あの店に彼がいるそうです

片桐瑠衣

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どちらかなんて選べない

どちらかなんて選べない17

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 電話が鳴った。
 正確には、携帯が震えた。
 俺は類沢にアイコンタクトして、大丈夫だと伝える。
 だが、彼は離れなかった。
 お互い眼を合わせたまま、電話に出る。
「……もしもし?」
「あっ、瑞希出たよー。ほら」
 聞き覚えのある声。
「貸せっ。おい、瑞希?」
 誰だっけ。
「もしもし」
 俺は弱弱しくもう一度答える。
「てめぇどこ行っちゃったの? 毎日毎日拓がうるせえんだよ。瑞希がいねー、瑞希がいねーって」
「オレじゃねえだろ。忍が心配してるくせによ」
「うるせぇっ」
 あ、思い出した。
 なんで忘れていたかもわからないほど強烈な隣人を。
「忍に拓か」
「なんだ? 忘れてたとかいわねーよな」
「ごめん……久しぶりだから」
 携帯を持ち代える。
「久しぶりはこっちの台詞だっつの。引っ越しのそぶりも無かったのによ」
「忍、もうちょっと優しく喋れよ。瑞希怖がるだろ」
「うっせ。黙ってろ」
 相変わらずだなあ。
 俺はにやけてしまう。
「代わりに入った奴らはなんか変な兄弟だしよ。てめぇがホストやってるって云うし」
「兄弟?」
 丁度目が合った類沢の表情に直感が走った。
 まさか。
 俺の出て行った部屋にいるのって。
「は、にゅう……とか言ったりする? その兄弟」
 一瞬の間。
「なんでわかったんだよ。マジでホストやってんのか。知り合いか?」
 指から力が抜ける。
 耳元から声が遠ざかっていく。
 もう忍の言葉は届かなかった。
 目の前の人物に訊きたいことがある。
 無意識に電源ボタンを押した。
「どういう……ことですか」
 類沢は表情を変えない。
「なんで、一夜たちが俺の部屋に住んでんすか」
「なんでだと思う?」
「知るわけないじゃないですかっ」
 質問を質問で返されるじれったさ。
「意味わかんない……わかんないですよ」
「じゃあ、直接本人たちに説明してもらおう」
 類沢は俺の横を通り過ぎて、玄関を出て行った。
 反応する間もなく。
「え?」
 急いで後を追う。
 ヘッドライトが道を照らした。
 運転席に類沢が乗っている。
 助手席の窓が降りる。
「どこ行くん、ですか」
「さっきの掛けてきた連中がいる場所」
 俺は茫然とドアを開けた。

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