泥より這い出た蓮は翠に揺蕩う

茜琉ぴーたん

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10・虚実、不確かな真実

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「……さん、拓朗たくろうさん、起きて下さい、」
 ふと気付けば目の前には愛しの同居人の顔。
 窓の無いこの部屋では時刻は分からないが、彼女が帰宅しているということは20時はゆうに回っているのだろう。
「あ、あ…おかえり」
「もう、どこにもいないから探してみたら…こんな所でお昼寝なんて…よだれ、垂れてます」
「あ、ごめん、んー…………水蓮の初夜の夢を見てた」
「え、……どのような?」
 僅かにでも記憶があるのだろうか、彼女はぴくと肩を動かせばしばし止まってベッドの俺の足元へ腰掛けた。
「初々しくて…可愛いかった」
「…想像の世界ですね」
「本当はどうだったんだ?どっちから誘ったんだっけ?」
「私から、是非にとお願いしたんです」
「そう、そう…」
 俺の推測ではお願いどころか強姦まがいの初行為だが根拠は無い。
 そして彼女の伏したまつ毛が何か物語っているような気がしなくもない。けれど全て憶測の域を超えない、そしてそれらは全て過去の話だ。
 やれやれ俺も疑心暗鬼になりかけているな、両脚で彼女の腰を捕まえたら腹筋に任せて体を起こす。
「きゃ」
「水蓮、脱いで…全部見せて」
「え、今ですか?あの、夕飯、」
「水蓮のおっぱいが先だ」

 少し汗が香る仕事着の彼女、ボタンをぷちぷち外せばその白い手は薄ピンクのブラジャーを隠した。
「え、あの、胸もですか?」
「あぁ、全部だ…」
「今日はあの、ハードなやつ着けてて」
「外さなくて良い、見たい」
かすかに濡れた目尻を親指で拭って、俺は彼女へ覆い被さる。
 彼女が忘れた記憶を無理に呼び起こすつもりは無い。
 恐らくだが、本人ももう現実と妄想の区別がつかないくらい過去は曖昧あいまいに定着しているのだと思う。大まかな年表が脚色されて、その解釈もまた各人次第…ということだろう。
 聖氏は故人だし、後見人の彼らも生活の詳細は知らないはずだ。
 俺には実際にこの目で見て来た水蓮の姿と二人の出来事が全てなんだ。彼女が聖氏から愛されていたのも本当だし男に売られようとしていたのも事実、どこでどう心変わりしたのかはもう永遠に解明できやしない。
「拓朗さま?」
「さん、で良いよ、水蓮」
「慣れません…」
「きちんと呼べるまで…可愛がろう」
「あ♡」


 この夜は夕飯も忘れて激しく彼女を求め、肩に痕が残るほどにきつくきつく抱き締めたものだから後で随分と小言を言われた。
 主従は要らない、でもこの手の中に置いて逃したくない。自由にしてあげたい、俺の物にしたい。
 矛盾した意志で2度3度と抱いて見下ろして口付けて…俺はもっと深く彼女の中に入りたくて、ゴツいニップルピアスの周りに歯形を付けたりと相当に暴れた。
 この汗の匂いを俺のものに、彼女の忘れた記憶も全て俺とのものに、上書きだ、塗り替えてしまえ、深く潜って彼女の核へ。
 
 だくだくと俺の成分を送り込めば彼女はうっとりとした表情を浮かべて

「私、拓朗さまに支配されてますわ」

と口走っていた。
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