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31(最終話)
「…ホラー観た後に2連チャンするとは思ってなかったなぁ」
心平は半分満足げに、半分は呆れ気味に呟く。
欲に任せて連続セックスすることはあるが、ムードが大事なので今夜は無いかと踏んでいたのだ。
いけたのはホラー鑑賞後の陰鬱な気分を打ち砕くほどに悠里が怯えて可愛かったから、そして自身の情熱を疑われて悔しかったから。でもなんだかんだ"抱きたかったから"、心平の呆れは自身の欲に対してのものでもあった。
「次は、アニメ映画にするよ…」
「なんでも良いけど」
猛りを解放させた後の心平は穏やかな顔つきになり、いつも悠里の体を労り丁寧に拭いてくれる。傷付いていないか良く目視で確認して、赤みなどがあれば困り眉になりすぐ薬を持って来る。
甲斐甲斐しくて、協力的で、気持ちを優先してくれて…悠里は心平の動きを目で追って、ふいと目を閉じた。
「心平くんの、優しいとこ、本当好き」
「…なに、いきなり」
「意思表明。いまだに気弱なところも、好きだよ…ずっと、」
「…うん、ずっと、」
数年前、二人の間には子供を設けるかどうかの話し合いがあった。それはもちろん実子ではなく、養子を取るか里親になるかということだった。
家族の形を成すのにその選択肢もありだと双方が考えており、社会貢献にもなるだろうと情報を集めたりした。
心平が30代になるのをキッカケにそんな提案がどちらともなく出たのだが、会議の末に却下となった。いくつかの条件に合致せず、結局そこをクリア出来るだけの熱量が足りず断念したのだ。
ひとりっ子王子さま気質の悠里は、歳下の者への愛想や付き合いが上手になっていた。しかし心根はまだまだ自己愛が強く、自分を取り巻く家族と心平以外に対しては関心が浅い。それを越えて子の父になるのも、子で克服するのも自己中心的な考えになる。なので、人の親になるには意識も資質も欠けていると諦めたのだ。
ならばせめて事業の方で若者と触れ合い地域貢献しよう…悠里がスポーツクラブのインストラクターに志願したのには、そんな背景もあった。
心平も、もし子を迎えれば悠里が嫉妬して暴君になってしまうのではという懸念があった。幼い子と大きな王子の面倒は手に余る、悠里の意見も聞き心平も同意した。
漠然とイメージしていた"二人の子"が惜しくはあるものの、互いの人生を互いで保障し合う決意が生まれた。
なので二人は将来を見据え、「ずっと」「一生」なんて言葉を使うことが増えている。
どこで終わるかなど、分からない。でも半永久的に、二人は隣に並んでいたいと願っている。
「…さて、悠里くん、お風呂入らない?」
「うん、新しいボディーソープ買ったから試したい」
「わぁ、良いね」
「サンプル嗅いだけど、良い感じの匂いなんだー、背中流してあげるー」
悠里は心平をリードして、浴室へと向かう。心平は笑みを湛えて、ついて行く。
「(たまにはリードさせてあげなきゃ、悠里くんはストレス溜めちゃうんだよね)」
「(エッチなら従うけどね、行動力は僕の方があるんだから)」
悠里が王子さまでいられるのは心平の配慮と思いやりがあるからで、悠里はさながら裸の王さま、もとい裸の王子さまで。
心平はそんな悠里を愛らしいと感じている。
頼りない心平とワガママ悠里、二人は青年になり大人と呼ばれるに充分な年齢になった。けれど根は変わらず、それが良くもあり悪くもあり。
変わらないのは悠里から心平への慕う気持ち、後から生まれた心平が悠里を愛おしむ気持ちも長く続いている。
そして、いまだに残る少年の遊び心が、二人を完全に大人にはしてくれない。
「本当、良い香りだね。泡立ちも良い…すべすべだ、悠里くん、これで抜いてあげようか?」
「…やだよ、まじまじ見られたくない」
「じゃあ、触るだけでも。悠里くんのおちんちん、良い香りになるよ」
「やだ、ちょっ…もォ、心平くん!」
キャッキャと楽しげな笑い声が、白い浴室に充満する。跳ねる湯、舞い上がるシャボン玉、湧き立つ優雅な香り。
転ばないよう加減をして、取っ組み合う大人二人。誰も邪魔しない、邪魔の出来ない二人だけの世界。
はしゃぐ二人はたまに静かになっては笑い、ご機嫌に真剣に、
「好きだよ」
「好き♡」
を投げ合うのだった。
おわり
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