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「お待ちどおさまー、てまり御膳ですー、茶碗蒸しはあっついから気を付けてね」

「はい、いただきます…」

「ごゆっくり、」

先ほどの男性が運んでくれた料理を少しずつ摘まむ、温かくてじんわりと出汁の風味がして、どれも美味しい。

 箸をつける前に写真を撮れば良かったな、そんな事を後で思うくらいには私は元気になっており、バランスを考えずに茶碗を先に空にしてしまった。


「ご飯、おかわりする?」

「あ、お願いします…」

「あいよ、」

 メインの天ぷらはほとんど残っているのに汁と漬物と刺身だけで一杯完食、恥ずかしいが旅先での恥は掻き捨てと言うし気にしないことにする。

「はい、お客さん、…好きなものは後に残すタイプ?」

「はい、あ、すみません、揚げたてをいただかず…」

熱いものは熱いうちにが客としてのマナーだろうに、もてなしを無碍むげにしてしまったと慌てて受け取った茶碗を卓上の盆に置いた。

「ええよ、好きなタイミングで食べて。お客さん、ええ食いっぷりやから気持ちがええわ、ふふ」

「猫舌で…はは…恥ずかし…」

「食後にコーヒー持ってくるからね、ごゆっくり」



 細やかな心遣いに感謝しながら適温になった天ぷらをいただき、茶碗蒸しまでペロリと平らげた頃に、また男性が席へ来る。

「下げるね、コーヒー持ってくるからね、」

「はい、ごちそうさまです」

「んー」

 客を案内するのも厨房の仕事なのだろうか、はたまた微妙な時間だからホールスタッフのシフトが終わったのか。

 私は変わらず客ひとりの店内でのびのびとコーヒーを待った。



「はい、これはおまけね」

男性がコーヒーと一緒に卓へ置いたのは角に切られた自家製プリン、メニューに載っていなかったサービスである。

「あ、ありがとうございます……美味しい……いいお店ですね」

「いつもはしてへんよ、お客さんがネヤガワラ好きの同志やから、サービスよ」

「ふふ…同志…いい言葉…」

甘いプリンに苦いコーヒー、これを飲み切れば終わってしまうこの心地よい時間が名残惜しい。


「お客さんは…地元の方?関西弁とちゃうね」

「はい、あの…住まいは西京区なんです…進学で岐阜から来まして…こっちでお笑い番組観るようになって、観光で劇場にも行って…新人だった彼らにハマっちゃって…」

「ほー、そりゃええわ…地元でも知名度低いから…貴重なファンやね。ん、したら学生さん?」

「いえ、もう働いてます。普通のOLです」

「へー…ぇ」

 男性はにっこりと切れ長の目を細めたのち、

「へぇ…西京区……岐阜…………なんや…デジャブやな……ネヤのどんなとこが好き?」

と呟いて目玉をぎょろぎょろと動かし記憶を辿るように斜め上を見つめた。


「えーと…言葉遣いがコテコテの大阪弁でカッコ良くて…以来SNSでチェックしてます」

「ほー……ちなみに…好きになったキッカケはなんのネタやった?好きなキラーフレーズとか…?」

「7分の『森の女』でしたね…そこの『しやけどあんた、』ってところ…」

 相方に向かってボケ担当が言うセリフ、私はそれにびびっと胸を打たれたのだが、男性は目線をこちらへ向けて、

「………あのー失礼やけど……気ぃ悪くせんとってや?……SNSとか……いや、推しの小説とか……書いてたりする?」

と、普段なら絶対に聞かれない質問を投げてきた。
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