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しおりを挟む結局、私はこの裕大さんと本格的に交際することに決めた。
結婚はしたくないけど近くに居られるように、今はシェアハウスという形で部屋を借りて住んでいる。別で暮らすのが楽だと進言したのだが、少しでも同じ時間を過ごしたいとのことで決行した。
私は自分のペースで生活をして、そこに裕大さんが気分次第で参加する。独りになりたい時はリビングを離れるし、平気な時はくっ付いてテレビを観たりする。
彼は自制が効くからモヤモヤし出したらスッと離れるし、私をぞんざいに扱ったりもしない。私を誘って抱いて、そのまま同じベッドで寝る夜もあるし自室に戻る日もある。
都合の良い関係と言えば身も蓋もないが、互いの利害が一致しているから問題は無いのだ。
今夜も。
「沙耶ちゃん、あ、あー……んー…気持ち良かった…」
「ん、私も…」
「……」
「裕大くん、部屋に戻っても良いよ?」
裕大くんのモヤモヤは、事後だと特に激しく膨らむ。ただでさえ投げやりな考えになるというのだから、賢者タイムだと尚更だろう。
しかし裕大くんは今夜、汗だくでも私から離れなかった。
「ううん…今日は、このまま……沙耶ちゃん、聞いてみるんだけどさ、」
「うん?」
「子供…そろそろ作る?」
「……んー」
実は私は、結婚に関心は無いが子供は欲しいのだ。共に暮らす家族を作りたいし、長い人生なので子育ても経験してみたい。
なんせ夫を作らない予定なのだから、血を分けた子くらいしか生きた証を遺せない。
裕大くんにはそのことは教えていて、父親役を頼みたいことも伝えてあった。彼は賢いし顔も良いし健康だし、子の成分としては申し分ない。
しかし、彼と共に育てるということに関しては気が乗らない。恋人である私とでもモヤモヤを隠せないのだから、幼子にでも同様だろう。目を離せない乳児期に「イライラするから離れる」なんてことをされては困るし、父親の顔色を窺わせるなんて子供の教育にもよろしくない。
「…沙耶ちゃんがメインで育てて、僕は今みたいに時々独りになるって感じになっちゃうよね」
「それを家族って言えるか、ってことよねー」
「だよね、定期的に居なくなるって…不審だよね」
裕大くんの独り時間は、実際にはそこまで長くはない。
日頃は仕事で離れているし、揃って休みの日に思い出して実感するくらいだ。むしろ常にリビングに全員集合している家庭は少ないのではないか。
しかし不定期かつ終わり時間が読めないのが面倒なのだ。私の手が空かない時に子供を見てもらえないとか、雄大くんが復調するまで出掛けられないとか、不便や不都合は増えるだろう。子供の泣き声も燗に触るだろうし、産後で私もイライラするだろうから彼にまで気を割けない。必要な時に戦力にならないなら、共に子育ては出来ない。
子供は欲しい。老後まで独りで生きていける力はあるが、家族が居るに越したことはない。
裕大くんと恋人のまま歳を取るのもありだが、元々の私の思想からしても「添い遂げる」ことへの不信感が拭いきれない。不確かな裕大くんとの未来よりも、血の繋がった子供との老い先のビジョンの方が遥かに予測がつきやすいのだ。
「私の母は独りで子育てしたしなぁ…お祖母ちゃんの助けもあったけど…無理ではない、かな」
「…ごめんね、歪な家族しか作れなくて」
「お互いさまだから、裕大くんを責めないって…私だって、籍を入れるつもりは無いんだし」
「未婚の母、同居彼氏あり…か…みっともないかな」
「事実婚ってことだよね、選択する人もいるよ。でも認知だけはして、あと養育費。私に何かあった時に、子供が困るし…」
まだ居ぬ子供のことを想い、二人でうんうん考える。
今の生活に子供がプラスされるだけ、でもイレギュラーが起きた時が怖い。
これまで結婚したくないことはよく考えたが、その先のことももう考えておかねばならない。どうしても必要か、どうなのか。
話し合いは数時間、夜空が明らんでくるまで続いた。
結果としては、私たちは1年間だけ妊活をして、授かれば産み授からねばやめようということにした。それは私の年齢のこともあって、行く先がどうなろうとも早めに産んでおかねば後が辛いと判断したからであった。
「無責任かな、ギャンブルみたい」
「そんなことない…沙耶ちゃんは何も悪くない」
「裕大くんも悪くないよ」
妊活をすると決めてから、裕大くんは更に仕事熱心になった。これまで断っていた仕事も引き受けるようになり、テレビCMに起用されることも増えて…忙しくなった。
在宅時間を減らして気を紛らわし、家に居る時はなるべく私と同じ部屋で過ごすよう訓練を始めたのだ。
すれ違いが増えて、短い時間を私と過ごして…裕大くんのエスケープはより頻繁になり、顔色も日に日に悪くなっていった。
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