あの店に彼がいるそうです

片桐瑠衣

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超絶マッハでヤバい状況です

超絶マッハでヤバい状況です03

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 マスターが手早く道具を仕舞う。
 店中で安堵と失意の溜め息が零れる。
「また勝ったな」
「如月さん無敗だね」
「なに? 紫苑はまたマスターに賭けたの?」
「そうだが?」
「ムカつくなぁ……ねぇ、マスター紫苑ともやったら?」
「悪いが、一回につき相手は一人までと決めているんでね」
「むー」
 雛谷は渋々、追加注文をする。
 紫苑と恵介もまた。
 月末の小さな楽しみ。
 勝率は五分五分だからこそ、盛り上がる。
 勝てない勝負をするバカはいない。
 雛谷はポーカーやブラックジャックより何より、この単純な丁半が好きだった。
「話の続きだが……その新入りがどうかしたのか?」
「気になるだけー」
 髪を梳きながら答える。
「スカウトか?」
「さぁね」
 多分、マスターはもう解っている。
 情報を頼むのはスカウトの人捜しの時だけ。
「ガヴィアのトップが代わったことは知ってるか」
「あぁ……雅樹でしょ」
「結構荒らしているぞ」
「らしいね。うちの客も何人か取られてるから」
「いいのか?」
 雛谷はチキンをつまみながら口をすぼめる。
 美味しそうに噛み砕いてから、小さく囁いた。
「まぁ、出る杭は全力で打たせてもらうよ……歌舞伎町のバランスを守るためにもね」
 マスターはその眼にゾクリとした。
 カールがかった茶髪から覗く、獣のような瞳に。
「じゃあ、またね。マスター。今度は奢って貰うよ」
 いつもは子犬のような癖に、時折凶暴になる。
 長い付き合いで雛谷をよく知るマスターは、嵐の予感に息を吐いた。
 
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