ノンフィクション

犀川稔

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5話 君の面影と印象の欠如

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 あの日、赤城と千隼くんが一緒に帰っているのを見て俺の中でこう...何かが込み上げてくるようなそんな感覚を憶えた。と同時に、醜いようだが友達への嫉妬と苛立ちを持ってしまった。
 そもそも赤城が千隼くんに対してどう思ってるとかは言わずもがなわかっていることではあるけども、その時は人間味で溢れるほどに自分の中でもいっぱいいっぱいになってしまった。
 千隼くんは俺が過去に一目惚れした人に瓜二つと言っていいほど似ていた。
 何年も経っているからきっと相手も顔つきも何も変わっているとは思うけれどそうだとしてもその時の面影だったり仕草がそのままあの時の彼と妙にリンクしていて、ヤケに重ねて考えてしまう。そのせいで変に意識してしまって、それから今まで千隼くんにどんな風に話しかけていたのか自分でもわからなくなり避けるように彼から距離を取った。
 そんな俺を察したように千隼くんも部屋から出てくることも減ってきて遂には全くと言っていいほど顔を合わせることがなくなっていった。

「このままじゃまずいよなー...。」
 ため息を吐いていると佐々木が俺の隣に座り、何も言うことなくニヤニヤと眺めていた。
「......人がこんなに悩んでんのにそれ見て笑ってんの、さすが佐々木って感じだわ。」
「おいおい、イライラを俺にぶつけんなや。そんな話したいならあいつの部屋行ってくりゃいいじゃん。辛気臭いの見てるとこっちまで気が滅入るわ!」
 茶化し混じりに励ましの言葉をかける佐々木の方に一度顔を向け後立ち上がると大きく伸びをした。
 その時ふとカウンターを見ると、そこには見覚えのあるストラップがあった。
「......これって。」
 新山が近づきクマのストラップを手に取るとまじまじと見た後思い出したようにクマの足の裏を見て、新山は確信したように口角を上げた。
 新山がストラップを持っているのに気づいた。
「あーそれは...」
「これ千隼くんのでしょ?きっと四年くらい前から持ってるよね。」
「そうそう、あいつのだよ。いつからかは知らんけど確か中学の時のカバンにも付けてたなー。この前学校で踏まれてチェーン壊れたっぽくて替えを買うまでは落としたらやだからって家に置いといてんだってさ。」
 佐々木の話を聞いた新山は「用があるから。」と言い家を出た。
 ...やっぱり似てるとかじゃない。千隼くん本人が俺の一目惚れの相手だ。でもきっと今、あの時の相手は俺だと言っても彼は幻滅するか呆れるかもしくは......。もし俺が好きだと言っても受け入れてもらえるんだろうか。いや、あんな態度とっておいて告白なんてしてもフラれるだけか。
 そんなことを考えながらふらふらを家に帰ると風呂に入って早々に寝た。

 そしてそれから数日間少しずつでもまた仲良くなれるようにと努めようとした。しかし佐々木の家に行っても千隼くんの帰りは遅く、俺らが帰る頃に帰ってきてはお辞儀をして部屋に戻っていった。
 そんな日々が続いたある日。気分転換にいつもとは違うゲーセンに友達と行き店を出た時、辺りをキョロキョロと見渡している千隼くんの姿を見つけた。すぐに友達と別れて後を追った。
 話しかけようとも思ったけど何と切り出せばいいのか悩みタイミングをうかがっていると、たい焼き屋の前で立ち止まったのを見てすかさず声をかけた。
 想像より何十倍も毛嫌いされていたし、佐々木から「弟は猫みたいな性格で慣れたやつには引きほど距離が近いけどそうなるまでがクソ時間かかるタイプ」と聞いていたけど今の俺はもうそのレベルではなくて関わりたくないとまで思われてる気がした。
 触れられたくなかったのか俺の手を振り解いて逃げた時に落としたストラップを見て心を痛めた。ストラップのように俺の事もこのまま拒絶してあの出来事はそのうちなかったものにされてしまうのかと思うと泣きたい気持ちでいっぱいになった。せめてこのストラップだけは千隼くんに持っていてもらいたい。その一心で気にしてないフリをして追いかけて渡した。
 全く目を合わせようとしない彼の仕草を見て、俺は自分の心にフタをする選択を選んだ。女々しいかもしれないけど最後の悪足掻きで彼に小さな声であの時と同じ言葉で自分の気持ちを伝えた。もちろん返事もなければ何も反応はされなかった。当然の結果だけど俺はどこか気づいてもらえるかもと勝手に期待していたのかもしれない。

「......もしもし佐々木?」
「おーん、どしたー?」
「ごめん...やっぱ俺無理だった。完全に完敗、しっかりフラれましたわ。」
「は?千隼に告ったの?」
 新山は駅のベンチに座り込んで俯きながら佐々木に電話をかけるとさっきの話をざっくりと話した。
「いやお前、それはフラれたに入らんわ。んなこと言ったら俺学校で一日に五、六回フラれててることになるわ、やめろやめろ。」
「いやー...正直結構キツイわ。次会った時、俺どんな顔して千隼くんに接すればいいんだろ。あー...もう仲良くしてもらえないんかね。」
 しばらく佐々木話を聞いてもらったあと新山は電話を切り、来た電車に乗り込んだ。
 無心で電車に揺られながら立っていると他校の女子に声をかけられた。
「あ、あの...その制服上城かみじょう高校の人ですよね!?あ...えっと。」
 何度も吃りながら話をする女子に「あー。」と言ったあと口を開いた。
「赤城?それとも佐々木?連絡先知りたいとかなら悪いけど勝手には教えれないから本人に聞いてね。後々俺が怒られることになるんで~。」
 慣れた口振りでそう話し、気まずくなる前にイヤホンを耳に入れようとすると「違います!」と女子は少し大きな声で言った。驚いて新山が固まっていると、恥ずかしそうに携帯を出して下を向きながら話した。
「その二人ならうちの学校でも有名なので知ってます...でも!そうじゃなくて私は...新山くんのアドレスが知りたくて......。だからその、迷惑なら諦めます。でももし良かったら交換してほしいです。本当にしつこく送ったりもしないし強要はしないので...。」
 控えめにお願いする女子優しい目で見ると、新山は携帯を出してQRコードを取った。
「俺連絡返すの遅いし携帯の存在忘れてるときあるけど気悪くしないでね。」
 そう言って返すと女子は嬉しそうに頷き返事をすると一人時間を邪魔するからと言って離れていった。

 数分後駅に着き電車を降りると大きく伸びをして改札に向かった。
 ......あーすごい謙虚でいい子だったな。胸もありそうだったし付き合っても小さいことで喜んでくれるような感じの子だったし...。
 そんな時でもふと頭に千隼のことを思い浮べ、新山は我にかえったように頭を振った。
「俺すげぇ諦め悪いやつじゃん。何してんだか...あーあ、やっぱ叶わない恋追うよりも手が届きそうな恋愛する方が俺には向いてんのかなー。」
 そして新山は深いため息を吐くとゆっくりと家に帰った。
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