17 / 36
3
17
しおりを挟む根岸さんは吹っ切れたように深く息をして、打った手を摩る。
突き放すようなさっぱりとした顔をして気丈に振る舞うものの、擦り合わせる指先は小刻みに震えていた。
「…まぁ安心して下さい。御幸浜さんたち登録スタッフさんが路頭に迷うなんてことにはしませんから……夜にでも宇陀川さんに詫びの電話を入れますよ」
「どうして」
「小心者ですから。今は御幸浜さんの前だから気が大きくなってますけど、次第に切迫感に追い詰められて歯向かったことを後悔するでしょう。僕の頭ひとつで平穏な仕事が出来るならいくらでも下げますしね」
「ならどうして、さっきの電話も穏便に済まさなかったんですか?何となくで話を合わせて受け流せば良かったじゃないですか。私は…根岸さんが気にしないように席を外したんですよ」
敬ってもない人間に頭を下げねばならない不条理と嫌悪感、その情けなさを見ないことで私は根岸さんの面子を保とうとしたのに。
後々謝るなんて、普通よりもっと精神を削られる。
事が起きてから謝罪をするまでの時間は延びれば延びるほどに相手の怒りや驕りを増長させる。
人を貶して快感を覚える宇陀川なんかそれを利用して余計に大きく出るだろう。
昼の不義理をネチネチといびって言葉で詰めて、恫喝だってするかもしれない。
そんなことをされても根岸さんは「すみません」を繰り返して宇陀川を持ち上げるのだろう。
私は正直、どこに行ったって仕事は出来る。
人材派遣会社なんて山ほどあるし事務を必要とする職場なんてそこら辺に溢れている。
けれど根岸さんは私たちを管理する側、1店舗とはいえムラタなんて大手に会社ごと切られたら上からの叱責もあるだろう。
宇陀川に怒られた上に味方からも叩かれて、居辛くなり退職に追い込まれたりしたら…これまでの彼の頑張りが全て無に帰してしまうじゃないか。
もしそれで気を病んだりしてしまったら、次の仕事が決まらず腐ってしまったら、行方知れずになってしまったら。
オドオドしたりまったりしたり穏やかだった彼が見せる諦めの態度が気に掛かって、集中できないので車のハンドルを切りスーパーマーケットの駐車場へと入った。
根岸さんは驚いて、また諦め顔でため息を吐く。
そして「さっきの電話ね、」と目元を隠して前屈みになった。
「当たり障りないことを答えてたんですけどね、最初は。でも僕があまり御幸浜さんの情報を洩らさないもんだから、宇陀川さんも挑発して来たんですよ。『ホテルまで行ったら中継しろよ』とか御幸浜さんを侮辱するようなことを言って」
「はぁ」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる