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しおりを挟むとある冬の夜の鍋料理店の大座敷。
私が控えめに肉を拾い食べていると隣に知った男性が座り、
「御幸浜さん、あ、あの、今度、ぼ、僕と、デ、デ、デ…デート、しま、せんかぁ…」
と頭から湯気でも出すのかと言うくらい赤面して俯いた。
「(何言ってんの…?)」
今夜は店の女子メンバー数名での女子会、のはずだったのだが男性も上司もそれなりに参加して雑多な会になっている。
私…御幸浜栞・26歳はムラタの正規雇用ではなく派遣会社を介しての従業員だ。
もちろん業務は真剣に取り組み周囲ともコミニュケーションを図ってはいるが、必要最低限に留めている。
何故かって必要以上に仲良くする理由も無いし、嫌われなければそれで良いからだ。
幸いにも『御幸浜さんは呑み会には参加しないタイプの人』として認知され定着しているので、誘いがあっても申し訳なさそうに会釈するだけで断れるシステムが出来上がっている。
時代もあるのだろうがスタッフは日頃色んな人と接しているから人間のタイプをよく分かってくれている。
皆が皆呑み会を好きだとは考えていないし、不参加だからといって冷遇されたり後ろ指を指されるなんてことも無い。
つまりは私は職場の人間とは極めてドライで一線引いた付き合いをしている訳だが…今夜は珍しく参加している。
もうすぐ産休に入る先輩の壮行会を兼ねた女子会だからということで「たまには良いか」とOKを出したのだが、蓋を開けてみれば男女入り混じっての食事会だった。
こういう集まりが大好きな上司・宇陀川フロア長が無理矢理男性の参加をねじ込んだそうで、幹事も断り切れなかったそうだ。
何故そうまでして参加したかったのかは分からない。
女性にだらしないと嫌な噂ばかり聞く上司だから、低額で大きい顔ができる呑みの席が単純に好きなのかもしれない。
少なくとも部下の私たちは職場でもないのにペコペコしなければいけないし、頼まれれば頼まれなくてもお酌くらいしなければならないだろう。
元々が女子会で女子割合が多いと見れば下心が湧くのも当然か。
さて前述した通り私は最低限の付き合いに留めてはいるが同僚とは世間話もするし談笑だってできる。
ただいつ切られるか分からない派遣なのでそこまで深入りしたくないと思っていた。
派遣される会社自体に愛など持たないのでサラッとした付き合いだけで充分だ。
まぁ私は使える事務員なのでよほどの問題でも起こさない限り契約打ち切りにはならないだろうが。
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