あの店に彼がいるそうです

片桐瑠衣

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郷に入ればホストに従え

郷に入ればホストに従え09

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 こんなとこ誰にも見られたくないな。
 赤の他人と歌舞伎町で食事とか。
 類沢は車を使わず、近くのレストランに歩いていった。
「地味な店だけど、ミシュラン一つ星もらってるイタリアンなんだよね」
 通り過ぎる女性たちが悩ましげな瞳で類沢を追う。
 やはり、目立つ。
 歌舞伎町NO.1だからなのか、本人の持つオーラなのか。
「そうそう、外ではハルって呼んでくれる」
「ハル?」
「シエラのNO.1は一人では出歩かない」
「?」
 意味が汲み取れずに首を傾げる。
 すると、類沢は俺の肩に手を回した。
「ちょ」
「キミが彼女役なら良いんだけどね」
 そういうことか。
 俺は不思議な気分になる。
 NO.1だから。
 その響きが切ない。
 自由がない。
 そんな含みがあるから。
 類沢はニコリと笑むと、そこだよと店を指した。

 なるほど、通りから少し外れた場所で知っていなければ見つからない。
 スタスタと慣れた足取りで進む類沢は常連だろうか。
「いらっしゃいませ」
 声ばかりで、ウェイターが出て来る気配はない。
 類沢は構わずカウンターに腰を下ろす。
 グラスを磨いていた初老の男性が目を上げる。
「今日は連れがいるんだね」
「新入りだよ」
 マスターか。
 俺を手招きする。
「暫くぶりだな」
 類沢は神妙に頷いた。
 やはりよく来るのか。
 顔見知りといった雰囲気だ。
「最近動きは?」
「特にないねぇ。ガヴィアのトップが変わった位だ」
「あぁ、あの男ね」
「そのうちシエラを荒らすかもな」
「忠告は受け取っておくよ。暴力団との繋がりもあるしね」
 何の話だろう。
 俺は出されたアイスコーヒーを啜る。
 美味しい。
 少なくとも、さんぴん茶や抹茶よりは飲みやすい。
 注文もしていないのに、奥から皿を持った青年が現れた。
 トマトとチーズのカプレーゼ。
 バジルが乗っかっている。
「どうぞ」
「……いただきます」
 なんか緊張する。
 一口食べると、今までにない繊細な味がした。
 チーズはしつこくなく、トマトはほんのり甘い。
「美味しい?」
「美味しいです」
 それを聞いて類沢は目を細めた。
「圭吾が継ぐの?」
「あいつはホストを諦められないみたいだがなぁ」
 さっきの青年らしい。
 ホストになりたい彼は類沢を見て何を思うのか。
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