップに通していると店から見ていたその店員さんが親切に付け替えまでやってくれた。
そして目的を達成した帰り、普段はよく来る駅の反対口と言うこともあり見たことがない店や看板に目移りをさせて千隼はキョロキョロ辺りを見渡した。

 しばらく一人で出歩いて満喫した後、たい焼きが売っていているのを見かけて買おうか悩んでいると後ろから肩に腕を掛けられた。驚いてそっちに目を向けると新山が笑ってこっちを見ていた。
「......え?なんでいるんですか。」
「友達と遊んでて気分じゃないから先帰ろうって思って駅向かってたらなんとびっくり~、目の前に可愛い子見つけてつい声かけちゃった。」
 ケラケラ笑ってそう話す新山に「そうですか。」と適当に返すと千隼は新山の手を下ろして先に歩き出そうとした。
「待って待って...どれが良かったの?俺は勝
買ったげるよ。」
「...いいです。もう気分じゃなくなったんで。」
「何それ......つかなんでそんな素っ気ないの?」
 一時よりも話すようになった千隼がまた自分に対して突き放すような言い方をしたのに対して新山は嫌悪感を抱き、離れて行こうとする千隼のバックのショルダーを掴んだ。千隼は新山の手を思い切り振り解くと振り返らずに歩いて駅まで向かった。
 ...おれはあんなに悩んだのに。あの人は何もなかったように普通に接してきた。本当は話したいって思ってたしいつ部屋に来てくれるんだろうとか思ってたりもしたのに...どうせそう言う気分だったんだろうな。あの人にとってはおれなんてただの暇つぶしの相手でしかなくてもう用済みになったか適当に扱って...そんな扱いされるくらいならいっそ突き放してくれた方が気が楽だよなー...。
 駅のホームで電車を待っていると後から新山が走って千隼の元に駆けつけた。
「階段降りても全然居ないから焦ったわ。ここじゃうちの駅の出口から遠いじゃん~。まさかこっちだとは思わんわ。」
 息を上げたままそう話すと、新山は顔を上げて袋からたい焼きを出した。
「カスタードとあんこどっちがいー?ちなみにあんこは粒あんらしい。」
 笑って話す新山に千隼が黙っていると、新山は粒あんを開けて千隼の口元に持っていった。困ったように新山の顔をじっと見た後、千隼は一口食べた。その後カスタードの方も開けると同じように千隼に食べさせた。
「...どう?好きな方どっちー?」
千隼はきまり悪そうに頭を掻くと新山が手に持っていたカスタードを受け取った。
そのまま電車が来るまで無言で食べ、終えてから千隼は新山のブレザーのポケットに400円入れた。
「お金いいよ、俺が一緒に食いたかったから買ったんだし。」
新山がお金を返そうとしながら言うと、千隼は新山に薄く笑い口を開いた。
「友達からの奢りならありがたく貰いますけど友達でもなんでもない人から受け取った物ならそれに対する代金を払うのは妥当だと思いますけど。...あと一つ助言するとするなら、そうやってどうでもいい人に対して親切にするのは相手を傷つけるだけなのでやめた方がいいと思いますよ。」
そう言うと千隼はイヤホンを耳にはめて、駅に着いた電車に乗り込もうとした。そんな千隼を見て黙っていた新山は唇を噛むとポケットから出した物を千隼に手渡した。
「さっき俺の手振り解いた時にバックから落ちたよ。...それからごめん、付き纏うみたいなことして。もうしないから安心して。ごめんね。」
そう言うと新山は別の車両に向かおうと背中を向けた。最後に言い残したことを言おうと、もう一度振り返ると何かを言ってまた歩いて行ってしまった。ちょうど駅のアナウンスが新山の声を掻き消し大事なところを聞くことができなかったけれど、千隼は切り替えて電車に乗り込んだ。

千隼は家に着いてもずっとモヤモヤしていた。今まで気にも留めたことはなかったけど新山さんの笑った時、目の横に浮き出るシワと近くに寄った時に香る柔軟剤の香りが妙に引っかかった。過去に似たような人を見たのだとしてもここまでモヤモヤするほどのことなんだろうか...。
そもそも、もし知ってる人だったとしても今まで忘れていたような人ならそれはもう、おれにとってその人はその程度の人なんだろうし...。
部屋着に着替えていると兄貴が部屋に入ってきた。
「よぉ~弟!あれ、新山は?あいつと一緒だったんでしょ?」
「...は?一緒じゃないけど...。いや、駅で会ったけどそのまま別れて帰ってきたよ。」
千隼がため息を吐きながらそう答えると佐々木は首を傾げた。
「はぁ~!?お前ら果たしたんじゃねぇのかよ!もっとその後積もりに積もった話するとかないわけ!?あいつもその連絡してきてから一向に音沙汰ねぇし。今日あいつ来ないのか~。」
「え、それどう言うこと......?運命の再会って?おれ新山さんと前にどっかで会ったことあんの?」
威勢よく聞いてくる千隼に佐々木はニヤニヤして帰ってきてからご丁寧にテーブルに置かれたクマのストラップに目をやった。
「大切な思い出ならちゃんと覚えておかねぇと、だんだん薄れていって忘れていくもんよ?んで時期に無かったことみたいにその人自体も聞き分けよく離れていっちゃうよ...まぁ、後悔しねぇようにはしなよ~優しい優しい兄からの助言な。」
そうとだけ言い残すと部屋から出て行った。
部屋に取り残された千隼は呆然と立ち尽くすとハッとしてベットに腰掛けた。

忘れる......?そんなわけないだろ。あの人は俺にとって忘れられない......。
あの日の出来事を思い出していると、今日新山さんが最後におれに言い残した言葉が鮮明に耳に入ってきた。あの時は雑音とアナウンスで聞こえなかったはずなのに、今になってその時の新山さんの発する言葉の口の動きが過去にあの人からかけられた言葉に重なった。
「......好き。」
なんで今思い出してしまったんだろう。この言葉だけはおれの心の奥底にしまっておくつもりでいたのに。
そしてそこから走馬灯のようにあの日の出来事の相手が新山さんであったかのように頭の中に上書きされる。
...違う、ただ新山さんがあの人に似てるだけの話だ。笑った時の顔も声を出して笑う時に左手を口元に持っていくのもおれにあのストラップをくれた時も...
「俺があげたかったからあげただけだし。」
その言葉と一瞬だけマスクを顎まで下げ、自分を見て無邪気に笑うあの時の彼の姿を思い出し千隼の心臓は張り切れるほど煩く鳴った。
「新山さん......なの...?」
千隼はストラップを手に取ると急いで佐々木の部屋に向かった。

「兄貴、新山さんの家どこか教えて。」
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