彼女は銀狼ギャル、ときどきコアラ

茜琉ぴーたん

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4日目

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「ご当地バーガー、あれ食うて、コアラ見よ」
「コアラ、」
「おるねんて、行ったことない?」
「ありますけど、渦潮うずしおしか憶えてへん」
「あー、時間に余裕あったら見たいなぁ、」
 車内音楽は車崎の好みの洋楽、秋花はなんとなく知っているサビだけ口遊くちずさんでみた。
 ご陽気な車崎は曲の頭から鼻歌や英語の歌詞を口遊むも、高速にのってからはめっきり大人しく、会話と運転に集中している。
「シンタローさん、」
「うん?」
「私の…どこが好きなんすか?」
「え、せやな……今やないとあかんか?」
 てっきり即答できるものだと思ったので尋ねてはみたがそうでもないらしい。
 考えさせて手元が狂うと危ないので、
「いや、すんません。言わなくていいです」
と秋花は質問を取り下げた。
「即答は…んー…あ、SAサービスエリア寄ろ」
 「あと2km」の看板が出ると車崎は少し肩の力を抜き、静かになってしまう。
「(まずいこと聞いたかな)」
 『彼氏の浮気を追求するなら運転中』、秋花は真剣な車崎の横顔を眺めながらそんなトピックを思い出した。ひとつの事に集中していると脳の考える部分の働きがおろそかになり、嘘がつけなかったり誤魔化すのが下手になるそうだ。
 それを試したと思われたかもしれない、ゆるゆると速度を落として分岐へ入るワゴンの中で、秋花は降りてからの説教も覚悟する。

「よし……ふー……トイレ、済ませよか」
「はい、」 
とりあえずトイレと水分補給、二人は建物へ入り用を済ませる。

 トイレの前で合流して表の自動販売機へ、秋花はブラックの缶コーヒーを、車崎はカップのメロンソーダをそれぞれ買った。
「(かわいい)」
「なに?」
「いや、カラフルなもん好きっすね」
「色で選んでるわけちゃうよ…まぁ好きやけど……美味い」
 しっかりしているようで少年のようなあどけなさがあって、そんな事を意識すると途端に秋花は口元が緩んでしまう。
「ニヤニヤすんなて」
「してへんし……ふふ」
「そこ、座るか」
 広い駐車場を見渡せるベンチに腰掛け、二人はお互いに停まっている自動車に目を凝らした。
「シンタローさん、今入ってきたの、あれ、好きなやつ!」
「どこ、ほんまや!後期型や…どんな人が乗ってんねやろ……わ、結構おじさんやな…人生の最後の1台ってやつやろか…ええな…」
「あ、敢えて離れたとこに……いや、もう1台おる、前期型、おそろや」
「ほんまや…ツレか?たまたまか……自分と同じ車見つけたら隣停めてまうなぁ、」
まるでモーターショーか博覧会、車崎はミニカーのジオラマセットを覗く子供のように生き生きと目を輝かせる。
「お、欧州限定車や、シューカ、」
「シューカ見て、新しいやつ、電気でどんだけ実走いけんねやろ」
「ええなぁ、あ、あれ…段差あるで、行けんの、…あーほら、擦ったで、あない下げはるから…割れたんと違うか?可哀想に…」
 はしゃぐ先輩を横目に、秋花は適度に相槌を打ってコーヒーを飲み干した。

「飲んだ?よーし…俺、もっかいトイレしてくるわ。コレソーダ持っといて」
「はーい」
 まだ緊張しているのか、もしかして並々ならない覚悟を持って臨んでいるのか?秋花はそんな想像を巡らせる。例えば夕食後に解散するとは言ったけどその後…家まで送ってもらってお礼に部屋に上げて休憩して。
 そこで…何かあるかもしれないか、考えすぎか、トイレから走って戻って来る車崎を見て、彼女はそこで考えるのを止めた。



「どこが可愛い?」
「顔やと目ぇよ、初代の丸こいのも可愛いし、3代目のつり目になったのも可愛い」
「へぇ」
「あとケツな、ストーンと落ちてんのも可愛いし、丸こいのも可愛い」
「スポーツカーやのに、可愛いでええんすか?」
 運転中のこの話題は好みの女性…ではなく車崎の好きな自動車のパーツの話である。
「俺が男やねんから、乗られる車は彼女みたいなもんよ」
「あれは?後ろの。しゃくれてる」
 秋花が近づいて来る追い越し車線の車を見てミラーを指差せば、
「可愛いやん、受け口で。グリルがほんまに口の形して可愛い」
と惚れた女性を褒めるようにあらゆる部分をプラスに捉える。
「あっちの軽は?」
「軽はあんまし…お、でも気合入ってんね…いいね、」
大衆車をそのまま乗るも良し、カスタムするも良し、車に手を掛けているオーナーが彼は好きなのだ。
「シューカの車も可愛いよ、まず色がいい」
「私の好みちゃう、オトンのやから」
 彼女の愛車は亡父の形見、買って1年足らずでオーナー不在になったメタリックな青色のスポーツセダンである。
「ウイングも丸こくて可愛い」
「シンタローさん、丸いの好きなんすね」
「んー、なんやろ。女性的?」
「作り手は男性受けを意識して作ってると思いますけど」
「んー…しやったら申し訳ないね、でも車は恋人みたいなもんやから」

 コロコロとした軽ではなくゴツゴツした硬さ・強さの中にある軟らかさ、それは生きている女性に対してもそうなのか、秋花は骨張った手をぎゅうと丸めた。
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