こちらの異世界、私には合わないから帰りたいんですが。

茜琉ぴーたん

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 侯爵さまはモノをビタンと私の腹に置き、コルセットの下の腰巻きを解く。けれどまどろっこしいのかビリビリと、端を裂いて私の股は露出されてしまった。
「ふはっ…慣らされているのか?どうなんだ」
「分かりません、あの、展開が早過ぎてついて行けません!」
「何を言ってる、さぁ、この地で俺の子を産め、男なら家督を継がせてやるぞ、はははっ」
「んな、エロ漫画じゃあるまいしっ…離して、やだ、」
 股に突き立てられ、貞操と尊厳の危機に涙が込み上げる。恐い、助けて、私の夢のくせに何故都合が付かない。
 あまりの恐怖に抵抗を止めると、侯爵さまは気を良くしたのか
「諦めたか。セレナ、せめて俺の名を呼ぶことを許してやろう、ジョージと呼べ、」
と…先端をぐにっと挿し込んだ。
「ゔあっ…やだ、やだぁ、」
 気持ちが悪い、痛みは無いがヌルッとした感触が気色悪くて快感など湧かない。色香だ何だとときめいたのは何だったのか、嫌悪が跳ね上がって自分の情緒に付いて行けない。
「(さっきまでコメディタッチだったじゃん、作風が変わった、本当に、あ、あ、)」
 腰が引けて脳が揺れる。
 ギリギリで助けに参上してくれるヒーローも出て来ない、侯爵さまに心身が惹かれはしたが持続しない。甘んじて受け入れるほど愛せそうにない、私をこのように抱く男に敬愛の情は湧かない。
 でもどうせされるがままになるなら、彼を愛する努力をすべきなのだろうか。このまま夢が夢じゃなく一生続くなら、侯爵夫人として生きるのが安全で堅実か。
 少なくともこの場で首を絞められ殺されたりするのなら、身体を差し出してやり過ごすのが懸命か。心からの同意じゃない、でも命を守るために心を犠牲にする。

 夫にもう一度会いたかったな、夫との子供を産みたかった。
「ジョージ、さま…」
「素直になったか、セレナ、ふふっ…深く挿れるぞ、どうだ、欲しいか、」
「は、い…ジョージさま…じょう、じ……じ……!」
 口に出した彼の名が、妙にしっくり来る。
 これは記憶に存在する名前なのだ、私と現実世界できっと深い関係にあった相手、夫、そう夫の名だ。
丈治じょうじ、丈治くん!」
 読みは同じだが違う、私の愛する人は日本名の丈治だ。
「生意気な呼び方をするな、セレナ、お前は…何だ⁉︎」
 暗い部屋の天井が、ぶわんと波打って白い渦巻きが生まれる。時空の狭間とかなんじゃないの、ベタなワープホール的な。この穴の向こうが夢の出口なんじゃないの、目覚めの穴的な、アニメならきっとそうだ。
「わ、私はセレナじゃない、丈治くん、どこ、そこにいるの⁉︎助けて、やだよ、貴方以外とエッチしたくない!丈治くん!」
「やかましい、暴れるな!」
「うるさい、ちんちん抜けよバカ!丈治くん、名前呼んで!私の名前、セレナじゃない、丈治くん、お願い!」
 侯爵さまの脚を蹴って距離を取って、本能で覚えている夫の名を呼ぶ。
 群馬県前橋市在住の丈治くんと夫婦だったんだ、私はその世界で生きていた。

 髪を振り乱しギャーコラ騒いでいたが、突然
小夜さよちゃん、》
と…耳馴染みの良い声に名を呼ばれ、侯爵さまを蹴る脚が止まる。
 顔に掛かる侯爵さまの髪の毛が邪魔だ、どこだ、どこで呼んでいる。
「丈治くん、どこ、助けて、」
《小夜ちゃん、こっち、戻って来て、》
「どこ、戻りたい、丈治くん、丈治くんっ…」
《…あ、動いた…小夜ちゃん、小夜ちゃん、聞こえてるか?行くな、行っちゃダメだ!》

 小夜、そうだ、私は小夜だった。
 母が名付けたその名に『小夜曲セレナーデ』という読み方があるのを後から知り、購読していた少女漫画のヒロインと重なって余計に羨ましく感じたのだ。
 ネトゲやSNSのハンドルネームは『セレナ』、幼少期の憧れを叶えるそのあだ名を私は長く愛用していた。私がこの世界で何気なく名付けたその名は、使い込んでいたからポンと浮かんだのだろう。
 現実に戻れる手掛かりとして働いてくれたのかな、私の意識は上がり下がりしつつも良い方に動いていた…のだと思いたい。
「セレナ、」
「違う、私は小夜、もう終わりです、短い間ですけどお世話になりました、侯爵さまのお顔…うちの夫とそっくりで、ドキドキしちゃいましたけど…本物の夫が呼んでるので、帰ります」
 侯爵さまの顔立ちも体格も、髪型こそ異なるけれど夫と寸分違わない。アソコは…補正が掛かっている気がするが、大きさも同じな気がする。
 「恐い」と言われる厳つい目元、気難しそうな口。でもそこに笑顔が加わった時の可愛らしさ、私はそれが好きなのだ。だから侯爵さまに惹かれて、一時的にでも身体を許しそうになった。
 お出迎えして下さった時の侯爵さまはガチムチ巨体だったが、あれはバグみたいなものだったのだろうか。私の意識の何かが変化して、侯爵さまのビジュアルを組み替えた…理由は分からないが、結果としてそうだった。

《小夜ちゃん、小夜ちゃん、お願いだ、行かないで、俺を独りにしないで、》
「しないよ、丈治くん、帰れそうなの、大丈夫だよ」
 天井の穴が不気味な音を立てて広がっていく、私の身体はふっと軽くなって軽い髪の毛から穴へと吸われて宙に浮く。
 侯爵さまは超常現象に唖然として、しかし私から降りて
「そうか…元気で」
と最後の挨拶をくれた。
 この人もよく分からないことだらけだったろう、都合良く作られて踊らされて。私が目覚めれば全て無に帰すのだろうか、覚えていればノートに書き留めるくらいはしてあげようか。
「はい、侯爵さまも…あのお役人にもよろしくお伝え下さい」
「…ニコラだな、伝えておく…乱暴をして済まなかった」
「いいえ…この国と侯爵家の繁栄を願っています」
 本当はそこまで願ってないし古い価値観はアップデートすべきと思っているが…高尚な挨拶で気取りたかった。
 ほぼ丸裸な私はフワフワとベッドから身体が離れ、目覚めのワープホールへと吸い込まれ…目の前が真っ白になった。

 ただの夢にしては壮大だったな、そして私を呼ぶ丈治くんの声も鬼気迫っていて…寝過ごして遅刻しそうとか、緊急事態なのだろうか。
 目覚めて時間に余裕があったら「丈治くんそっくりの人とエッチしそうだった」と教えてあげよう。
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