清純派彼女には秘密なんて無い、よね?

茜琉ぴーたん

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 そろそろ茉莉花の終業時間という頃。
『ありがとう♡駅で待ち合わせなんて久しぶりだね♡これから出るね♡♡』
とハートいっぱいのメッセージが返って来た。
 ニカイドーから駅までは徒歩にして3分くらいか、会計して喫茶店を出る。

 同棲する前のデートでは駅で待ち合わせもよくしたものだ、懐かしくてついニヤニヤしてしまう。「お待たせ」と改札を走って抜けて来る茉莉花の可愛いこと。あの時俺は予定より早く着いていたのに「俺も今来たとこだから」なんて嘘をついた。
 惚れたら負けだと思っていたんだ、浮気女に連続で引っかかった俺は純朴な茉莉花にさえ警戒を怠らなかった。でも実際健気で可愛いし一途だし初彼氏だったし、俺が与える数倍の愛を返してくれたからどっぷり惚れ込んでしまった訳だが。
「(俺の方が今や執着してる感じするなぁ…これが愛なのか?)」
 あのマカロン男も、本当に純粋な気持ちで茉莉花にアタックしているのかもしれない。指輪なんてしてないし、恋人がいるかどうかも奴から決定的な告白でも無けりゃ茉莉花も公開するタイミングが無いだろうし。もしくはただ単純に好みの女性とのトークを楽しみたいだけという線もあるか。配偶者がいようとも異性と話をするのは新鮮で胸が高鳴るものだろう。
 ただ、マカロン男はTPOをわきまえなかったのがいけないのだ。いかに茉莉花が好みであろうとも、彼女の戦場であるカウンターに浮ついた気持ちで踏み込みダラダラ居続けたのがいけなかった。
 次の機会があればまた今日のように圧をかけてやろう。

 そんなことを考えていると、ニカイドーと反対の駅前バス停横から石床を叩く音が近付いて来る。
 反射的に顔を向ければ、それは通勤着の茉莉花の駆け足の音だった。
「…茉莉…ん?何であっちから?」
 パンプスで走る茉莉花は遠目で俺を確認すると、むんと険しい顔になり駅舎の方を指差す。行けということか、もちろんこれから電車に乗るから行くけども。
 戸惑っていると茉莉花は俺の前を通り過ぎて先に駅舎へと入ってしまった。
「え?待っ…」

 急いで俺も改札を抜けて、自宅方面行きの車両へと乗り込む。
 ホーム階段から一番近い車両に茉莉花はおらず、連絡するべとスマートフォンを取り出せば『2両目だから』とメッセージが届いた。

 揺らしたし買った惣菜が汁漏れしてないと良いけど、などと心配をしつつ車両間を移動してみれば、当該車両に確かに茉莉花は居た。
「茉莉花、どうした」
「…空くん、尾けられてない?」
「…誰に」
「あのマカロンの人、従業員出口の所で待ち伏せされてたの」
 なるほどだから走ったのか。しかしいよいよ犯罪色が強くなって来て恐くなってしまう。
「何かされたのか⁉︎」
「ううん、でも薄暗い中にいきなり声掛けられてびっくりしちゃった」
「さ、触られたりとか」
「してないよ、でもほら、これ」
 マカロン男からの次なるプレゼントだろうか。茉莉花の手には見慣れないかっちりした紙袋が下がっていた。
「渡されたのか」
「うん、断ったんだけど、押し付けられて…割れ物みたいな音がするし落としたらそれも面倒だと思って受け取ったの」
 つるつるとした表面加工が施されたA4サイズの紙袋は持ち手の根の部分がホック式になっており、パチンと留められて中身は見えないようになっていた。
「カウンターでも何か渡されてなかった?」
「あれはクッキーだった…ちょっと食べる気しない」
「これ開けるの、恐いな」
「うん…帰り道がバレるのも嫌だったから、ニカイドーの周りをぐるっと回って地下道から反対側に渡って撒いて来たの…成功してれば良いけど…走ったから中身、割れたかもしれない…」
「もし変なもんだったらここ電車じゃまずいよな」
「うん、でも捨てて帰れる物なら捨てちゃいたい…」
 おかしな物だったとしたら、いざ対面して分別してと労力を割くのがまこと面倒ではある。
 しかし危険な爆発物とかだったらどうしようか。俺は恐る恐る袋の口を開けてみることにした。
「…瓶だ」
「何の?」
「ドリンク剤かな?……あ、これヤバいやつだわ」
「やだ、捨てて帰ろ」
 中に入っていたのはいわゆる慈養強壮剤で、まむしとかニンニクとか精のつきそうな食材がおどろおどろしくパッケージに描かれている。その名も『ぜつりんぼうZ』、なるほど効きそうなネーミングだ。
 それともうひとつは女性用だろうか外国語のラベルが貼られた瓶で、男性用が精力剤というところから想像するにこちらもただのエネルギー飲料ではなさそうである。
 これらを使ってホテルにでも行こうとしてたのか。マカロン男はなかなかの行動力があるみたいだ。
「あぶねー奴だな…んー…」
「何?何の飲み物?」
 トイレに中身を流して瓶を捨てて帰ることは出来そうだが、証拠として取っておいた方が良いような気もする。
「家で見よう、写真撮ってからでも捨てられるし」
「変なもの入ってるんじゃないの?」
「いや、未開封だな。本人も使う予定だったろうから異物は入ってないと思う」
「使うって何、やだ、空くん、気持ち悪いよぅ…」

 俺はジューススタンドの感想や冨地原さんにお世話になったことを話して茉莉花を宥めて、車内にも関わらずぴったりくっ付いて地元駅を目指した。
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