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しおりを挟むしばし車の中で待っていると根岸さんが戻って来た。
「すみません、お待たせして」
「いえ、お仕事の話でしたか?」
さて根岸さんはどう誤魔化すのだろう。
じいっと逃げる目線を捕まえれば彼は意図を汲み取ったのか、
「デートの進捗を聞かれました」
と正直に答えてくれた。
「…どう伝えたんです?」
「んー…ドライブして、昼を食べて、お茶をしました、と」
「向こうはご納得されました?」
「しましたよ、『感謝しろ』とまで仰いましたよ」
「へぇ」
きっと礼を述べて宇陀川を悦ばせたんだろう。
私は地元へ戻ろうと車を出す。
「……」
まったく良い趣味だな、ハムスターの雄雌を適当にゲージに入れて番になるかどうか外から眺める、そのハムスターになった気分だ。
尻を突いてアプローチを促して、寄り添う姿をニタニタと見下ろして、ひいては子作りするところまで確認されて…下衆なやり口だ。
純粋に根岸さんとのデートを楽しんでいたのに小汚い煙に邪魔されて有耶無耶になって散会しそうな雰囲気。
数分の沈黙の後に根岸さんはやっと口を開いた。
「無様だと笑って下さい、礼は言ってしまいました」
「……そうですか」
「でも、『もう放っておいて下さい』と…はっきり言いました」
「え、大丈夫なんですか⁉︎」
宇陀川からすれば飼い犬もしくは飼いハムスターに手を噛まれたような気分だろう。
好きに使っていた駒が逆らうとは予想していなかったに違いない。
これから根岸さんに不利益が出るのではないか、これまでよりもっと辛く当たられたりするのではないか。
もちろんそこまですれば出る所に出たって良いのだが、会社ぐるみの問題になると面倒もあるだろう。
安全運転を心がけつつも助手席にチラチラ目を遣れば、根岸さんは
「もう限界でしたから。うちの会社ごと契約を切られたらそれはそれですよ…僕としてはスタッフをあんな人の下で働かせたくないし」
と大きく伸びをして両手を天井に打ち付けた。
「いてっ……あは、あはは」
「…向こうは、怒ってましたか?」
「そうですねー…今までへーコラして来ましたからね、驚いたんでしょう。あの間抜けな声を聞けただけでも…僕は満足ですかね…クビになるかもしれませんけど、あはは」
「あははって…」
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