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第四話:密室からの消失と依頼状
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第四話:密室からの消失と依頼状
夜が明けても、豪雨は止まない。山荘は厚い雨雲に覆われ、まるで深海に沈んだかのようだ。
俺は慣れないソファの寝心地に体を起こし、リビングを見渡した。山荘に重い緊張感を持ち込んだはずのユウキの姿が、そこになかった。
昨夜、彼は「面白いことが起きたら、ぜひ拝見させてください」と探偵役を期待するような言葉を残したが、その目は、探偵への期待というより、自らが物語の登場人物になることを渇望している、狂信的な光を宿していた。あの夜の不気味なほどの高揚感は、既に彼の中で何かが決断されていた証拠だったのかもしれない。
「……ユウキ?」
リナ、アオイ、タケルの三人はまだ眠っていたが、彼の定位置だったはずのソファは、ブランケットが雑に丸められているだけだ。俺は血の気が引くのを感じながら、ユウキに割り当てた部屋を確認したが、案の定、もぬけの殻。
その瞬間、リナの悲鳴が、鉛のように重い空気の山荘中に響き渡った。
「ユウキが! ユウキがいない!」
皆が飛び起きる。外の土砂流の轟音は変わらず、山荘は完全に外界と隔絶されたまま。こんな状況で、ユウキが無防備に外に出たとは到底考えられない。
「まさか、土砂崩れの様子を見に行ったとか…?」タケルが青い顔で言う。
「そんなはずはない」俺は即座に否定した。「この雨だ。自殺行為だ。……それに、玄関には泥一つ付いていない」
誰もが出入りしていないことを示す証拠だった。ユウキは、この閉ざされた洋館の中で、まるでミステリー小説の如く「密室からの消失」をやってのけたのだ。
俺はユウキが消えた部屋で、彼の残した痕跡を探した。ユウキは、決して衝動的に姿を消す人間ではない。彼が行動に出たのなら、それは周到に計画された、彼自身の「物語のクライマックス」に違いない。
そして、ベッドの脇の床、家具と壁のわずかな隙間に、折り畳まれた一枚の紙切れを見つけた。白い紙には、万年筆で丁寧に、しかしどこか狂気を帯びた文字が記されていた。
俺は、その紙を握りしめ、冷たい予感の核に触れた。
久我奏太さんへ
この手紙は、僕という物語の最終章への招待状です。
あなたの言う『歪んだ庭』…その闇の最奥で、僕は光を見つけることを諦めました。僕の存在そのものが、愛する者たちを縛り付ける呪いなのだと、ようやく理解したからです。
この呪いを解くには、僕が消えるしかない。
そして、僕の願いを叶えるには、誰かの心に、究極の愛と裏切りという、消えない罪を負わせる必要がありました。僕の死は、僕を愛する者たちへの最後のプレゼントなのです。
ですが、久我さん、あなただけは違うかもしれない。あなたの小説が描く「ほんの少しの光」が本当にあるというのなら、証明して見せてください。
真の探偵であるあなたなら、この僕を…罪を背負った共犯者ごと、見つけ出し、止めることができるはずだ。
僕という物語が、本当の終焉を迎える前に。
リナ、アオイ、タケル…彼らの心の闇が、僕へと続く最後の扉です。その扉を、あなたの能力でこじ開けてください。
これが、僕があなたに託す、命懸けの依頼です。
俺は凍り付いた。指先が、紙に書かれた文字の熱を吸い取っていくように冷えていく。
これはユウキの命を救うためのタイムリミット付きの挑戦状であり、同時に、彼の自殺が共犯者がいることを示唆していた。
ユウキは、自分の死によって、残された者たちに、決定的なトラウマと罪悪感を刻み込もうとしている。そして、その裏に隠された真実を突き止める手段は、俺の「呪い」の能力だけ。
この依頼は、この山荘での「自殺」という命懸けのゲームだった。俺の能力こそが、ユウキの命と、罪を負わされた共犯者の魂を救う唯一の手段なのだ。
俺は、再び「変質者の烙印」と引き換えの力を手に取ることを強いられた。その忌まわしい発動条件を知って、ユウキは俺に依頼したのだ。俺の静かな隠遁生活は、今、ここに、完全に終わった。
夜が明けても、豪雨は止まない。山荘は厚い雨雲に覆われ、まるで深海に沈んだかのようだ。
俺は慣れないソファの寝心地に体を起こし、リビングを見渡した。山荘に重い緊張感を持ち込んだはずのユウキの姿が、そこになかった。
昨夜、彼は「面白いことが起きたら、ぜひ拝見させてください」と探偵役を期待するような言葉を残したが、その目は、探偵への期待というより、自らが物語の登場人物になることを渇望している、狂信的な光を宿していた。あの夜の不気味なほどの高揚感は、既に彼の中で何かが決断されていた証拠だったのかもしれない。
「……ユウキ?」
リナ、アオイ、タケルの三人はまだ眠っていたが、彼の定位置だったはずのソファは、ブランケットが雑に丸められているだけだ。俺は血の気が引くのを感じながら、ユウキに割り当てた部屋を確認したが、案の定、もぬけの殻。
その瞬間、リナの悲鳴が、鉛のように重い空気の山荘中に響き渡った。
「ユウキが! ユウキがいない!」
皆が飛び起きる。外の土砂流の轟音は変わらず、山荘は完全に外界と隔絶されたまま。こんな状況で、ユウキが無防備に外に出たとは到底考えられない。
「まさか、土砂崩れの様子を見に行ったとか…?」タケルが青い顔で言う。
「そんなはずはない」俺は即座に否定した。「この雨だ。自殺行為だ。……それに、玄関には泥一つ付いていない」
誰もが出入りしていないことを示す証拠だった。ユウキは、この閉ざされた洋館の中で、まるでミステリー小説の如く「密室からの消失」をやってのけたのだ。
俺はユウキが消えた部屋で、彼の残した痕跡を探した。ユウキは、決して衝動的に姿を消す人間ではない。彼が行動に出たのなら、それは周到に計画された、彼自身の「物語のクライマックス」に違いない。
そして、ベッドの脇の床、家具と壁のわずかな隙間に、折り畳まれた一枚の紙切れを見つけた。白い紙には、万年筆で丁寧に、しかしどこか狂気を帯びた文字が記されていた。
俺は、その紙を握りしめ、冷たい予感の核に触れた。
久我奏太さんへ
この手紙は、僕という物語の最終章への招待状です。
あなたの言う『歪んだ庭』…その闇の最奥で、僕は光を見つけることを諦めました。僕の存在そのものが、愛する者たちを縛り付ける呪いなのだと、ようやく理解したからです。
この呪いを解くには、僕が消えるしかない。
そして、僕の願いを叶えるには、誰かの心に、究極の愛と裏切りという、消えない罪を負わせる必要がありました。僕の死は、僕を愛する者たちへの最後のプレゼントなのです。
ですが、久我さん、あなただけは違うかもしれない。あなたの小説が描く「ほんの少しの光」が本当にあるというのなら、証明して見せてください。
真の探偵であるあなたなら、この僕を…罪を背負った共犯者ごと、見つけ出し、止めることができるはずだ。
僕という物語が、本当の終焉を迎える前に。
リナ、アオイ、タケル…彼らの心の闇が、僕へと続く最後の扉です。その扉を、あなたの能力でこじ開けてください。
これが、僕があなたに託す、命懸けの依頼です。
俺は凍り付いた。指先が、紙に書かれた文字の熱を吸い取っていくように冷えていく。
これはユウキの命を救うためのタイムリミット付きの挑戦状であり、同時に、彼の自殺が共犯者がいることを示唆していた。
ユウキは、自分の死によって、残された者たちに、決定的なトラウマと罪悪感を刻み込もうとしている。そして、その裏に隠された真実を突き止める手段は、俺の「呪い」の能力だけ。
この依頼は、この山荘での「自殺」という命懸けのゲームだった。俺の能力こそが、ユウキの命と、罪を負わされた共犯者の魂を救う唯一の手段なのだ。
俺は、再び「変質者の烙印」と引き換えの力を手に取ることを強いられた。その忌まわしい発動条件を知って、ユウキは俺に依頼したのだ。俺の静かな隠遁生活は、今、ここに、完全に終わった。
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