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しおりを挟むげっそりした茉莉花を励ましつつ自宅へと戻り、いざ袋から瓶2本を取り出せば…
「…え、私、あの人とエッチさせられそうだったの…?」
と彼女は固まってしまった。
「相思相愛だと思われてたんだろうな」
「……営業じゃん…メイクの話聞きたいって言うから真剣に答えたのに…おえぇ…」
マカロン男を庇う訳ではないけれど、茉莉花は人の美醜に関して区別をする性格ではない。持って生まれた顔貌はそのままが1番であるが、変化を求めるなら協力しますよというスタンスで働いている。
奴は肌の手入れをしていないように見えたが体質かもしれないし、既に治療中かもしれない。奴が自分の意思でその見た目を保っているなら無理に変えず最大限尊重する、茉莉花はそういう人間なのである。
だから茉莉花は『マカロン男に抱かれること』に嫌悪しているのではなく、『俺以外に抱かれること』を気持ち悪く感じているのだ。よく知りもしない男性から物を貰ったり、思うように仕事をさせてもらえないモヤモヤが総じて気持ち悪いのだ。
「こっちは明らかに精力剤だよな。こっちは…翻訳してみっか」
俺はスマートフォンの翻訳アプリを立ち上げる。
カメラで映せば瞬時に日本語に翻訳されるという優れもの、外国人客への対応でも役立つので助かっている。
テーブルに瓶を立ててカメラを向けると、画面には『催淫』だの『媚薬』だの案の定な単語が現れた。
「…こわい」
「輸入品か…媚薬って本当にあるんだな」
「日本製でも恐いよ…何が入ってるか分かんない」
「うん、捨てよう」
瓶の底も金属製の蓋も、何か細工されたような不審な点は見つからなかった。しかし明らかに怪しいし海外製品の規格が日本人に合うかも分からない。
興味はあるが、キコキコ開封してシンクへと流してしまった。
「すごい臭い…」
「本当だな…ラベル剥がして千切っとこ」
「そう言えばね、カウンターであの人、クッキーをやたら『今食べて』って急かしたの。あとマカロンの時も。それに感想もしつこく聞かれた」
「それは…何らかを混入してたってことか?」
もしかしなくてもそういうことなんだろう。マカロンの包みはとっくに捨ててしまったし、開封時に違和感があったかどうかなんて憶えていない。
例えば今流したばかりの催淫剤を垂らした菓子をカウンターで茉莉花に食わせて、ポッポした彼女を早退でもさせる気だったのだろうか。そこからホテルへ連れ込める確率がどれだけあるのかは分からないが、数回でも成功した自信のある方法だったのかもしれない。
「そうかも…どっちにしても勤務中のフロアでの飲食は禁止だからしないけど……食べなくて良かった」
「まったくだな」
「…こっちはどうする?…空くん」
俺の腕の中に入った茉莉花は『ぜつりんぼうZ』を手に、わざとらしく小首を傾げる。
電車内で視認した後に調べてみたのだが、この商品は日本メーカー企画製造の口コミ高評価製品らしい。
キャッチコピーは『根本から強く先まで熱く、男の自信とみなぎるパワー』だそうだ。あくまで慈養強壮剤なので勃起力が上がるなんて決定的なことは明言されてはいないが、意図するところの効果はそれだろう。明らかに『根本』や『先』なんて書いてある訳だし。
「俺に飲めってか?…良いけど」
「ふふ♡ご飯、用意するね」
「………あー、すげぇ…」
効くまで時間がかかるとのことなので食前に口に入れれば、色々入っているのだろうドリンクは複雑な味がして不味かった。しかし安心の日本製というのかさすが人気商品というのか、喉が焼けるような熱さを一瞬感じただけで後味はスッキリ気にならない。
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