あの店に彼がいるそうです

片桐瑠衣

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どちらかなんて選べない

どちらかなんて選べない18

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 二年間、一人暮らしをしたアパート。
 俺は見慣れた通りの向こう、雨の中寂しそうに佇む建物に目を細めた。
 一階に並んだ三室。
 左から拓、忍、俺の部屋だ。
 二階は管理人が住んでいるほか、空いていると聞いた。
 電気が点いていないところを見ると、まだ新人は入っていないんだろう。
 俺が出て行ってから、何も変わっていないんだ。
 何も。
 錆びた鉄柱に支えられ、淡い水色の壁が濡れて灰色に染まっている。
 階段は目立たないように壁の端に引っ付いている。
 絡まる蔦は、元気に屋根を目指す。
 足音が響くから、防犯上は二階の方がいいと管理人に勧められたことを思い出す。
 それでも俺は、先に住んでいた忍と拓のいる下を選んだんだ。
 幼稚園から親友だという二人は、毎日のように怒鳴り合いの喧嘩をしていた。
 そのくせ一緒に買い物に出かける。
 あの諺がまさに似合う二人組だ。
「僕が行くと話しづらいみたいだから、一人で行ける?」
「……わかりました」
 車を少し離れた空き地に横付けする。
 少し不満だけど、類沢の云うことも一理ある。
 俺じゃなくて、あの二人が話しづらくなるんだろう。
 
 降りると同時に寒さと雨粒が襲ってきた。
 早足にアパートに向かう。
 一〇三号室。
 懐かしい。
 二週間ぶりなのに、懐かしい。
 確かに生活感が色濃く、俺が出て行った後も人が住んでいた気配がある。
 灯りも見える。
 表札は部屋番号しか書かれていない。
 拓の忍、と書かれている忍の表札が例外で、普通は名前なんて見せない。
 この中に、一夜と三嗣がいるのか。
 拳を上げる。
 少し迷って指を伸ばし、チャイムを押した。
 ノックで現れるかはわからないから。
「はい」
 靴の中で足先に力が入る。
 この低音。
 ドアスコープを確認する影がよぎった後、扉が開く。
「み……ずき?」
 本当に一夜がいるなんて。
 奥からぱたぱたと足音が続く。
「えっ。瑞希さんだ」
「なんで、二人がいんの?」
 雨音だけが継続して鼓膜を揺らしている。

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