清純派彼女には秘密なんて無い、よね?

茜琉ぴーたん

文字の大きさ
14 / 25
3

13

しおりを挟む

 そろそろ茉莉花の終業時間という頃。
『ありがとう♡駅で待ち合わせなんて久しぶりだね♡これから出るね♡♡』
とハートいっぱいのメッセージが返って来た。
 ニカイドーから駅までは徒歩にして3分くらいか、会計して喫茶店を出る。

 同棲する前のデートでは駅で待ち合わせもよくしたものだ、懐かしくてついニヤニヤしてしまう。「お待たせ」と改札を走って抜けて来る茉莉花の可愛いこと。あの時俺は予定より早く着いていたのに「俺も今来たとこだから」なんて嘘をついた。
 惚れたら負けだと思っていたんだ、浮気女に連続で引っかかった俺は純朴な茉莉花にさえ警戒を怠らなかった。でも実際健気で可愛いし一途だし初彼氏だったし、俺が与える数倍の愛を返してくれたからどっぷり惚れ込んでしまった訳だが。
「(俺の方が今や執着してる感じするなぁ…これが愛なのか?)」
 あのマカロン男も、本当に純粋な気持ちで茉莉花にアタックしているのかもしれない。指輪なんてしてないし、恋人がいるかどうかも奴から決定的な告白でも無けりゃ茉莉花も公開するタイミングが無いだろうし。もしくはただ単純に好みの女性とのトークを楽しみたいだけという線もあるか。配偶者がいようとも異性と話をするのは新鮮で胸が高鳴るものだろう。
 ただ、マカロン男はTPOをわきまえなかったのがいけないのだ。いかに茉莉花が好みであろうとも、彼女の戦場であるカウンターに浮ついた気持ちで踏み込みダラダラ居続けたのがいけなかった。
 次の機会があればまた今日のように圧をかけてやろう。

 そんなことを考えていると、ニカイドーと反対の駅前バス停横から石床を叩く音が近付いて来る。
 反射的に顔を向ければ、それは通勤着の茉莉花の駆け足の音だった。
「…茉莉…ん?何であっちから?」
 パンプスで走る茉莉花は遠目で俺を確認すると、むんと険しい顔になり駅舎の方を指差す。行けということか、もちろんこれから電車に乗るから行くけども。
 戸惑っていると茉莉花は俺の前を通り過ぎて先に駅舎へと入ってしまった。
「え?待っ…」

 急いで俺も改札を抜けて、自宅方面行きの車両へと乗り込む。
 ホーム階段から一番近い車両に茉莉花はおらず、連絡するべとスマートフォンを取り出せば『2両目だから』とメッセージが届いた。

 揺らしたし買った惣菜が汁漏れしてないと良いけど、などと心配をしつつ車両間を移動してみれば、当該車両に確かに茉莉花は居た。
「茉莉花、どうした」
「…空くん、尾けられてない?」
「…誰に」
「あのマカロンの人、従業員出口の所で待ち伏せされてたの」
 なるほどだから走ったのか。しかしいよいよ犯罪色が強くなって来て恐くなってしまう。
「何かされたのか⁉︎」
「ううん、でも薄暗い中にいきなり声掛けられてびっくりしちゃった」
「さ、触られたりとか」
「してないよ、でもほら、これ」
 マカロン男からの次なるプレゼントだろうか。茉莉花の手には見慣れないかっちりした紙袋が下がっていた。
「渡されたのか」
「うん、断ったんだけど、押し付けられて…割れ物みたいな音がするし落としたらそれも面倒だと思って受け取ったの」
 つるつるとした表面加工が施されたA4サイズの紙袋は持ち手の根の部分がホック式になっており、パチンと留められて中身は見えないようになっていた。
「カウンターでも何か渡されてなかった?」
「あれはクッキーだった…ちょっと食べる気しない」
「これ開けるの、恐いな」
「うん…帰り道がバレるのも嫌だったから、ニカイドーの周りをぐるっと回って地下道から反対側に渡って撒いて来たの…成功してれば良いけど…走ったから中身、割れたかもしれない…」
「もし変なもんだったらここ電車じゃまずいよな」
「うん、でも捨てて帰れる物なら捨てちゃいたい…」
 おかしな物だったとしたら、いざ対面して分別してと労力を割くのがまこと面倒ではある。
 しかし危険な爆発物とかだったらどうしようか。俺は恐る恐る袋の口を開けてみることにした。
「…瓶だ」
「何の?」
「ドリンク剤かな?……あ、これヤバいやつだわ」
「やだ、捨てて帰ろ」
 中に入っていたのはいわゆる慈養強壮剤で、まむしとかニンニクとか精のつきそうな食材がおどろおどろしくパッケージに描かれている。その名も『ぜつりんぼうZ』、なるほど効きそうなネーミングだ。
 それともうひとつは女性用だろうか外国語のラベルが貼られた瓶で、男性用が精力剤というところから想像するにこちらもただのエネルギー飲料ではなさそうである。
 これらを使ってホテルにでも行こうとしてたのか。マカロン男はなかなかの行動力があるみたいだ。
「あぶねー奴だな…んー…」
「何?何の飲み物?」
 トイレに中身を流して瓶を捨てて帰ることは出来そうだが、証拠として取っておいた方が良いような気もする。
「家で見よう、写真撮ってからでも捨てられるし」
「変なもの入ってるんじゃないの?」
「いや、未開封だな。本人も使う予定だったろうから異物は入ってないと思う」
「使うって何、やだ、空くん、気持ち悪いよぅ…」

 俺はジューススタンドの感想や冨地原さんにお世話になったことを話して茉莉花を宥めて、車内にも関わらずぴったりくっ付いて地元駅を目指した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

課長と私のほのぼの婚

藤谷 郁
恋愛
冬美が結婚したのは十も離れた年上男性。 舘林陽一35歳。 仕事はできるが、ちょっと変わった人と噂される彼は他部署の課長さん。 ひょんなことから交際が始まり、5か月後の秋、気がつけば夫婦になっていた。 ※他サイトにも投稿。 ※一部写真は写真ACさまよりお借りしています。

離婚した妻の旅先

tartan321
恋愛
タイトル通りです。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

処理中です...