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6(最終章)
36(最終話)
しおりを挟む嗜めれば航介さんはコタツから出て私にずんずんと近付いて、お玉から水滴が滴れるのにも構わずむぎゅうと私を抱き締めた。
「何年もずっと前からこうしてたみたいに、結婚しても変わらず、過ごしていたいんです。新鮮さなんて無くて良い、慣れた感じで栞さんと暮らしたいんです」
慣れるほど月日は経っちゃいないのに変なの。
でも彼の言う通り愛情は長さではなく濃さと深さというのが正解なのか。
生活感のあるニットに顔を埋めてすんと嗅げば、粉末洗剤の爽やかな匂いがする。
「(うちのとは違う匂い)」
この人と居ると心が落ち着いて、時間の流れがゆっくりになる。
穏やかで気配りができて寛容で、損してばかりなのに人を許す優しい人。
つくづく思う、どうして私はこの人のことを頼りないだなんて見くびっていたのだろう。
はっきりものを言うことだけが強さではないのに烏滸がましい勘違いをしていた。
昼間だって、私に向ける視線があんなに柔らかく温かいものだったなんて知らなかった。
それどころか知らないことだらけ、なのに全てを許容し任せても良いと思えるほど心がこの人を受け入れてしまっている。
「(相性ってやつかな……良い匂い…)」
私を抱く腕は強くて簡単には振り解けない。
たまに意地悪で、でも顔色を窺ったりしてビクついたりして。
「栞さん?すみません痛かったですか?」
「……どうしよっかなー」
「何がですか、え?なに?」
「航介さんが損して困る顔、もっと見たいから保留にしちゃおうかな」
「悪女な栞さんも嫌いではないですが」
本気かどうか恐る恐る確認するその顔も愛しいの、
「もっと、航介さんのこと知りたい」
と口付けで返せば彼は意図が分からず更に困惑を見せる。
「栞さん?」
「ふふっ」
「分からない…OKですか?保留でしょうか」
「……まだ、」
耳元で囁けば航介さんはがっくり肩を落として、でも
「待ちますよ、僕は…我慢強いですから」
と改めてキスをくれた。
おしまい
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