ノンフィクション

犀川稔

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22話 誕生日当日

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 そして一学期最終日、兼おれの誕生日が訪れた。学校自体は午前中で終わり家に帰ったおれは私服に着替えて家を出た。
 てっきり学校終わりにそのまま出かけると思っていたのに一旦着替えてからの集合となり、流されるようにおれは家まで帰ってきた。
 集合時間まで結構あったから用意をして家でダラダラ過ごしていると家のインターホンが鳴った。
 誰もいなかったためしょうがなく階段を降りて玄関を開けると、そこには有馬の姿があった。
「え、何でいるの?」
「お迎え~。誕生日くらい甘やかしてあげようと思って。」
 戯け笑う有馬に千隼もつられて笑うと「有馬にはいつも甘やかされてるよ。」と千隼は小っ恥ずかしそうに言った。

「ところで今日本当に俺誘っちゃってよかったの?彼氏はどうしちゃったのよ。」
 目的地に向かうながら歩いている時に有馬が辿々しく質問すると千隼は少し困ったように口を開いた。
「あー...なんか忙しいみたいでさ。実は二日くらい前から連絡もあんま返ってこないんだよね。まぁでも明日は会う約束してるしその時に話せるからいいけど...そんなんだから正直今日有馬に誘ってもらえて嬉しかった。」
「......ちーちゃん、その突然出すデレやめてよ。照れるじゃん~!」
 真面目に答えた千隼に対して気を遣ってヘラヘラと返す有馬に申し訳なさそうに千隼もその後はたわいもない話を交えて話をした。
 事前に有馬から行きたいところを聞かれていたけれど特になかったおれが任せると言うと有馬は一から全部予定を組んでくれた。そして今日までどこに行くのか言われていていなかったけれど行った先は映画館だった。しかもそれはおれが見に行きたいと思っていた映画の続編だった。確か前にこの話をした時におれの周りだと赤城先輩くらいしかこの映画に興味持っている人はいなかったし有馬も見たことないなんて言っていたはずなのにまさかそれを見に行けるなんて。
 映画の前もおれの影響で好きになった、なんて言ってくれるからその言葉を聞いておれはさらにテンションが上がった。上映が終わってからも感極まってカフェで感想を言い合っている時も有馬は終始楽しそうにしてくれていた。
 夕飯は有馬自身がバイトとして働いているコース料理を扱うお店の個室を予約してくれていて、本来はアルコールの注文は必須なのに今日は特別にノンアルコールで通してくれた。
 料理は全部美味しくておれは時間も忘れて自分の誕生日を満喫していた。
 有馬がお手洗いに立ったタイミングで充実していて存在を忘れていた携帯を見ると、何件もの連絡が新山から届いていた。焦って返事を返えしているとそこに有馬が帰ってきて、忙しく指を動かすおれに「俺のことは気にせず返事返してあげな。」と察したように言ってくれた。言葉に甘えてメッセージを打っていると電話がかかってきた。電話越しの新山さんはどこか元気がなくおれが心配そうな顔をしていると「ちょっと貸して。」と言い、有馬が何か新山さんと話をしにおれの携帯を持って席を立った。

 数分して有馬は帰ってくると千隼に携帯を返しながら笑って答えた。
「お待たせ~。後30分そこらでこれるってよ、ちーちゃんの彼氏。店出たら俺は退散するから残りの誕生日は彼氏と過ごしなよ。」
 驚嘆する千隼のことを気にすることなく有馬は残っていたデザートを口にした。
「新山さん今からここ来るの?」
「うん、着いたらまたちーちゃんに連絡入れるって。それが来たら店出るって感じでいいんじゃない?」
「いや、そうじゃなくてさ...おれ今日は有馬と過ごす気で来たんだけど。」
 千隼がそう言うと有馬は少し悩んだ表情を見せた後千隼の顔をじっと見てから答えた。
「せっかくの誕生日なんだから彼氏と過ごしたいんでしょ?それに向こうもちーちゃんに言いたいことがあるってさっき電話で俺に言ってたよ。...どう?なんの話か気になっちゃうでしょ?......そりゃそうやって俺との時間も大事に思ってくれるのはめっちゃ嬉しいけど、そんなただの友達の俺との予定より、今は大切な恋人の方を優先して欲しいって思うよ。俺としてはね。」
 有馬の話を聞いて千隼は小さく頷くと有馬は満足そうに笑って切り替える養分話題を変えた。
 そのおよそ2、30分後に千隼の携帯に「着いた。」と新山から連絡が入ると二人は店を出た。
 目の前の通りの柱にもたれ掛かりながら千隼のことを待っていた新山は二人の姿を見てすぐに駆け寄ってきた。
「君が有馬くんか。急に譲ってほしいなんて言ってマジでごめんね、今度なんかお詫びするわ。」
「いや、いいっすよ。その代わりちゃんと残りの時間ちーちゃんのこと楽しませてあげてくださいね。そんくらいは頼みますよ、こっちはお持ち帰りコース逃しちゃったんで。」
「...は?その話もっと詳しく聞かせ...」
「冗談ですよ。じゃ、俺は帰るんで。...じゃーね、ちーちゃん。また夏休み会う約束はグループで決めよ!」
 新山と千隼を話を終えた有馬はそう言って先に帰って行った。有馬の後ろ姿を見届けると、新山は千隼の手をぎゅっと握った。
「......ごめん、会えないって言ったけどやっぱ会いたくなって無理言った。大事な日だったんに適当なこと言ってごめんね。」
 申し訳なさそうに話す新山の方を向くと千隼は笑って首を横に振った。しかしその時、車のライトで暗くて見えなかった新山の顔が照らされ、赤くなった左頬が目に入った。
「新山さん、顔...ほっぺのところ、どうしたの?」
 心配そうに千隼が新山の頬を触れると、その手の上に被せるように新山は自分の手を持っていった。
「うん、ちゃんと話す。全部。だからちょっと場所変えてもいい?流石にここだと人目もあるしゆっくり話せないから。」
「うん。」とだけ答えた千隼の手を取った新山は、電車に乗って自分たちの最寄り駅に向かった。何も説明されなかった千隼はとりあえず静かに新山後ろを着いて行った。

 そして近くの公園に入り中にあったベンチに腰掛けた時にようやく新山が口を開いた。
「今日会えなくなったって言ったのもさっき話そうとしたのも全部俺の家族のことなんよね。俺の家庭環境って結構複雑でさ、あんま聞きたくない話かもしれないんだけど千隼にはちゃんと話しておきたかったから...だからごめん、聞いてくれる?」
 無理に笑みを浮かべる新山の感情を汲み取った千隼は何度も頷くと「もちろん聞くよ。」と言って新山の手を握った。そんな千隼の行動に新山は安心したようにふわっと笑った後で、一呼吸置いてから話を始めた。
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