あの店に彼がいるそうです

片桐瑠衣

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超絶マッハでヤバい状況です

超絶マッハでヤバい状況です13

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 類沢はイヤホンを襟に隠し、マイクを目立たない位置にしてから千夏と目配せした。
 NO.に入っている中で一番冷静なのは彼だ。
 だから班を共にした。
 兄の復讐を抑えられればいいが。
 他に二人の男が後ろにつく。
 名前は忘れた。
 元から覚えていないかもしれない。
 確か、自分が入ったばかりの頃にトップを占めていた二人。
 今後ろに並ぶ気分は、好くはないだろう。
「行くよ」
「はい」
「……はい」
「いよいよですか」
 類沢は足を踏み出す前に、三人に銀紙に包まれたタブレットを渡した。
「なんですかコレ」
「対中毒性薬物の抗体。マリファナ、ヘロインあたりのね。栗鷹から預かってきた」
「薬物?」
 不安げな眼差しの二人とは違い、千夏は大事そうにスーツの内側に忍ばせた。
「使うタイミングは各自でね」
 そう言って類沢は歩き出した。
 最悪のパターンは一人でも捕まること。
 視察に来る手間もなく、名簿を作ってしまえるだろう。
 シエラのホストがどれほど店に忠誠心があろうとも、自白の強要はどこまでも残虐にできるものだ。
 ここが嫌だ。
 ホスト同士なら薬物は使わない、顔には傷を付けないのが礼儀。
 営業に支障をきたしてまで勝ちたい馬鹿はそういない。
 しかし今回は名義屋というふざけた連中だ。
 バックはホストじゃない。
 拷問だってしかねない。
 名前を覚えていなくとも、仲間が暴力に晒されたくはなかった。
「おい、何の用だ」
 使うのもね。
「うちの客を迎えに来ました」
 千夏が素早く男の鳩尾に手を伸ばす。
 叫ぶ間もなく痙攣して倒れた相方を見て、もう一人が拳を振りかぶる。
「短気は嫌いだ」
 男の後ろに回った類沢は、そのうなじを打ちつけた。
 目から光が消え、地に落ちる。
 ドサッと音が響かぬよう、支えてから壁にもたれかけた。
 傍目には傷はない。
 千夏がスタンガンをしまう。
 細い指を当てて、類沢は重い扉を開いた。

 暗い。
 灯りは下にある。
 青い光。
 類沢はメンバーに目配せした。
 すぐに全員が片目に眼帯をかける。
 同時にドアが閉まった。
 残響が耳に残る。
「おや? 客は丁度のはずだが」
 前から太い足が歩いて来る。
 身構えもせずに、胸を張って。
 下から照らされた顔は無様に広がり、肥えた体にかろうじて乗っかっているようだ。
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