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シューカとシンタロー
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しおりを挟む誰もが知っている自動車用品店チェーン、車検場も併設した大型店舗にて。
ゴテゴテにデコレーションされたシャコタン軽自動車を前に、持ち主である女性客へ整備士が事前の説明をしていた。
「お客様、これ…ナンバープレートのカバーとボルトキャップ、外してもらっていいですか?これ引っかかりますんで」
ここの整備士である守谷秋花は、まずは外装から気になる点を淡々と指摘する。
指差した先には可愛らしいキャラクターもののプレートカバー、表面はアクリルなのか透明だがイラストがナンバーの末尾に僅かに重なっていた。
「えー、可愛いのに」
「文字にかかると『隠してる』なってダメなんすよ。そもそもカバー自体がアカンので…キャップも…走行中に落下すると周囲の車両にも影響出るんで外してください」
「はーい…あ、爪割れちゃうからお姉さんが外して?」
二十歳そこそこの女性客は触るそぶりも見せずに秋花へ早々バトンタッチする。
「…こっちが外せないんですよ。破損になっちゃうと問題なんで」
「えー、でも私できなぁい」
「壊れてもいいなら剥がしますけど、補償しかねる旨書面いただきますけどよろしいですか?」
秋花は冷静に、半ば諦めたようにため息まじりで手袋を外した。
それはパーツを汚さず外すためではなく、これから作る書類を汚さないようにするための準備であった。
そこまですれば客は
「んー、めんどくさ…いいよ、剥がす…えい、取れた、これでいい?」
とカバーもキャップも外してくれたので、対応が怠くなってきていた秋花は胸を撫で下ろす。
「はいどうもー、あとフロントガラスのステッカー、これも外してください。視界不良で通せません。あと車検証お願いします」
「よいしょっ……えー、どこだろ…お姉さん探して?」
「関係ないところ触れないんですよー、グローブボックスじゃないですか?開けてみてください」
帽子で隠れた額には既に青筋が数本、下手に内装に触って文句を言われたくないし、書類の位置は所有者として把握しておくべきであろう。
「なにそれ?」
「えーと…荷物入れる所あるでしょう、…助手席の前の…」
「あー、あった、良かったね、」
「はーい……じゃ、ロビーでお待ち下さーい」
秋花は女性客を待合いに誘導してからまた手袋をはめ、点検を再開する。
「チッ…………あ?あー…これも?」
さらなる不具合を見つけた秋花は、機械音の中で豪快に舌打ちをして愚痴を漏らした。
秋花は働き出して8年目の自動車整備士である。工業高校の機械科を卒業して昔から懇意だった自動車関連業「ミズモリ車装」で住み込みで実務を積んで資格を取り、そちらが廃業すると同時に現在の大手チェーンへと入社した。
元々は歳の離れた兄と父の影響でモーターに興味を持ち、今でも車輪が付く物全般が好きで好きでしょうがない。
どちらかというと男性寄りのスッキリとした淡白な顔立ちに170センチの長身。男性陣の中に混じればやはり小柄だが「舐められないように」と脱色したシルバーのショートカットの髪と派手めなメイクで、ここらの車乗りの間では「ギャル整備士」としてちょっとした名物になっていた。
しかしそれはあくまでポーズであって、普段の性格は至って穏やか、自動車とその安全を守るために職務を全うすることを何よりの目的として働いている。なので外面だけ飾り立てて本来の機能を失うようなことはあってはならず…見た目に拘っているのは秋花もなのだが…車の安全性を損なうドレスアップなどは見ていて非常に腹立たしい気持ちになるのだという。
今車検を請け負ったこの軽自動車はまさにその代表のような車で、装飾品で本来の走行・安全機能が阻害されていた。
「シューカ、荒れてんな」
ブツブツと文句を垂れながら項目を確認していく秋花へ、先輩社員の車崎が声をかける。
「…んなことないっすよ、真面目にさせてもうてます」
「よぉ言うわ…しかし…えらい飾り立てて…車高も…これ通るか?」
「高さ自体はギリ大丈夫っすね…キャンバーも…システムも問題ないっすけど…使い方が悪いっすわ…こないインパネに物置いてたら事故った時何もなれへん」
フロントガラスの麓のインパネ・いわゆるダッシュボードにはモフモフした毛足の長いマットが敷かれ、ソーラーで首が振れる人形やぬいぐるみ、走行に関係無い物が行儀良く並んでいる。
「飾るくらいやから大切にしてんやろ、ええやんか」
「んー…でもちょいちょい改造してんすよね…お客さんはクルマのことあんま知らんっぽいし…彼氏とかがいじってるんかも…」
「あー、あるかもな。どれどれ……おー、中も電飾凄いな」
車崎は関心深そうに車内を覗き、足元のLEDの配線を確認しているようだった。
車検に電飾は関係無いのだがそれは単に彼の興味、車崎も秋花同様に自動車全般が好きなのである。
「安全性を確保した上でなら文句は無いっすけど……いざいう時に危ない目に遭うんはお客さんなんやから…キチンと指導してほしいわ…」
「真面目やな、ん、配線は問題無いで!しっかり頼むで」
そう言って車崎は秋花の頭を帽子の上からポンと叩き、持ち場へと戻って行った。
この気の良い先輩・車崎晋太郎は秋花より2つ年上の28歳、同じ高校の先輩でもある。
178センチでまあまあの長身、毛足を遊ばせた若者らしい髪型だが、作業帽をしているので日中はあまり関係無い。
垂れ目で重たい瞼のせいでぱっと見は不機嫌そうに感じるがその性格は明るく、笑った時の糸目と口から覗くガタガタの歯は愛くるしい。
秋花とは高校の軽音楽部で1年一緒に活動した仲だが、それ以前から車崎家は近所のミズモリ車装の利用客でもあったので、そこで手伝いをする彼女とは中学の頃に知り合っていた。
ミズモリは板金・ETCの取付・原付の取り寄せにナビの設定まで、何から何までしてくれるので大変重宝し、整備士を目指していた車崎青年も足繁く通ったものだ。
ミズモリ車装の廃業にあたり今の店舗を紹介したのも車崎で、秋花にとってなにかと信頼のおける先輩なのである。
ちなみにだが苗字の「車崎」と自身の「車好き」は重ねていじられることが多く、彼も「客に覚えてもらいやすい」と最大限利用しているらしい。
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