泥より這い出た蓮は翠に揺蕩う

茜琉ぴーたん

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5・身分と情緒の上がり下がり

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「いっぱい…出ましたね、ありがとうございます」
「お礼は…おかしいだろ…はァ…ごめん、けがしちゃったな…」
「大丈夫です。お役に立てて嬉しいですわ…洗いましょう」
「ん…水蓮、キスを」
「はい」
 口付けたまま彼女は力尽きた俺をこちょこちょと洗い、洗面器で湯をすくって泡と子種を排水溝へザァと流す。
「キレイになりましたわ、拓朗さま」
「ん…湯船、浸かろうか」
「はい♡」

 まことワガママな俺は、乳房を見たくないがために彼女の背中に胸を付けて脚の間に座らせた。
 二人分の体積が沈めば水かさが一気に上がり勿体なくも湯が随分と溢れて、床に残っていた泡や髪の毛も一緒に隅へ押し流す。
「ふわ……良い湯だね」
「はい…」
 温かな達成感にも浸る彼女は髪の毛先が濡れて、少し湯抜きしようかと目線を横へ振ると…彼女の肩と腕の繋ぎ目にポツと紅い点が出来ているのを発見した。
「……水蓮、ここ…あ、血が出てる」
「あ、本当ですか、不衛生ですね、浸からないようにします」
「違う、これ…」
「拓朗さまのマーキングですよ、分かってやってらっしゃるのかと思いました」
「……ごめん!」
 射精前に肩を掴んだ時に食い込んだのか、こんなに出血するほど強く…俺は小指にはめていたピアスを外して飾りの羽の先をなぞる。さほど鋭利ではないにしても尖っているし、刺されば痛かっただろうし現に表皮を貫いてしまっている。
「言えよ…痛かったよな、ごめん、ごめん…」
欲に溺れてパートナーをかえりみないなんて暴力じゃないか、俺は濡れた髪にひたいを付けて懺悔ざんげを繰り返した。
「大丈夫ですよ、すぐ治ります…でも傷が残ったら…責任取って頂こうかな、なんて」
「取るよ、取る…残らなくてもだ…」
「まぁ…嬉しい」
「ダメだ、痛いこと嫌いとか言いつつ傷付けてた…」
「大丈夫ですよ、キレイに消えますわ」
 泣くほどでは無いが賢者タイムの効果もあってか、俺の反省っぷりは彼女の表情をも曇らせてしまうくらいにしばらく尾を引くことになる。

 痛いことが恐いくせにパートナーにしてしまうなんてとんだ皮肉、ずぅんと気分が落ちてしまった。
 そんな俺を水蓮は優しく胸で文字通り包み込んで、
「よしよし」
と励ましてくれる。
 肉に埋もれるとは何たる至福…埋もれてしまえばピアスも見えないのだから名案にも思えた。


 母性と温もりになだめられた俺はそのまま寝落ちしてしまい…翌朝、ニップルピアスが顔に当たり目が覚めるという珍しい経験をするのだった。
「(……朝か…おぉ…モーニング乳首…)」
 視界を満たす乳房の真ん中の乳頭を貫く銀の針、まじまじみつめていれば朝勃ちがしおしおとヘタってしまって、なかなか付かない耐性が腹立たしい。
「おはようございます」
「ん、おはよう…」
「拓朗さん、よだれが…」
「あ、ごめん…俺、寝てるとすげぇ垂れるんだ」
 おや敬称の違いは何なんだろう、拭いた乳房をもにもに触りながら問えば「何となく」だそうだ。
「エッチだと『さま』になるのかな」
「気分的なものですね、ご奉仕させて頂いてる時は私の身分が下がりますので」
「身分とか言うなよ」
「拓朗さんのくらいが上がってるんです」
 ひと昔まえの亭主関白な夫婦でもここまでへりくだったりしなかっただろう。養ってるわけでもなく彼女が低くある理由が無いのだ、違和感の原因が知れてふに落ちる。
 俺の母親は専業主婦で長く親父の扶養ふように入っていたが、しいたげられたり酷い扱いをされてるところなんて見たことが無い。今でも「母さん、母さん」と甘ちゃんな親父に追いかけられて「やかましいね」と悪態をいている。

 男としての強さとかカッコ良さみたいなものはドラマやフィクションから学んだからそもそも『まやかし』なのかな、価値観の擦り寄せが難しい…そんな話題で朝食を摂った。
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