そんなあなただからすき

茜琉ぴーたん

文字の大きさ
2 / 36
1

2

しおりを挟む

「あの…ダ、ダメかな…」

さておどおどと瞳を散らすこの男性は根岸ねぎし航介こうすけ・33歳、上司と言ってもムラタ所属ではない。

 彼は私の派遣元・甕倉カメクラスタッフィングサービス…通称『カメスタ』の管理者である。

 マネージャーとかラウンダーと呼ばれる彼らは私たちスタッフの働きぶりを派遣先へたまに確認に来るぐらい。

 契約更新の際に電話連絡を取るくらいの仲だ。

 なので接点と言えば同じ地区に居るということぐらいで、「困ったことがありませんか」という定期連絡にも「特にございません」としか返していない。

 そんな仲の人が何故このタイミングで私に声を掛けるのか。

 そもそも、派遣会社の社員が契約相手の呑み会に参加してはいけないはずだ。

 会社同士の癒着とか接待と取られたら他の派遣会社との不公平を呼ぶし、売り場に入っているメーカーの売り子さんだって同様に派遣先の会食には出ないよう厳しく言われている。


 だいたい何故私なのだ。

 年齢も離れているしナンパならもっと誘いやすそうな子にすれば良い。

 私はよく言えばクールな、悪く言えば仏頂面をメイクでコーティングしているだけの塩対応女なのだから。

「…何で、私なんですか?」

「え、えーと…あの、んー…」

 根岸さんは見た目は今時の優男というかスーツの似合う爽やか好青年だ。

 けれど緊張なのか女性が苦手なのか、話す時は目も合わないし酷くどもる。

 困り顔も可愛い系のイケメンだけれど別に求めていない。

 即答できないならますます誘われる意味が分からない。


「そもそも、根岸さんがここに来て良いんですか?」

「あ、それは大丈夫、あの、偶然同じ店に居た、ってだけってことにしてるから、うん、」

「はぁ?それって大丈夫じゃないですよね。上の人にバレたら怒られますよ」

「で、でも僕、今日は休みだから、うん、偶然、」

確かに彼は本日は休日のはず、服装もフード付きパーカーにジーンズとラフな格好だ。

 まぁ彼が今日参加の一般社員を接待したところで便宜を図ったりする力があるとも思えないから良いのか。

 しかし本来居ないはずの宇陀川が同席しているからややこしい。


 根岸さんはいつも宇陀川にペコペコ頭を下げて良いように使われている。

 接点は無いものの所属先の上司が情けない姿を晒すのは気分の良いものではない。

 宇陀川にだって派遣元と派遣員を選択する権限は無いけれど、根岸さんは私たちが働きやすいようにいつも必要以上に謙っては派遣先社員のご機嫌を取っている。

 「腹踊りしろ」と言われればきっと平気で脱ぎ出すだろう。

 プライベートの友人仲だと言われれば道理は合うのだが、明らかな上下関係が透けて見える根岸さんと宇陀川が揃って会に居るということに不自然さというか作為的なものを感じてしまう。

 今だって壁際の席から宇陀川がこちらをニタニタと窺っては嬉しそうに酒を呑んでいる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

処理中です...