そんなあなただからすき

茜琉ぴーたん

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「宇陀川さんに言われて私に声を掛けたんですか?」

と斬り込めば根岸さんはびくんと慄いて激しく首を横に振った。

「ち、違うよ、違う、い、言われたのは本当だけど、その、背中を押してもらったっていうか、ムラタさんの皆さんが呑み会するから『お前も来いよ』って…声掛けて頂いて…その、チャンスだと思って、御幸浜さんも参加するって言うから…あの、珍しいじゃない、こういう会に出て来るのって」

「こんな大規模にするって分かってたら来ませんでしたよ」

「あ、ご、ごめんなさい、その…えっと…」


 あぁイライラする。

 スパンと言いたいことを簡潔に言ってくれればさっさとあしらえるのに要領を得ない。

 宇陀川にけしかけられたのは本当なのだろう。

 だとすればショーじゃあるまいし人の恋愛模様をウォッチして楽しむなんて趣味が悪すぎる。

「あの、ご自分の意思でないならお誘いには乗れません。それとも、私が断ると宇陀川さんに怒られますか?ならこの場だけでもOKしたフリをしますけど」

「違うんだって、宇陀川さんは関係無くて…勇気を出せない僕を助けて下さってるんだ、僕が不甲斐ないから、」

「…だから、何で私なんです?私たち、仲良くないですよね」

「え」

身も蓋も無い言い方に、根岸さんはあんぐり口を開けて肩を落とす。


 「仲良くない」は言い過ぎだったか。

 しかし「仲が良い」の反対は「仲が悪い」であって、私はそんな険悪さを表したかった訳ではない。

 毎日顔を合わせる訳でもない管理職の人間性なんて、詳しく知るほど興味も無いし機会が与えられても「結構です」と断るのが普通だろう。


「えっと、あのー…そうだな、と、とりあえず隣で食べてて良いですか?」

「良いですけど…」

「ありがとう、ここの鍋は格別美味しいですよね、ね、」

「はぁ」

 特に弾みもしない会話。

 白々しく仲良しぶりを遠くの宇陀川にアピールする根岸さんは滑稽で…せっかく参加したというのに楽しめない。

 これで宇陀川の気が済むなら良しだが職権濫用が過ぎやしないか。

 私は元々彼が好きではないからその評価は余計に下がってしまう。

 なんせパワハラとセクハラの総合商社みたいな男なのだ。

 気に入った部下には馴れ馴れしく接するがいけ好かないと見れば粗雑に扱う、それどころか重箱の隅を突くように細かいミスや言葉尻を拾っては正論で負かすのだ。

 Aの対応をすれば「Bにすべきだった」と内線で小一時間くどくど説いて仕事を止める。

 もちろんBをすれば「なぜAにしなかった」とそれらしい理屈を捏ねる。

 たぶん他虐で自己を満たす残念な人種なのだ。

 それで人を蹴落としてフロア長に上り詰めたのだろう。
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