あの店に彼がいるそうです

片桐瑠衣

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超絶マッハでヤバい状況です

超絶マッハでヤバい状況です11

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 蜜壷……
 俺は手に息をかけながらインテイスを眺める。
 類沢さん、ここ本当にヤバい場所なんじゃないんですか。
「裏口担当、みぃずき見っけ」
 息が止まるほど驚いた。
 声の主は黒い手袋から覗く親指を舐めて笑う。
 反対の手には黒い財布。
 いや、ナイフケースだ。
 目立たぬよう、気づかれぬよう。
「紅乃木さん……」
「類沢が認めた新人ねー。さっき雛谷にも声かけられてたでしょ」
「見てたんですか」
「まあね。あいつ嫌い」
 子どもみたいに言うが、目つきは冷たかった。
 動きやすいようにか、薄い生地のジャンパーにジーンズの紅乃木は、店とは違う人物に見えた。
 むしろ今の方が彼らしいと感じる。
 ワインよりナイフが似合う。
「計画は覚えた?」
「一応」
 ケースを撫でる。
「類沢もバカだよね。話し合いで済むわけないのに。だから裏口はおれになったんだけど」
「暴力は避けられないって訳ですか?」
 紅乃木は小さく笑うと、素早く右手を突き出して俺の首を掴んだ。
 一瞬だったので、よける暇もなかった。
 キツく首が締まる。
「生意気」
 パッと手を離すと、路地の壁にもたれる。
 俺は咳き込んで、しゃがんだ。
 こ……殺されるかと思った。
「ホストになったからにはね、鍛えた方がいいよ、腕」
「……え?」
 紅乃木は手を開いたり閉じたりしている。
 革を伸ばしているのだろうか。
 ハッと首に手を当てる。
 手袋の範囲だけ、跡が残っている。
 サアッと青ざめた。
「その、手袋」
「ああ。うん、そうだよ。即効性を高めるため。二秒で落とせるから」
 殺し屋なのか。
 そう疑ってしまう。
 しかし、裏口担当は俺と紅乃木の二人だけだ。
 万が一、店側の人間が逃げ出した時に退路を断つための配置。
 さらには道路に車担当も待機している。
 逃がさないつもり満々だ。
 俺は首をさすりながら立ち上がる。
「喧嘩したことないね」
「殴り合いとかは……」
「今日はぶっつけ本番で殺し合いかもよ?」
「類沢さんがそうはさせませんよ」
「なにを知ってんの?」
 紅乃木が可笑しそうに一蹴する。
 言い返せなくなる。
 確かに、彼が腕を振るうところを見たことがないだけかもしれない。
「あの人と一緒に住んでんだっけ。気をつけてね。逆らったらどうなるかわかんないよ?」
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