彼女は銀狼ギャル、ときどきコアラ

茜琉ぴーたん

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シューカとシンタロー

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 検査項目を確認した秋花はチェックシートを持って、ロビーで待つ女性客の元へと向かう。 
「お待たせしました。まずですねー、ヘッドライトとウインカーなんですけど、LEDに交換されてますよね、」
「うーん?たぶん?」
「……お客様がされたんじゃないんですか?」
あぁ話が長くなりそうだ、しかし秋花は顔色を変えずに事務的に説明を続ける。
「うん、別れ話してる彼氏が、色々してくれてるー」
「はぁ、交換した元々の電球、載せてないですかね?ヘッドは明るさが足りないのと、ウインカーは点滅速度が超過しちゃってるんで、OK出せないんですよ」
「えー、分かんない…変えなきゃダメ?」
女性客はくねくねとしなを作るも女同士なのだから効きはしない。
 秋花は帽子を取り半ば説教のつもりで相手の目を見つめた。
「ダメですし、危ないです。うちで用意してる物に換えてもいいですけど…もちろん料金は戴きますが」
「うーん…分かんないからお願い、乗って帰りたいから」
「はい、じゃあ換えてから再点検しますね…あと、キャ…車輪がこう…ハの字に拡がってるんですけど、あれもご自身の意思ではない感じですか?あと高さ…」
 指摘すべき所は全て告げ、直してほしいと言われた部分は後日改めて日を設けて予約を入れる。

 やれやれやっと済みそうだ…帽子を被り直して点検場に戻った秋花はパーツ置き場からランプを2種類拾って軽自動車に付け替えた。
 そして項目をオールOKにして再び女性客の所まで戻り最後の説明をする。
「お客様、あのー…そこ、ガラスの下ね、衝突とかした時に物置いてるとエアバッグとか安全機能が正常に作動しない場合があるんすよ。運転席はええかもしれませんけど、彼氏さんとかお友達とか載せた時にね、助手席の方を危険に晒すことになるんです。できれば飾りは置かんとってほしいです。あとそのドリームキャッチャーも…視界が悪なるでしょ、曲がった時とか、揺れて邪魔になりませんか?まだ免許取ってそない経ってないですから、しっかり気ぃつけて運転して下さい」
 真剣な眼差しと具体例が分かりやすかったのか、女性客は神妙な面持ちで頷き、
「うん…私も邪魔だと思ってたんだけど…彼氏がくれたから外せなくて……どうせ別れるし捨てちゃうね、」
と応えてくれた。
「それはご自由に……色々つつかれてて、タイヤ周りも高さも規定値ギリなので車検は通るんですけどね、そのー…改造なりなんなりはご自分の意思でしないと、不具合不都合出たときにこう…彼氏さんは責任負わないのでね、できれば管理はご自身で、していただきたいです。難しければ私たちみたいなプロに…任せてもらえたら…安全なので。……はい…では今回の会計が……」

 会計を済ませ玄関まで車を回して女性客へ受け渡すも、彼女はダッシュボード上のモフモフと装飾をごそっと丸めて助手席に下ろし、秋花へペコリと会釈をして発進させる。
 支払額にも納得してくれたし説明はちゃんと聴いてくれるし、悪い人では無いのだろうが命を乗せて走っているという自覚が欠如していて恐ろしい…秋花はそんな思いを抱いて彼女を国道へと送り出した。

「ふー…」
「おつかれ、休憩入り。さっきの車、大丈夫やった?」
事務所へ戻った秋花へ、カップのコーヒーを持った車崎が声を掛ける。
「くれるんすか?どうも……ライトを載せ替えててんけどアウトで…ウインカーも倍速でチッカチッカしてて…よぉあれで運転してんなぁて…まぁ交換したんでOKっすわ……彼氏がいじってんねんて、クルマ」
「はー、やっぱりか。彼女が乗んなら大事にしたらなアカンわなぁ、中のLEDは上手やったけどな、」
「シンタローさんは電飾好きっすね…まぁ中は走るのに影響あれへんからええけど…意味あります?」
 二人の自動車への思いの大部分は一致するが、車崎はもう少しだけ遊び心も持っていた。安全性と機能性、その上に快適性とお洒落。彼はデコレーションにも理解があるし自身の愛車も要所要所を飾って「車」という空間を最大限に楽しんでいる。
「意味なんか要らんねん。走るだけでカッコええのに更に光んねん、カッコええやろ、」
「んー」
「笑うてな、シューカ、可愛い顔が台無しやで、ひゃはは!」
車崎は歯を見せて軽快に笑い、次の仕事へと取りかかった。
「…確かになー」
 タイヤが付いているだけでカッコいい、例えそれが模型でもフィクションの世界の合体ロボでも、有無を言わさず惹かれてしまう魅力がそこにはある。ただ秋花は乗り物としての実用的な部分の保守管理をとことん努めたいだけ、速さを競うモータースポーツにもあまり興味は無かった。
「…ふぅ」
先輩から貰ったコーヒーをひと口、慣れた自販機の味に秋花は安心する。
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