胸に手を置かれたら、朋也くんのことしか考えられないじゃん。ー無気力系後輩がグイグイ来るのは想定外でしたー

茜琉ぴーたん

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2…胸が躍る

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 それからウーロン茶が席に届いたら料理の注文をして、ささやかに二人で乾杯した。

「はい、乾杯」

「乾杯」

「……ふあ~、生き返るねぇ~……矢向くん?」

 ぷはとグラスを置くと、その向こうの彼は不機嫌そうに私を見つめている。

 眉間にシワが寄っているのが、居酒屋の暗い照明でくっきり影が付いて分かりやすい。

「早めに答え貰っていいすか、生きた心地がしないんで」

「あ、そうだね…」


 私は居住まいを正し、

「矢向くんのことは、異性として意識したことが無くて、その…」

と演説を始める。

 通路を店員さんが歩く音、酔った客の馬鹿騒ぎの声が私の緊張に拍車をかける。

 しどろもどろになっていると、カチャカチャ食器のぶつかる音がして正面で止まった。


「枝豆と冷奴ひややっこでーす」

「あ、はい」

 わーいと箸を取る私、一層仏頂面になる矢向くん。

「ご、ごめん」

「いーっすよ、食べながらでも」

「うん、それでだね、その…あ、このお豆腐美味しいね」

「はい」

 特選大豆使用と書いてあったし実際美味しいのだが、別段言うことではない。

 そう指摘したい意思が矢向くんの視線からひしひしと伝わる。

 彼は諦めたのか、枝豆をポチポチ剥い口に入れ始めた。


「(照れ隠しが乱暴だったな…いや、恥ずかしいじゃん…)」

 黙々と食べていると、串盛りとだし巻き玉子も卓に揃う。

 ツヤツヤな黄色に「わー」と喜んでいると、「くすっ」と矢向くんが吹き出した。

「…どしたの、矢向くん」

「んふふ…いや、面白いなって。だし巻き玉子にそんなリアクション取るのが」

「そうかね…」

 だって綺麗なんだもの、ひと切れ取り皿に移して醤油に手を伸ばすと、その手に大きな手が重なる。

「元宮さん、料理は揃いました。邪魔は入らないんで、ぼちぼち答えて下さいよ」

「あ、そうだったね…ごめん」

「それが答えですか?」

「え、いや、違う、」

「答えたくない、引き延ばすだけ引き延ばして焦らす、そんなに断りにくいんすか」

「違うって、あの…」


 醤油の上で掴まれた手は、少し湿ってきている。

 そしてその手を掴む矢向くんのそれも同様に、汗なのかじんわり湿りを感じた。
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