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しおりを挟む「それで僕を怒らせようと煽ってる感じ、僕が愛想笑いで怒りを治めても向こうはどっちでも良い訳ですよ。言いたいこと言えてるんですから。僕は何を言われても構わないんですけど、さすがにね、御幸浜さんのことをごちゃごちゃ言われるのは我慢ならなくて…『放っておいて下さい』と、強めに言っちゃいました」
その重要な『私を侮辱する』言葉とやらは根岸さんの口から言わせない方が良いのだろうか、しかし気にはなる。
「あの、私のこと、何と?」
そう尋ねると根岸さんは口を一文字に結んでふるふると首を横に振った。
「…あの、それって、然るべき部署に言えばどうにかなるんじゃ」
「そりゃそうですけど、軽口だって言われたらそれまでですよ、証拠も無かったし…僕は表向きは仲良くしてましたから。穏便に流してれば満足されますし」
「なるほど…だから私を好きってことも話しちゃってデートに誘うことを強要されたんですか?迂闊過ぎるでしょ」
私と根岸さんはそもそもが会う機会も少ないし、まとまった会話もあの呑み会が初めてだった。
それで根岸さんの私への好意を宇陀川が察知するなんてことが出来るのだろうか…いや、奴がエスパーでもなければそれは難しいだろう。
つまりは根岸さんが「御幸浜さんのことが好きです」と自白した線が濃厚なのだ。
学生じゃあるまいし、「ねぇ、この中でどの子が好き?」なんて聞かれても何とか誤魔化せば良いものを。
しかしもしかすると立場を利用して自白を強いられたのでは、嫌々明かしたなんて線が浮上してきた。
顔を上げた根岸さんは表情が少し柔らかくなって、けれどあたふたと目玉をキョロキョロさせて、「そ、それはその…」と吃る。
「まさか脅されたんですか?」
「ち、違います…」
「持ち物を盗み見られたとか、痛い思いをさせられたとか」
いよいよ警察の香りが漂って来たら根岸さんはまた手で顔を隠して、
「僕の動きでバレたんですよ…仕草だけで、」
と背中を丸めた。
「はい?」
「巡店した時に、僕が御幸浜さんに話し掛けようと手を上げかけて戻したりとか、話し掛けようと口を開いたのに出来なくて黙って閉じたりとか、話し掛けようと目線が合うまで見つめてたりとか、その、あの、そういうキモい動きを全部見られてた、それですぐ『お前、アイツのこと好きなんだろ』ってバレたんです。だから、僕の恋心がバレたのは僕自身の問題でして」
「はぁ」
「僕は否定も出来ず真っ赤になって…それからずっと、『御幸浜にバラすぞ』とかネタにされていじられて…仕事に関係無い使い走りしたりヨイショしたり、あの呑み会もそう、僕を呼び出して御幸浜さんの隣に座るよう指示されて、そしてモジモジする僕を遠くから見て笑ってた…」
可哀想だけどなんだか間抜け。
当初の予想通り気弱な根岸さんのモジモジは宇陀川の格好の酒のツマミになっていた訳だ。
誘えても失敗しても奴は余興として楽しめるし、アドバイスや叱咤激励という形で弄り倒して遊べるしで奴に痛手は無い。
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