あの店に彼がいるそうです

片桐瑠衣

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超絶マッハでヤバい状況です

超絶マッハでヤバい状況です10

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 電話が振動する。
 俺は今、泣きそうになりながら座って指示を待っていた。
 そっと携帯を耳に当てる。
「瑞希、準備は?」
「全く」
「ま、落ち着いていればいいから」
「類沢さん……」
「情けない声は出すな」
「はい」
 キョロキョロしないよう、気をつける。
 ヤバい。
 心臓がヤバい。
 口から出そうとはこのことだ。
 俺は、インテイスの裏にいた。
 お洒落な外観は、興味本位では入らせない威圧感を漂わせている。
 会員制。
 そんな匂いすらする。
 勿論、そんな規制はない。
 若者が集うクラブ。
 女性が集団で現れる。
 びくりとした。
 あれは、紅乃木の客。
 それから千夏の客。
 見たことある女性が何人も。
 みんなチケットみたいのを持っている。
 なんだ、あれ。
 沢山の女性の後に、黒スーツの男性が三人続く。
「類沢さん、来ました」
 ここからは携帯は使えない。
 小さなマイクを仕込んだボタンに囁く。
 篠田が手配した隠しマイク。
 何に使っているかはきかないでおいた。
 イヤホンは髪に隠して右耳に。
「なんか、危ない男性方がいます」
「へえ」
「類沢さん?」
「いや、楽しみだなぁって」
 る……類沢さん?
 ガタン。
 何かが閉まる音。
「密室とは、いかがわしいなぁ」
 びくりと肩が飛び上がる。
 聞き覚えのある声。
 ゆっくり振り向いたら、予想外で予想通りの男が立っていた。
「ひ……」
 指を口に当てられ、シーッと言われた。
 類沢が知ったらどんな顔をするだろうか。
「うちも今夜仕掛けるつもりだったんだぁ。奇遇だね……なんて」
 雛谷空斗。
 キャッスルのチーフ。
 本当に奇遇か怪しい。
 俺はマイクとイヤホンをバレないように隠す。
「なんで、ここに?」
「瑞希だっけ? 知ってる? ここがどういうクラブか」
「いえ……」
 雛谷が歪んだ笑みを浮かべる。
 闇夜に染まり、鳥肌立つ。
「うちの通称は蟻地獄。インテイスなんて柔らかい意味はない。入ったら抜け出せない……蜜壷みたいな地獄だよ」
「蟻、地獄」
 俺は恐る恐る裏口を見た。
 中で、何が行われているのか。
 ガッと雛谷が肩を抱く。
 離れようとする前に、耳元で囁かれた。
「瑞希は落ちたら終わりだよ?」
 嫌に鼓膜に残るセリフを置いて、雛谷は誰かに合図を送り去っていった。
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