わかりあえない、お互いさまね

茜琉ぴーたん

文字の大きさ
7 / 10

7

しおりを挟む

 そして半年後…私の妊娠が発覚、安定期に突入と同時に私たちは同居を解消した。これも再三話し合ってのことで、円満と言うか双方が納得しての措置だ。
 理由としては、やはり私の『結婚したくない』という拘りが強い。自分だけでやっていくガッツと経済力はあると思うし、裕大くんの役割に必要性を見出せなくなった。
 同居中も慣れたとはいえ彼の性分に気を揉んだし、育児中は子供に集中したいから彼に気を遣ってばかりいられない。なら裕大くんの去来を空気みたいに思えるかというと、彼を蔑ろにしているようで気が引ける。

 そして順調に産み育てていくとして、私は裕大くんの存在を子の父親として認識することに言い得ぬモヤモヤを抱いてしまったのだ。子供にも、彼を父親として認識させたくないと感じてしまった。
 家の中で単独行動することは一般家庭でも珍しいことではない…しかし、無邪気な子供が「お父さん、遊ぼう」と部屋に向かっても私はそれを制止しなければならない。私に対しては制御できていた彼のモヤモヤが、話の通じない幼子には爆発してしまったらどうしよう。
 次第に子は育って「お父さんには話しかけちゃいけない時間がある」と認識するだろうが…そんなルールがある家を幸せな家庭と呼べるのだろうか。腫れ物扱いの家族なんて、要らぬ気遣いを幼い子にさせたくない。
 妊娠する前から分かっていたことなのに、実感が伴うと辛抱が出来なくなったのだ。

 さらに、妊娠が分かってから私の恋愛脳がプスンとストップしてしまった。
 エネルギーと思考容量を子供に回し、裕大くんへの関心が減ってしまった。セックスはおろか、軽いスキンシップやキスなども欲しなくなった。
 心身が一個の女としてではなく『母』として稼働し始め、恋愛はおまけ扱いになってしまった。
 途端に裕大くんが『恋人』から『面倒な同居人』に変わり、共に暮らすことの意義を感じなくなった。

 裕大くんとしても、かなり無理はしていたようだ。独りで居たいけどなるべくリビングに顔を出したり私と話したりしていたらしい。
 気は合うし短期間の付き合いに留めておくべきだったのか、お互いに2人暮らしが下手過ぎた。
 彼からは養育費を貰い、予定が合えば子と共に会って遊んだりする予定だ。
 子からすれば彼は「母の彼氏」というものになるのだろう、物心つき分かる頃まで裕大くんと交際していればそれが自然になるだろうか。


「じゃあね、また」
「裕大くん…ごめんね」
「謝らないで、沙耶ちゃん…僕らは世間一般の生活が合わなかっただけだよ。分かってたことじゃん…沙耶ちゃんが僕のこと、男として見れなくなってるのも仕方ないよ、僕は沙耶ちゃんたちを振り回しちゃうから…そもそもが、共同生活が僕には向いてなかったんだ」
「…でも、この先何か変われば」
「うん」
 「また、一緒に暮らそう」、皆まで言わずに彼は私に背を向けた。


 それから私は実家へ戻り、働きながら臨月を迎えた。職場にはシングルマザーや離婚経験者もちらほらいるため、未婚の妊婦はそこまで騒がれはしなかった。
 ギリギリまで働いて産前休暇に入り、祖母と母の助けを借りて出産準備をした。

 そして無事出産、今は不規則に泣く我が子に翻弄される毎日だ。
「(決まった時間に泣かないし寝ないし、裕大くんは対応しきれなかっただろーなー)」
 産後のガルガル期で母にさえ当たってしまい、これでは裕大くんにも相当厳しくぶつかってしまったことだろう。
 やはり離れて正解だった。隣の部屋に居るなら「何か手伝ってよ」と不満を抱くだろうが、はなから居ないのなら無駄な期待をせずに済む。

『今度、会いに行くよ』
 彼からのメッセージに、
『また連絡するね』
と返す。
 育児が落ち着いて、私に恋愛欲求が戻れば裕大くんとの再構築もあるかもしれない。
 今だって、私と彼は一応暫定恋人関係なのだし。
 年齢を重ねて性欲も枯れて、その頃には私たちの性分にも変化が出ているかもしれない。私と彼と子供と、一緒に暮らせる日が来るかもしれない。

「…忙しー」
 当面は、私は小さな家族に全力を注ぐ。
 この子に彼の面影を感じるなんてことがあれば…そしてそれを愛しく想うことがあれば、また彼と恋愛をしてみても良いかもしれない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

僕の完璧な妻

茜琉ぴーたん
恋愛
 年上の妻は、仕事も家事も上手にこなす「できる女」だ。  産後も変わらぬ美貌でバリバリ働く妻に、僕は嫉妬の気持ちを抱いてしまっていて…。 (全4話)

壊れていく音を聞きながら

夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。 妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪 何気ない日常のひと幕が、 思いもよらない“ひび”を生んでいく。 母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。 誰も気づきがないまま、 家族のかたちが静かに崩れていく――。 壊れていく音を聞きながら、 それでも誰かを思うことはできるのか。

泣きたいくらい幸せよ アインリヒside

仏白目
恋愛
泣きたいくらい幸せよ アインリヒside 婚約者の妹、彼女に初めて会った日は季節外れの雪の降る寒い日だった  国と国の繋がりを作る為に、前王の私の父が結んだ婚約、その父が2年前に崩御して今では私が国王になっている その婚約者が、私に会いに我が国にやってくる  *作者ご都合主義の世界観でのフィクションです

フッてくれてありがとう

nanahi
恋愛
【25th Anniversary CUP】にて、最終ランキング3位に入りました。投票してくださった皆様、読んでくださった皆様、ありがとうございました! 「子どもができたんだ」 ある冬の25日、突然、彼が私に告げた。 「誰の」 私の短い問いにあなたは、しばらく無言だった。 でも私は知っている。 大学生時代の元カノだ。 「じゃあ。元気で」 彼からは謝罪の一言さえなかった。 下を向き、私はひたすら涙を流した。 それから二年後、私は偶然、元彼と再会する。 過去とは全く変わった私と出会って、元彼はふたたび──

【完結】私の事は気にせずに、そのままイチャイチャお続け下さいませ ~私も婚約解消を目指して頑張りますから~

山葵
恋愛
ガルス侯爵家の令嬢である わたくしミモルザには、婚約者がいる。 この国の宰相である父を持つ、リブルート侯爵家嫡男レイライン様。 父同様、優秀…と期待されたが、顔は良いが頭はイマイチだった。 顔が良いから、女性にモテる。 わたくしはと言えば、頭は、まぁ優秀な方になるけれど、顔は中の上位!? 自分に釣り合わないと思っているレイラインは、ミモルザの見ているのを知っていて今日も美しい顔の令嬢とイチャイチャする。 *沢山の方に読んで頂き、ありがとうございます。m(_ _)m

【完】まさかの婚約破棄はあなたの心の声が聞こえたから

えとう蜜夏
恋愛
伯爵令嬢のマーシャはある日不思議なネックレスを手に入れた。それは相手の心が聞こえるという品で、そんなことを信じるつもりは無かった。それに相手とは家同士の婚約だけどお互いに仲も良く、上手くいっていると思っていたつもりだったのに……。よくある婚約破棄のお話です。 ※他サイトに自立も掲載しております 21.5.25ホットランキング入りありがとうございました( ´ ▽ ` )ノ  Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.  ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)

離婚すると夫に告げる

tartan321
恋愛
タイトル通りです

処理中です...