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しおりを挟む「…今日も呟いてない…」
私の日課である起床ツイートを日常アカウントでしてから趣味アカウントへ切り替え、タイムラインを追って。
ポチポチとハートマークを押しては生存確認を行って。
推しの芸人の最新情報をさらい、出演情報をチェック。
最後に友人の呟きを確認しようと鍵アカウントに移動して…ため息をつく。
少なくとも何かしら毎日呟いていた私のフォロワー「ルイスさん」が、ここ1週間めっきり動かなくなっているのだ。
「まさかご病気…?」
つい先週まで楽しく好きな芸人の話をしていたのに、彼女は数日イイネも押していないし共通の推し芸人『ネヤガワラ』の呟きにも反応していない。
「あ…どうしたんだろ…」
何か不手際があったか、不用意な発言で気分を害してしまったか。
過去の呟きを読み返しても思い当たるものは無いし、なにより最後の絡みでは「またね」と会話を締めている。
連絡が途絶える、ある日突然アカウントが消える、ネット上だけの希薄なコネクションにおいては「不通」は「離別」に限りなく近い。
「このままアカ消しとかされたら………むり、むりむりむり…」
友人、心の支え、話し相手、同志。
リアルかネットかなんて関係ない、その存在が消えかけただけで私は仕事も手につかないのだ。
ルイスさんとの付き合いはまだ1年足らず。
文芸投稿サイト『ぴくさ』に細々と推し芸人ネヤガワラの創作小説をアップしていた私に、初めてダイレクトメールで感想と激励を送ってくれたのが彼女だった。
『トンボさんの作品、いつも楽しく拝見しております。私もネヤガワラのファンです。今回の作品、寝屋川のロケハンに行かれたのですか?そのくらい役所の描写が繊細で………』
彼女は読む専門の人で芸人や有名人を題材にした創作を好み、捻った細かい拘りポイントも見つけてくれた。
書き手冥利に尽きるとはまさにこういう事を言うのだと実感させられる。
私の作風にぴったりハマって下さった彼女は私よりもネヤガワラのファン歴が長いらしく、当然私が知らないトピックスを沢山持っていた。
ダイレクトメールだけではもどかしいと交流の場をSNSに移せば、少し言葉はくだけたもののやはり丁寧な物言いをする方で、その上品さしなやかさと外国人女性のアイコンがまた「ルイス」というハンドルネームにピッタリとマッチしていた。
新しい話題は刺激になったし、テーマやアイデアとなってこちらの創作の幅も広がった。
自分さえ楽しければいいと思って書いていた物が「作品」として彼女に認められ、さらに素人の私のファンとまで言ってもらえて嬉しかった。
作品以外にもテレビ番組の話や人生観、時にはネヤガワラのネタや作中に登場したエッチな話題まで、リアルな友人たちよりも深い話ができて本当に実り多い関係だったと思う。
毎夜仕事終わりに数回やりとりをして寝るのが日課となっていて、癒しであり娯楽でありまさにコミニュケーションであった。
「はー……あ、あっちで、」
どうにか仕事を終えて帰宅した私はパソコンから『ぴくさ』を開き、過去のダイレクトメールから彼女へ返信した。
『ルイスさん、最近浮上されませんがどうかされましたか?もしこちらに何か不手際がありましたら説明する機会をいただきたいです。ご連絡お待ちしてます。』
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